第18話✤死霊系の倒し方
ボス部屋の中身はリッチにハイ・ワイトのダブルボスと、死霊騎士三体、レイス二体という団体さんだった。
「メルト。今更ながら生命の杖、貸す?」
焼け石に水だろうけれどないよりはマシ程度の効果はあるはず。
「ううん、大丈夫。属性武器、持ってる」
「そう?じゃあいつも通り危なかったり、ダメそうなら聖が何とかするから、無理しないこと」
「はい、母」
そう言ってメルトが取り出した武器をみて、頭を抱えた。
よりによってそれかー!
スプレータイプのそれは僕がたまに使うやつだった。
【聖水噴霧器セイブリーズ】
アンデット系に効果抜群。
武器に掛けると聖属性が10分間エンチャントされます。
直接掛けるとひと吹きで嫌なゾンビも匂いと共に完全消去☆
魔力しだいではリッチも滅殺!
ハッピー聖水ライフに欠かせないアイテム!
※使用されている聖水は神皇国の大司教が肌身離さず数年間祈りを込めた十字架を、聖水に漬け込んで作られたエクストラヴァージンホーリーウォーターです。
説明文さんが不穏な文言を吐き出してます。
なんか物凄く貴重なやつなんじゃない?
聖を見ると、サッと視線をそらされた。
確信犯だな、アイツ·····。
「いや、だって他に聖属性をエンチャント出来そうなのってなかったから·····。なら聖水かければいいけど普通のだと効果時間微妙だし、だばだば掛けるのもなんだかなーって、ならスプレーに入れればよくね?って·····」
「つまり?」
「面白半分でとんでもないもん作りました。ゴメンなさい」
たしかにとんでもないし、世に出回ればヒット商品間違いなしではある。
冒険者にしても、教会関係にしても。
聖水の質と本人の魔力しだいで倒すのに苦労する死霊系が狩りやすくなるのだから。
「でもあの聖水はない。過剰戦力だよ、あれじゃ」
「いやでも。マリウスの奴が面白いもん作ったから面白いことに使って!て100本ほど寄越した死蔵品だったから·····」
マリウス!あの見た目詐欺の聖力バカ司教め!
マリウス大司教は聖と同い年の青年だ。
あの当時はまだ勇者の身の回りの世話をするため、派遣された司教見習いの少年だった。
聖とはいい友人関係となり、戦闘には直接参加しなかったものの、聖が帰ってくる度に労い、笑わせ、心身ともにケアしてくれていた。
軍師の僕だとどうしても親役になっちゃうからね。
戦争終結後、神皇国の勇者に対する扱いや、再利用方法等、メルトの存在も込でグダグダ言ってたのを、わずか2年で腕力と聖力、プラスして僕の戦略で黙らせ、非公式ながらメルトの後見人として契約してくれたのはありがたいけれども。
儚げで生真面目で世界を憂いて嘆いてそうな見た目なんだけど、性格ははぼ聖。
つまり、年相応の好奇心やお茶目、イタズラもするやんちゃな青年なのだ。
ついでに、僕に生命の杖をくれた司教様のお孫さんにあたる。
なので僕のことは枢兄様と呼んで懐いてくれているのは有難いのだが·····。
「とりあえず面白いもん作ったらレポートくれ、て言われてるからメルトがんばれよー!」
「はーい!まーにーにーのために頑張るー」
メルトも承認済みか!
