第162話 玲子さんの事情
俺、立石達也。加奈子さんとの夏休みが終わった翌日、俺は自室でのんびりとしている。妹の瞳は朝から出かけている。学校の友達と会うとか言っていた。
午前十一時位にスマホが震えた。画面を見ると玲子さんからだ。そう言えば休みに入る前に彼女から何も言われていない。当然会わないのだろうと思っていたのだが。
『はい』
『達也さん、玲子です。今宜しいですか?』
『構わないですが』
『今からお会い出来ませんか?』
いきなりのお願いにちょっと驚いたけど、特に何もする事は無い。構わないだろう。
『いいですよ』
『では、デパートのある駅の改札で午後一時に』
『分かりました』
二時間後だ。長い様で中途半端な時間だ。する事もないので好きな本を読んでいると、途中母さんが昼食の用意が出来たと言って呼びに来た。
午後一時に会うなら二人で食事をする事も無いだろうと思って昼食を済ませてから支度をして出かけた。
改札に二十分前に着いて待っていると、五分前にいつもの様に改札からではなくデパート側の道路から歩いて来た。白をベースにした花柄のワンピースを着ている。
「達也さん、お待たせ」
「さっき着いたところです」
「達也さん取敢えず喫茶店に入りましょうか」
「はい」
SCの中に有るローラ〇シュレイ、女性では人気のお店だ。ちなみに男は俺一人。ちょっと抵抗がある。注文を終えると
「達也さん、夏休みの計画はどうなっています?」
俺は、涼子と会う日、早苗との旅行の日、それに鍛錬の日程を説明すると
「そうですか、あまり時間が空いていませんね。本当は私も達也さんと二人で旅行に行きたいのですけど」
「嬉しいお誘いですが、それはお断りします」
「何故ですか。あの事なら気になされなくていいですよ。無理強いはしないので」
何となく目元が笑っている。あまり言葉を信じる気は無いが、
「でも行く日にちが…」
「大丈夫です。八月十六日から二泊三日でも十八日には戻ってこれます。中一日有れば宜しいのでは」
「…………」
そう言う問題じゃないんだが。困ったな。
「もし二人だけが嫌なら妹の瞳ちゃんも連れて来てはどうですか。兄も一緒にすれば喜ぶと思いますが」
この人何を言っているんだ。妹の都合もある。巻き込むわけにはいかない。
「ふふっ、瞳ちゃんの都合は良い筈です。兄から聞いています」
くそっ、裏付けをとっているか。俺が二人だけを断ったらこれを理由にするつもりだったんだ。
「達也さん、私を策士の様に思わないで下さい。別に瞳ちゃんを利用しようとは考えていません。偶々兄に聞いただけです。休みの予定はどうなっているのかと」
不味い。そう言えばこの人、俺が考えている事が読めるんだ。
「達也さん、読めませんよ」
ほら、分かっているじゃないか。しかしやはり瞳は自由にさせたい。
「分かりました。では二人で行きましょうか。ところで何処に?」
「はい、思井沢です。西伊豆は一度行っているので」
確かに。あの時の嫌な思い出が残っているのかもしれないな。
「では買い物を一緒にしたいですが宜しいですか?」
「行ける範囲でお願いします」
「大丈夫ですよ。水着は買いませんから」
今回は、前の様な高級店ではなくカジュアルな女性洋服店を回った。旅行の時に着る洋服だという。この後、その時に上映した映画を見て帰った。
家に戻り、自分の部屋に入ると
コンコン。
ガチャ、
「お兄ちゃん、入るね」
「どうした瞳?」
「ねえ…、お兄ちゃん、十六日から玲子さんと思井沢に旅行行くんでしょ。玲子さん、お兄ちゃんに何か言っていなかった?」
早いな。玲子さんが話したのだろうか。それとも既定路線?しかしこの問いは、もしかして?あの事もある。かまをかけてみるか。
「ああ、行くけど。それがどうかしたのか?」
「だからその事で玲子さんが、何か言っていなかった?」
「うーん、何か言っていたかなぁ?」
「例えば、私も一緒に誘ったらとか」
何故かもじもじしながらいっている。少し顔が赤い。
「ああ、その事か。瞳の都合もあるからと断っておいた」
「えーっ、なんで?」
「行きたいのか?」
瞳が下を向いて
「駄目かなあ」
なるほど、上手く行っているんだな。それなら仕方ないか。
「じゃあ、玲子さんに確認するよ」
俺は直ぐにスマホで電話した。妹は目の前にいる。
『玲子さん、達也です』
『はい、何か?』
『実は妹が俺達の夏休みの旅行に一緒に行きたいと言うものですから、玲子さんのお兄さんの予定はどうかなと思いまして』
『ふふふっ、構わないそうですよ』
どういう事だ。聞いてもいないだろうに。もしかして俺達を出汁に使って、妹と玲子さんの兄を合法的に旅行に行かせるつもりだったのか。
妹は高校生。流石に素性が知れているとはいえ男と二人の旅行は両親は許さないだろう。だが俺と一緒なら問題が無くなる。道理で急に玲子さんが旅行の事を言いだしたわけだ。しかし参ったな。策にはめられたか。
まあいい、玲子さんの兄と話す機会が出来た。
『分かりました。ところで玲子さん、今回の旅行の目的、本当は…』
『達也さんにお会いしたいだけです』
言う前に言われてしまった。
電話を切ると
「瞳、構わないそうだ」
「ほんと、やったぁ!」
目が輝いている。サッと俺の部屋を出て行った。しかし玲子さんの兄との仲は進んでいる様だな。男嫌いのあの瞳が好きになるんだ。どんな人なのか益々話してみたくなったな。
ふふっ、お兄ちゃんには悪いけど洋二さんと二人で旅行なんて絶対に行けない。だから彼に言って玲子さんにお願いした。
もちろん二つ返事で受けてくれた。だって彼女だってお兄ちゃんと二人きりになれるんだから。楽しみが出来た。嬉しい。
――――――
瞳ちゃん、中々の策士ですね。さてどんな旅行になるのやら?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます