第169話 時は流れていく その一
夏休みが終わり、俺達は東京に戻り学生生活が始まった。同じマンションに早苗と涼子が住んでいる。
歩いて二分も掛からない所には玲子さんと四条院さんが住んでいるマンション、直ぐ側に加奈子さん専用のマンションがある。
朝夕の食事は早苗が作ってくれている。まあ俺は料理が壊滅的なので仕方ない所だ。カップ麺位出来るぞと言ったら、スパゲティの袋を投げつけられた。
洗濯もどうせ一緒だからと言って俺の分も洗濯してくれるのはいいが、バルコニーに女性の下着がぶら下がっているのは、外から見えないとはいえ抵抗を感じる。
掃除も同じだ。これだけ話すと、俺は○○の美少女に駄目にされた件とかというどっかのラノベに似ているが、元々駄目なのでやっぱり違うか。
後期の履修科目は俺、早苗、涼子、玲子さん、四条院さん全員同じだ。だからと言う訳では無いが、いつも同じクラスに出て、同じようにお昼を食べ、同じ時間に帰って来る。
大学では有名なグループだと噂を小耳にした事がある。まあ、これだけ可愛い子達が一緒に行動すれば有名になるのは当たり前に思う。
だけど男子学生が誰も声を掛けてこないのは、いつも一緒にごっつい奴がいるという理由らしい。誰がごっついんだ!
そして日曜日は、加奈子さんのマンションが近い事もあり、朝から夜遅くまで一緒だ。最初不満顔の早苗も慣れてしまっている。
このまま、何も無ければ全員が四年後には卒業してそれぞれの仕事に就くだろう。違うのは早苗が俺の妻になるという事だ。そして、その時点で俺と加奈子さんは内縁の契りを交わす。
ただその前、加奈子さんが二十歳になった時、次の三頭グループの総帥が加奈子さんである事を正式に国内外にある三頭家の全グループ内の上層部の人間と各国の首脳に公表するパーティが開かれる事になっている。
そのパーティには、立石家、立花家も招かれている。何度かに分けて開かれると加奈子さんから聞いている。
俺は大学卒業後、立石産業の社員となると同時に加奈子さんのサポートに入る。
これだけ決まっているなら、学生生活をもっと気楽に自由にしたいが、加奈子さんから言われた涼子の件については、俺自身何も答えが見つからないまま、時間を過ごしている。
この事は俺と加奈子さん以外知る由もない。早苗にも言えなくなった。涼子の両親には文書で提示すると言ってしまっている以上、何かの代替案を示す必要がある。勿論それは涼子が納得する内容でなければならない。時間だけが過ぎて行くが解決策が見つからない。
俺達は今、二限目が終わり、構内の学食にいる。そしてその涼子は、俺の前に座って
「達也今度の土曜日、買いたい物があるの。一緒に来てくれないかな」
一瞬で早苗と玲子さんが目を吊り上げたが、俺は
「ああ、いいぞ。何処に行く?」
「渋谷、ちょっと見たいお店が有って」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そういう事なら私も一緒に行くわ」
「なに言っているの桐谷さん。偶には本宮さんと達也さんが一緒に買い物に行っても良いと思いますよ」
「えっ、立花さんどういう意味?」
「そういう意味です。他意はありません」
ふふっ、こうすれば普段桐谷さんに独占されている達也さんを彼女からフリーに出来るし、こういう事実は作っておいた方がいいわ。私も同じ立場になれる。
「あ、ありがとう。立花さん」
「いえ、偶には良いと思います」
立花さん、自分も同じ事しようとした時に話を有利に進める為に既成事実を作ろうとしている。悔しいけど、私もデートなら達也と二人でしたい。ここは譲るか。
「分かったわ。達也、本宮さんの買い物付き合ったらいいんじゃない」
えっ、なんだこの雰囲気は、いつもなら二人で大反対しているのに。でも早苗と玲子さんが良いというなら俺が断る理由もない。
そして土曜日、同じマンションにいるのでエントランスで待ち合わせして、涼子と一緒に渋谷に出かけた。
俺達は地下鉄に乗りながら
「ふふっ、嬉しいな。こうして達也と一緒にふたりだけで出かけられるなんて。夏休み以来だね」
「そうだな。ところで今日は渋谷で何を買うんだ?」
「うん、冬物を買う。やっぱりこっちに来て分かったんだけど、周りの人の着ている洋服が、やはり流行りだなあって思って」
「そうか」
俺は洋服にあまり興味が無いが、涼子は女の子だ。やはり流行に興味あるんだな。この雰囲気だと、俺が入れそうにない店に行きそうにないな。良かった。
「ちょ、ちょっと。涼子この店は?」
「えっ、どうしたの達也。冬物を買うの」
「でも、ここは」
「いいから」
お店の中にいるご婦人たちが怪訝な目で俺を見ている。多分の俺の顔は、茹でタコより赤い茹でタラバガニじゃないだろうか?
「達也、これどうかな?どっちがいい」
ほぼ目を閉じている俺は、何も考えずに右人差し指を出した。
「えっ、それ。達也こういうの私に着けて貰いたいの?!」
ちらりと目を細く開けると、俺が指指したのは、涼子が選んだものではなく、な、なんとスケスケの上下。
お店の店員も俺はスケベ親父かという顔で見ている。誤解だ!
「あっ、いやちょっと、これは…」
「達也、私がこれ着けてしたいの?」
「い、いやいや、悪い御免」
流石に耐えきれなくてお店の外に出た。店の中を見ると涼子と店員が笑って話をしている。やられた。
涼子がお店から出て来た。紙袋を持っている。
「涼子、酷いじゃないか」
「でも、達也があういう下着好きだなんて思わなかったし」
「いや、あれは、その…」
「だって指さしたでしょ」
「だから間違いだっ…」
涼子が俺の腕に抱き着いて来た。
「ふふっ、分かってる。達也今度は普通のお店行こうか」
「…………」
それから有名なデパートを回って冬服を二着と靴を一足買った。靴は俺がプレゼントした。
「達也、食事したら行きたい所がある」
「ああ、いいぞ。今日は涼子と一日付き合う日だからな」
「うん、ありがとう」
こうしていると、すれ違う男女が涼子の事を必ず見て行く。最近一段と可愛くなった。やはりこっちに来て周りからいい影響を受けているからかな。
ご飯を食べ終わった後、
「達也、行こうか」
「何処に行くんだ?」
「こっち」
ふふっ、渋谷はG○○leマップで調べてある。あれが何処にあるのかも。
「達也ここに入りたい」
「えっ?!」
ラブホ街ではないけど、ビルが多いなと思って涼子と一緒に歩いていると入りたいと言われたのは、一見ビジネスホテルだけど…。
「疲れたから休も」
「でもここは」
「達也、休むだけだから。休憩、休憩。ねっ!」
腕を引っ張られた。
……………。
「ふふっ、新しい下着着けて見る?」
「…………」
――――――
たつや~ぁ!
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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