はぁ、仕方ないから僕も効果の程をよく見ておこうかな·····。
大司教さま直々に作られた聖水の効果なんて、滅多に拝めないし。
なんて呑気に思っていた時期が僕にもありました。
セイブリーズ、つおい。
まずハイ・ワイトがひと吹きで消し飛んだ。
断末魔の叫びが驚愕と悲しみに満ちていた。
ほかの取り巻きも余波で消え去り、残るはリッチのみ。
リッチさん、困ってる困ってる。
知能がある分、メルトが手にしたスプレーが得体の知れない強力な武器であることは理解してるみたいだけどね。
「神妙にお縄につくのだ!これにて、成敗!」
「!!??」
メルトは加速を使い、リッチに三方向から聖水を噴霧した。
メルト、お縄についてない。消滅するから。
「〜〜〜〜??!!」
憐れな、本当に憐れなリッチは何も出来ないままドロップ品だけ強奪され、消えた。
南無い。
「父、母!ドロップ品!」
メルトがホクホクしながらかき集めてきたドロップ品には、宝箱が3個含まれている。
その他には宝石のあしらわれたホーリースタッフと、これまた宝石だらけの短剣。スキルスクロール2枚、帰還の宝珠、帆船のボトルシップだった。
ホーリースタッフと短剣には聖属性効果しかなく、ただの美術品のようだ。
スキルスクロールは空間収納(小)とアルティメットホーリーブロウという格闘系の聖属性打撃スキルだった。
帰還の宝珠はダンジョンの入り口まで連れていってくれるもので、使用回数は10。
宝珠関係のアイテムは大体が使用回数つきが多い。
たまに無制限というのがあるけど、かなりのレア物だ。
そして帆船のボトルシップ。
あれ?と思って鑑定してみたら、やはりそうだった。
これ、海や水に投げれば瓶の中の帆船が実体化するやつだ。
「お!ボトルシップ!すごいなメルト。この中の船で海や川を行くことが出来るぞ!」
「ほんと?なら次は海にいきたいな!」
「いいぞいいぞ!なら次は海な!」
「やったー!」
後の宝箱は幸い罠も掛かってなかったので、普通に開けた。
1つ目の宝箱には金貨1000枚入った魔法鞄になってる巾着。
2つ目には宝石がゴテゴテついた宝石箱。中には大粒の宝石やアクセサリー類が数個入っていた。こちらもただの美術品かな。
3つ目は手のひら大の小さな紙の束。これには全部に同じ魔法陣が描かれていた。
「この魔法陣て·····」
「セーフティエリア用の結界陣か?」
「だよね」
この魔法陣が書いてある紙に魔力を通せば、5m四方の結界によるセーフティエリアが発生する。
ある程度の魔物からは見えなくなる便利機能つきだ。
「これらはメルトのものだから、将来使うといいよ」
「うん!」
将来、僕らがそばにいない事があるかもしれないからね。
そんな訳で、15階層クリアである。
メルトもつよくなってきたなぁ。
魔力特化の万能型魔族で聖の作ったトンデモ武器込みとはいえ、8歳でこれは末恐ろしい。
「母ー!お腹すいたぁ」
「じゃあ次のセーフティエリアでご飯にしようか」
「うん!」
とはいえ、まだ8歳だ。
力加減や周りとのすり合わせはこれから覚えて行けばいい。
今後もちゃんと、親で居られたらうれしいな。
さて、16階層からはモンスターが強くなる。
メルトには聖も支援に入ることを伝えておいた。無理はよくない。
そんな状況のためか、セーフティエリアは1階層ごとに2箇所、設置されている。
丁度、3分の1と3分の2あたりに1箇所ずつ。
階層自体は1時間も歩けば次への階段に辿り着くので、20分事にセーフティエリアがあるKさんだ。
しかし、これはモンスターに遭遇しなかった場合で、16階層以降はエンカウント率高めになっている。
なので戦闘込みだと1時間はかかるだろう。
それに、パーティ全滅を危惧してか、セーフティエリアには緊急帰還用の魔法陣も設置されている。
1人金貨1枚と高額だけど、命には代えられない。
もし、お金が無くても素材を買取ボックスに入れれば大丈夫。金貨1枚分で発動するスグレモノなのだ。
買取ボックスは一抱えくらいの大きさの木箱で、中に素材を入れると登録冒険者ギルドに転送され、少し待つとお金が転送されてくる。
高レベル冒険者はこのシステムを利用して、持ちきれなくなったアイテムを売るついでに、中にメモを入れ指定金額分を携帯食で支払ってもらったりしているそうだ。
べんりー。
僕たちは魔法鞄もあるし、ご飯もたっぷり用意しているから使ったことは無いけどね。
聖はこの箱に15階層のボスの詳細を手紙に認めて、レッドさん宛に送るといっていた。
なるほど、そういう使い方もあったか。
まずは次のセーフティエリアを目指しましょうかね。
メルトや聖じゃないけれど、少しお腹空いてきたし。
セーフティエリアまでの道のりが楽でありますように·····。
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