第23話✤絶滅した·····ような?

 20階層に降りた瞬間、近くに破落戸冒険者の協力者の残り2人が居たので、気配遮断と遠間からの弓での狙撃でお陀仏さんに。

 ぽぽい、と死体用巾着袋に入れて冒険者カードを回収しておく。

 あとは奴らがいるセーフティエリアまで一直線だ。


 所で、セーフティエリアだから戦闘行為は出来ない、と思ってませんか?

 出来るんです。

 何故か武器と魔法は使えなくなるんですが、徒手空拳ならダメージが通ります。

 つまり·····。


「往生せいや!オラァッ!」


 聖さん大暴れです。

 とりあえず、普段使いの滑り止め付グローブ(某働く男専用のお店通販品)ではなく、厚めのライダーグローブに衝撃保護と貫通を付与しておきました。

 素の攻撃力が高ければ高いほど、エグくなります。


「ひいいい!!お前らなんなんだ!!いきなり攻撃してきやがって!」

「通りすがりの冒険者だ!覚えておけ!!」


 覚えるまもなく、処されると思うんだけどねぇ。


「父、殴り合いも出来るんだね」

「昔は武器を使うと力加減が出来なくて、過剰戦力オーバーキルになってたから、格闘術をメインにしてた時があったからねぇ」

「メルトも格闘術ならいたいなぁ」

「じゃあ、聖に後でお願いしようか」

「うん!」


 とりあえず、僕らはセーフティエリア外からの観戦とした。

 近くにいると目をつけられるからね。

 これでメルトや僕に危害が加わりそうなら聖は肉片すら残さず消滅させるだろう。

 特等席とは言わないまでも、セーフティエリア内での戦闘行為の参考に·····はならなそうだな。

 一方的すぎる。


「くっ!この!強えー!」

「はははは!やぁやぁ我こそは世界の重宝、聖槍なり!遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!以下口上略!罪状読み上げ略!鉄!拳!制!裁!」

「ぎゃーーー!!!」


 1人また1人と地面に沈んでいく様は、どこぞのデスプロレスか。

 一応、お上からは討伐OKがでてるし、聖も生け捕りよりかは殲滅戦の方が得意だしで、はっきり言って地獄絵図だ。


「メルト、辛いなら見てなくていいよ」

「ううん。冒険者になったからにはこういう依頼もあるんでしょ?それに、メルトは父のように強くなりたいから·····」

「メルト·····」


 8歳の言葉では無いな、とは思う。

 聖や前の僕が居た日本ならまだ小学生出し、お友達と好きな物や趣味の話しで日々平和に楽しく過ごす年齢なのにね。


「メルトね、冒険者になったこと後悔したくないから」

「そう·····」

「でも、今日は父と母と一緒にお風呂入って寝てもいい?」

「メルトならいつでも入ってきていいんだよ?」

「いつでもはちょっと·····」


 父、ハッスルしてる時あるし、と続けられる。

 あ、はい。ソウデシタネ。


「最近のBランク冒険者って大したことないのな」


 冒険者カードと巾着袋を片手に、セーフティエリアから戻ってきた聖はそう呟いた。


「熟練度の差だとは思うよ」


 実際、聖に格闘術を教えこんでくれたのはBランク冒険者だったけど、アイツらよりも数段も腕が立っていた。


「さて。前菜は済んだし、ボス部屋いかね?」

「·····父」

「·····聖」


 ふひひ、と笑う聖にため息が漏れる。

 やはり目的がボス部屋の確認にすり変わっている·····。

 確かに気になるし、調べて報告もしないとなんだけどね。


「メルト、できる範囲でいいから手伝ってくれな?」

「うん!」


 では行きますか。

 20階層のボス部屋へ!



