第55話✤閑話:聖とメルトの依頼記録:3

 エルモス山行きの連絡馬車はすぐ見つかり、そのまま出発した。

 御者さんに聞いたら1時間程で着くという。

 席に着いてガイドブックを見ていたら、隣から声が掛かった。


「おや、おふたりは観光か何かで?」


 声を掛けて来たのは濃い赤毛の40歳位の男性だった。


「私はライナーと言いまして、魔鉱石の研究をしている学者であり、職人です。今回は手持ちの魔鉱石が少なくなってきたので仕入れに行くところなんですよ」

「アキラです。こっちは娘のメルト」

「メルトです」

「魔鉱石って、簡単に買えるもんなんですか?」


 魔鉱石って、ギルドとか国管理だったような?


「ああ、小さなクズ石ならお土産屋にもありますよ。私は購買資格を持っているので、月の個数制限はありますがある程度大きなものも購入可能なのです」

「へぇー。魔鉱石って実際はどんな感じなんですか?」

「そうですね⋯⋯」


 ライナーさん曰く、魔鉱石は魔石と同じく魔力が内包された石ではあるんだけど、鉱石だけあって鍛造による精製が可能であり、金属板にすれば武具や魔道具にも転用可能なんだそうだ。

 それに、鍛冶スキルでの鍛造の他に錬金術による錬成、純粋に魔力でガツンとやる鍛錬方法があり、ライナーさんは錬金術スキルを補助にして魔力でがつとやるタイプだった。

 それに属性魔法を練り込んで、用途別に魔力の継続時間を調べたり、効果を検証したり、魔道具を作ったりしているという。


「手広くやりすぎて成果はゆっくり目なんですけどね、色々とやりたい事だらけで⋯⋯」

「あー、解ります。あれこれやってると別の発想が降ってきて、気がついたら範囲が広がるんですよね」

「そうなんです、そうなんです!」


 エルモス山に着くまでの1時間、すっかりライナーさんと話し込んでしまった。

 メルトは鞄から本を取り出して、大人しくしていてくれたんだけど、『父、物作りオタクだから仕方がない』的な視線がな⋯⋯。

 うん、反省。


「そういえば、お二人の目的は?」

「ちょっと爬虫類を探しに!」

「メルトも!」

「⋯⋯爬虫類⋯⋯?」


 ライナーさんは首を傾げるが、それ以上は聞いてこなかった。


 ライナーさんと別れて、エルモス山の鉱山口にあるちょっとした村に入ると、まずは総合ギルド出張所に向かった。

 こういう局地的な場所にはたまに冒険者が魔物を間引きにくるので、冒険者、商業、鍛冶ギルドがそれぞれ職員を派遣してひとつ所で出張所を営んでいる。


 そこに幼女連れの若い男が来たらねぇ⋯⋯?


「おいおい、若いのがどんな用なんだ?観光ガイドが欲しいなら隣の建物だぞ?」


 受付カウンター手前で立ちはだかったのは屈強!て感じのいかにも冒険者です!てオッサンだった。

 周りの連中を見ていると、やれやれと言った感じで見てるだけだったことから、よくあるんだろうな?


「うんにゃ。ちゃんと冒険者ギルドからの依頼だよ。そこの受付のおにいさん、冒険者ギルドのエンターさんからなんか聞いてない?」

「えっ!あ、はい!聞いてます!聞いてます!ヴリトラさん、その人はギルマスが派遣してくれた方なので、害すれば処罰対象になりますよ!」

「あんだぁ?ヤタ。おかしいとはおもわないのか?ギルマスがこんなヒョロい、幼女連れたやつに依頼なんかするかよ!」


 と、掴みかかってきたのでヒョイと避けてその手を掴み、ダンスのターンのようにくるりと縦に一回転させ、そのまま着地させた。

 うん、完璧。

 ヴリトラはといえば、何があったのか理解できないまま、呆然としていたので、横を通り過ぎてカウンターまで歩いていった。


「話聞いてるならいいや。今から行ってくるからよろしく」

「解りました。あの、娘さんも御一緒に?」

「うん。今回は娘がメインになるかなー」

「⋯⋯そ、そうですか⋯⋯。お気をつけて」

「はーい!」


 と、くるりと振り向いた瞬間、目の前にはヴリトラが拳を振り上げていた。


「父に!なにするの!!!」


 お?

 俺は余裕で避けられるんだが、メルトが間にはいってくれた。

 メルトはヴリトラの懐に滑り込むと、跳躍して顎を強く蹴りあげた。

 そのままひっくり返るヴリトラ。南無い。

 だけどメルトさんや、暴力は⋯⋯。


「父、こう言うのは立て続けに心を折って行かないとダメ。躾だいじ!」

「アッ、ハイ」

「ヤタさん。今回のことギルマスに報告して」

「は、はい!すぐに!」

「周りのみんなもやっちゃダメなことくらい、ちゃんと教えてあげて!躾は、だいじ!」


 メルトが周りにいた連中をぐるりと見渡すと、方々から頷く声が帰ってきた。

 いつにも増して気合いが入っているメルトにしてみたら、目前の小石を退けるのと大差ないんだろうなぁ。

 俺らはそのまま出張所を出ると、大炎蜥蜴フレアリザートの目撃情報が多い場所⋯⋯山肌がむき出しになった中腹を目指した。


「あれ?そういやあれはテンプレだったな?」

「父、天ぷら?」

「テンプレート、かな。冒険者ギルドで絡まれるやつ」

「メルトはテンプレより天ぷらがいい」

「そだな。あー、天ぷら蕎麦食べたくなったな」

「メルトも!」


 帰る頃に、枢に連絡しとくかな。

 天ぷら蕎麦食べたいです!って。

 とりあえず、お昼は共有フォルダにあるサンドイッチかな。


 よし、頑張って大炎蜥蜴フレアリザート探そう!そうしよう!

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