第56話✤閑話:聖とメルトの依頼記録:4

 やってまいりましたエルモス山鉱山の側面へ。

 気配察知で大きな反応があるかどうかとメルトと一緒に答え合わせをして、メルトが感知出来た場所に行くことにした。

 メルトはまだサーチ系と鑑定系のスキルが生えてないせいか、まだあやふやなんだよな。

 スキルって割と最初から持っている先天性のものと、跡から努力で生やす後天性のものがあるから、持ってないスキルはやってみないと生えるかどうかわからない。

 ただ、勘が鋭い人がサーチ系や天啓なんかのスキルを持っているかというとそうでもないので、ここら辺は地道な確認作業といえる。

 メルトの場合、魔族の王……魔王の娘っていうのもあってその辺のスキル取得は難しくはないと思ってる。


「父、あっちに大きいの三匹いる」

「んじゃ行ってみようか」

「はーい!」


 メルトを先頭にてくてくと鉱山中腹付近まで歩いていく。

 何がいるかは俺のサーチ系には丸解りなんだけれど、メルトの成長の為に何も言わずについていく。


「あれー。ただの大蜥蜴リザードだった」

「そうだなー。でも割と大きな個体だし鉱石を食べるようになれば鋼大蜥蜴メタルリザードには進化するかな」

「大蜥蜴の気配は解ったから、次は大炎蜥蜴フレアリザードを探してみる!」

「よし、その意気だ!じゃぁあれ、やっちゃおうか」

「うん!殺ってくるね!」


 というとてもいい返事のあと、メルトは大蜥蜴の死角から近づき、魔力を込めた風刃斬フインドブレードであっという間に首を刈り取った。

 雑草のごとく首チョンパされた大蜥蜴はなんかくぐもった声を出そうとして絶命し、その死体をメルトは『獲物専用魔法鞄』になっているいつもの巾着袋に押し込んだ。


「父、大蜥蜴って美味しい?」

「子供は肉が柔らかめで串焼きにするとおいしい。その位まで育っちゃうと肉質が固くなるから煮込みかな」

「煮込み……」


 ふむ、と考えながらメルトは次なる方向を見た。


「父、あっちにでっかいのいた!」

「おう!行こうか!」

「うん!」


 メルトさんや、それはビンゴです。

 山頂付近ちょい下あたりにいたそれをメルトは早速引き当てた。

 なんだサクッと終わりそうじゃん、とか思ってたんだけれどね……。


「父。大炎蜥蜴フレアリザード二匹いる」

「いるなぁ……。番かもしれない」


 そこには真っ赤な炎のようなオーラを纏った大炎蜥蜴フレアリザードが二匹いた。

 しかも卵守ってません??


「……いってくる……」

「無理そうだと判断したら手を出すからな?」

「うん」


 メルトはまず、氷壁アイスウォールを複数出して二匹を分断し、1対1に持ち込んだ。

 うん、いい判断だな。

 そこからはメルトの独断だった。

 掛けよりざまに目の前の1匹に対して監獄プリズンという束縛系魔法を掛け、そのまま動きを封じると周辺に水場を召喚、これは生活魔法のウォーターの拡大版だ。

 そこから水と氷系範囲攻撃を絶え間なく続け、二匹をルイベにしたところで終了。

 とりあえず首を切って二つあった卵共々収納した。


「父、ちょっと疲れた……」

「そうだね、気負ってたせいかちょっと魔力こもり気味だったな。でもおめでとう、メルトの成果だよ」

「えへへ……、嬉しい……」


 そういうとメルトはふらりと俺の方へ倒れ込んだ。

 魔力を使い過ぎたせいで眠りに落ちたんだろう、所謂子供の電池切れ状態だ。


「本当に良く頑張ったな。まだ8歳なのにな……」


 利発だしハキハキしてるし割と怖いもの知らずなのでつい忘れがちだが、メルトはまだ8歳なのだ。

 今回の様に格上かもしれない相手に全力で戦えばこうなるのもしょうがない。

 俺はメルトを背負い、鉱山を降りた。



 ◆◇◆◇◆



「ヤタさん。終わったからギルマスに連絡しておいて」


 メルトを背負ったまま出張所にいるヤタに声を掛ければ、ヤタさんは頷いた。


「このまま帰られますか?」

「うん。メルト寝ちゃったしね」

「わかりました。こちら、連絡馬車の時間表とチケットです。今回は有難うございました。それとヴリトラは降格処分か三か月のボランティア参加のどちらかになります」

「その辺は任せるよ。チケットありがとうね」


 そういやそんなのもいたな、と思い出す。

 受け取ったチケットを持って、俺は連絡馬車の発着場に歩いて行った。


「おや。また会いましたね」

「あれ?ライナーさんもこの時間まで?」


 行きで話していたライナーさんがほくほくと大きなリュックを背負って発着場にいた。


「お目当てのイイモノは手に入りました?」

「ええ。あと本当に小さいクズ石なんですが、属性魔鉱石もあったのでそれも購入できました。まだ何に使うかは決めてませんがこれからが楽しみです」

「何かいいアイデアが浮かぶといいですねえ」

「お嬢さんは疲れてしまったのかな?」

「ええ、山のあたりを歩いてましたので……」

「そうですか……。あ、こちら、お嬢さんに……」


 と、何本目になるか解らないペロちゃんキャンディをライナーさんからもらい受けた。

 ほんと、ここの人らってペロちゃんキャンディを常備してるのかね??




 ギルドに戻って報告して、リザードの素材やらはメルトが起きてから決めるって話て、お宿に戻って来たた枢が帰ってきていた。

 大量に食材を購入できたようで、明日もまたふらついてみたいとウキウキハイテンションだった。

 うんうん、枢が楽しそうで俺も嬉しい。


 そして、メルトが起きてきてから本日の成果を見せると、枢はこてんと首を傾げながらこう言った。


「ここの街の人らって、ペロちゃんキャンディを常備してるの??」





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