 ◆◇◆



 ボス部屋はカオスワールドでした。

 確か冒険者ギルドの情報では、動物系モンスターのどれかの上位種だったはず。

 融合していたとしてもその枠の強化版みたいな感じかな、と思っていた時期が僕にもありました。

 なんだろうね、あれ。

 僕の記憶が確かならば、世界的ヒット作でシリーズ化もされたあの巨大生物映画のアレだ。


 Tレックス。


 後期白亜紀に生息した、獣脚類に属する最強の恐竜。

 ソレに似たモンスターがそこにはいた。

 周りはお察しの通り、ヴェロキラプトルが五体。

 中生代白亜紀後期、東アジアの大陸に生息していた獣脚類の小型肉食恐竜だ。


 聖を見る·····目がキラキラしてる。

 メルトを見る·····目がキラキラしてる。

 あ、これダメなやつだ。


「枢!枢!!生きてる!生きてる恐竜!!恐竜いきてる!!カッコイイ!」

「母!母!!あれ図鑑でみたやつ?父と母のいたとこで何万年か前に絶滅したってゆー、あれ?」


 子供達大歓喜。

 そうですね、恐竜ですね。

 なんでそんなのがこのダンジョンに出現したかっていう疑問を持って欲しい。


「·····あれ、倒せるの?」

「まぁ、やってみないとってとこかなぁ?鑑定!」


【ティラックス/獣/混沌】

 データなし


【ヴェロトル/獣/闇】

 データなし


「ボスの方、属性が混沌なんだけど?」

「何とかなるだろ。こっちには聖槍コイツがあるし」


 そういえばそうだった。

 属性が混沌だとほぼ攻撃が効かない。

 でも一応、神器なら攻撃は通る·····はず。


「行くぜ!聖槍ちゃん!能力解放ウェイクアップ限定解除リミットオーバー!八握聖の名に於いて目覚めろ起源殺しの槍ロンギヌス・トラペゾヘドロン!」


 聖が空間収納から聖槍を召喚し、石突をココン、と打ち鳴らす。

 すると、普段はグレイブのような見た目の槍が光り輝き、形状変化した。

 白銀に光る槍は神気を纏い、高濃度のオーラがチリチリと音を立てている。

 久しぶりに見たけど、美しい槍だ。


「ヒャッハー!ドラゴン肉だー!」


 言い方!いいかた!

 せっかくカッコイイなとが思ってたのに!


「ドラゴン肉?!母!あれドラゴン肉なの?!」

「恐竜だから竜·····ドラゴン·····んんん???」


 どうなのそれ。

 何はともあれ、肉がドロップするといいね。

 焼いたら美味しいのがいいなぁ。

 ははは·····。

 僕とメルトはとりあえず、索敵範囲外に引いてから、防御結界を張って覗き見ている。

 聖は神速を使い、恐竜の攻撃など意に介さず、あっという間に五体の取り巻きヴェロトルを一掃した。

 ドロップは·····どれどれ·····。


「母!肉!」

「肉·····でたね」


 ありましたよ、肉。

 ヴェロトルの肉·····あっさりしてて低タンパク質で美味しい、と。

 ジビエか!


「あ、他にも素材落としたね。竜骨とか牙とか仙骨とか」

「ふーん」


 興味ないですか、そうですか。

 護符とか霊薬とか使役系のアイテムになるのに·····。


「あ!父が!」

「ん?」


 ティラックスと対峙した聖が槍を投擲し、その土手っ腹に槍をぶっ刺した。

 そこから槍を避雷針として雷系の単体魔法を打ち込むつもりだろう。

 力技だなぁ。


「聖ー、部位破壊はー?」

「あ!忘れてた!」


 こういうボス系は頭、腕、脚、尻尾等を先に潰しておくと、部位破壊ボーナスが貰えることがある。

 この敵にそれがあるかはわからないけれど、やっといて損は無い。


「よいしょっと!」

「ギャオオオオ!」


 聖が尻尾を切り落とし、ビチビチ動くそれを蹴り飛ばして端に寄せた。

 聖さん?戦い方がほぼヤンキーでしてよ!

 尻尾を切り落とされ怒り狂ったティラックスは全身を赤く染め、こちらを見やると聖を他所に突進してきた。


「きゃっ!」


 それと同時にメルトが小さな悲鳴を上げた。

 は?お前、爬虫類の癖になにメルトを怖がらせてんの?

 お前ごときデカブツが?

 うちの子を威嚇した罪は重いよ?


「歯ァ食いしばれ爬虫類野郎が!」

「その命、神に返しなさい!」


 聖は背後から槍で、僕は真正面から拳でティラックスの頭部を同時に叩き潰した。


「枢、やったな!」

「聖もお疲れ様」


 イェーイ!とハイタッチする。

 全く、メルトが夢に見たらどうするんだ。


「母も凄かった·····」


 スゴクナイヨー。

 タダノサポーターダヨー。


「さて、ドロップは·····」


 と、ティラックスのドロップを確認する。

 まず、肉がでてる。

 これには2人とも喜んだ。

 質のいい赤身肉30キロと、サシの入った霜降り肉20キロ、もも肉30キロ、頬肉5キロ、希少部位肉3キロの3種類。

 他には皮、牙、爪、目玉、骨、内蔵、血、魔石等。

 一応はドラゴン種と似たようなドロップだったが、肉が多いからか、2人ともものすごく喜んでいた。

 うん、赤身肉はビーフシチューにしようね。

 ヴェロトルの肉もあったから、当面は楽しめそうだね。


「んじゃ、帰るかね」

「そうだね」

「おーにくー!」



 ニコニコしながら僕らは地上への転送陣に飛び込んだ。

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