第17話✤ボス部屋まではラピッドで。

 予定通り11階の途中にあるセーフティエリアで一泊することになった。

 時間を見れば夕方の6時になっており、丁度良い時間と言えた。

 通販で買った衝撃に強くてごつくて、更に吹っ飛ばされても無事だったこの時計のシリーズは愛用している。

 セーフティエリアには他にパーティはいなかったため、隅の方に天幕と敷物を展開して一息つくことにした。

 まずはお茶とお菓子で一息ついてから、お風呂でゆっくりすることになった。

 ごはんは作り置きがあるし、出た人から好きなものを食べることにした。

 先ずはメルトが先に。最近は一人で入れるので送り出す。

 着替えやタオルを自分で用意して、お風呂場に向かった。

 僕と聖は15階層までのモンスターの情報を確認することにした。


「11~13はやはり昆虫系だけれど、13が外骨格強化系の昆虫がいるな」

「ああ、カラムシ系だっけ。あの他の昆虫の甲殻を利用して自分の守りにするやつ」

「そうそれ。カラムシ系の厄介なところ取り込んだ甲殻の数によって防御値があがることと、その甲殻の属性が追加されることなんだよなぁ」

「どんな属性になっているかは鑑定するか、魔法を撃って試すしかないんだよねぇ」


 13階はカラムシ系だけでも厄介なのに、軍隊アリ系の群れでリンクしてくるものも少なくはない。

 獰猛な螳螂系や突っ込んでくるカブトムシ系とか。

 斬っていなくはないけれど、どちらかというと有利なのは鈍器系か。

 メルトにソードメイスでも渡しておこうかな。

 でもメルトの事なので「私なぐる」って言って篭手系の打撃武器を要求されそうだ。

 ……なんか見繕っておこう……。


「14,15はアンデット系だけれど、14だけはグール・スケルトン系15は死霊系だな」

「グールか。臭いんだよねぇ」

「まぁ、口で息をすればまだなんとか……。あ、ガスマスク系通販で買うか?フィルター系の鼻と口だけ覆うやつ。あのでかい昆虫のいる有名アニメみたいなの」

「メルトが我慢できないっていったらね」


 あってもいいんだけれどね。

 そこらへんはメルト次第ってことで。


「死霊系はうろついてるのはレイスとかウィスプなんかのゴースト系。ボス部屋はデッドリーレイスや死霊騎士がメインか。上位が居てもリッチあたりかな」

「8階の事もあるから、エリダーリッチとかゲシュペンストとか出てきたらお願いね。僕、おじいちゃんなので」

「はいはい。まぁおじいちゃんはあんなに甘い声で啼かないけ……いてぇ!」

「……」


 ふふふ、キジも鳴かずば撃たれまいに、ですよ。

 メルトがいないからってこのエロ勇者様は。


「今のメルトの実力ならリッチ程度なら時間を掛ければ行けるけれど、それよりも上位ランクだったら問答無用で手を出すわ」

「そうして。でも少しは対峙させてあげてね。これも経験だから」

「はいはい。お母さんは存外スパルタなんだから」


 15階までの方向性が決まったところで、メルトがお風呂から上がってきた。


「はは、飲み物ー」

「おかえり、メルト。はい、冷えた柑橘系の果実水だよ」

「ありがとう」

「んじゃ先に枢が風呂入って来いよ。俺はメルトに15階までの説明しておくから」

「そう?ありがとう。なら先に入らせてもらうね」


 僕は二人にいってくるね、と伝えてからお風呂へ向かった。

 魔法鞄から着替えと果実水が入った水筒、お風呂セットを取り出した。

 着替えを籠にいれ、着ていた下着類は籠の中に。

 そろそろ洗濯するかな。

 外套や基本の布装備なんかはハンガーにかけて洗浄クリーンの魔法をかける。

 これでいつでも綺麗なんだけれど、どうしても洗濯するという工程を挟みたくなるのは元日本人だからだろうか。


 うちのお風呂は四畳半位の大きさのスペースに、直系1.5mほどの大きさの円形の湯舟が置いてある。

 特殊な鉱石と保温効果のある属性魔石を砕いて練り込んでから焼成したもので、陶器の様なさわり心地のものだった。

 実はこれ、軍の払い下げ品である。

 あの時は王族なんかも結構な人数が参加したため、本陣はやたら豪華な作りになっててね、ベッドから食事から何かと高級品が使われ、この湯舟もその一つだった。

 戦争が終わって、聖が僕とメルトと共に雲隠れかつ放浪するときに、これらの備品を協力者の計らいで払い下げしてもらったのだ。

 なので、使っている食器類なんかも格安で手に入れたものだ。

 金と宝石で作られたカトラリーとか、いざって時に金になるからって協力者が問答無用で押し付けていったな。

 まぁそんな感じで、日本人大好きお風呂関係は充実しているのだ。

 桶は例の黄色いプラスチック品のアレだしね。

 ちなみに、洗浄液は全部無香料品を使っている。

 匂いで色々と聞かれたりするのが面倒だからね。

 ちょっといい石鹸を大量購入しているのでそれを使っている、髪の毛はオイルとハーブを調合してつけてます!ていえば大体は納得してくれる。

 レシピ?飯のタネなので教えません、ていえばOKなのだ。ははは。

 上から下まで洗い終わって、持ち込んだ水筒の果実水を飲みながら湯船につかる。

 平和な時ならここでビールなんか飲んじゃうんだけどね。

 セーフティエリアとはいえ、今はダンジョンだしね。

 10分ほど浸かって充分に癒されてから、僕は乾燥ドライの魔法で髪を乾かして風呂場を後にした。


「おまたせ。聖、お風呂にいっておいで」

「はーい」

「父、いってらっしゃいー」


 聖が最後に部屋全体に洗浄魔法をかけ、湯舟の水は濾過清浄をしてくれるだろう。

 ありがたい。

 20分ほどで聖が戻ってくると、丼ものご飯が食べたい、と口にした。


「丼物でいいなら、かつ丼、からあげ丼、親子丼、豚丼、ソースカツ丼、スタミナ焼肉丼、麻婆豆腐丼あたりがあるよ」

「かつ丼、からあげ丼、麻婆豆腐丼をそれぞれと、豚汁あるならそれが欲しい。副菜は酢の物があれば」

「タコとワカメと胡瓜の三杯酢、モズク酢、根菜のピクルスがあるよ。あとは浅漬け」

「浅漬けとピクルスがいいな」

「わかった。……はい、どうぞ」


 聖の前に言われたものを出すと、麻婆豆腐丼から蓮華で食べ進めていった。

 僕とメルトは先に、ビーフシチューとパン、スモークチキンサラダで済ませた所だ。


「はー、美味しかった。ごちそうさん」


 結局、親子丼と豚丼も食べきってから、聖は手を合わせて食事を終えた。

 いつ見てもいい食べっぷりだ。

 だから料理を作るのが楽しいんだよね。


「さっきメルトとも話していたんだけれど、トラブルがなさそうなら15階のボスまで一直線でいいよな?」

「メルトがそうしたいならいいよ。でも無茶はしない、なにかを感じたり、不調だと思ったらすぐに言う事、いいね?」

「うん。メルトがんばる。やってやんよ!」

「……」


 うーん。確実に聖っぽく育ってきている気がしなくもない。

 軌道修正入れられるかなぁ?


「じゃぁ歯を磨いて寝ようか」

「はーい」

「おーう」


 こうして、11階層での宿泊は何事もなく終わったのだった。



 ◆◇◆



 さて、やって来ました15階。

 超高速ダンジョン行進劇だったんですけれど?

 聖がメルトに、ちょっと倍速気味で行軍してみるか?なんて提案するから……。

 メルトも興味持ったようで、どうするのか聞いていたし。

 要するに小走り程度の速度で階段まで一直線に歩いて行き、襲ってきた敵だけをその都度倒しているというやつである。

 鍛錬だと言って重さ50キロの石を詰めたリュックを背負いながら……。

 高レベルの身体強化の魔法が掛かっているので、50キロ程度は理論的には大丈夫、らしい。

 メルトは最初は重そうにしていたが、コツをつかんだのかサクサク小走りで移動できるようになった。

 流石万能型……。僕らは後をついていくだけだった。

 結果、約6時間で15階層のボス部屋手前まで来てしまったのだ。

 メルトはその事実に笑い転げ、今度やる時は重りを増やすと言っていた。

 いやいやいや、そこまで脳筋にならなくていいんだからね?


「父、母。ボス部屋に参ります」

「気を付けるんだよ」

「がんばれよ」

「御用改めである!」


 と、三人でボス部屋に突入したんですけれどね。

 メルトさん、その掛け声……なに?

 



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