第147話 涼子と初詣


 今日は一月三日。元旦から続いた立花家、三頭家の来訪とは別に父さんの人間関係の方達の来訪が今日の午後から始まる。


 人間関係と言ったのは、会社関係の人達の年始挨拶は会社の仕事始めの日から会社側に来社する。我が家に来る方達はそれとは別の世界の人達だ。

 会社を経営して行く為の支えになってくれる人達の事だ。これは明日四日の夕方まで続く。


 俺は、ただ父さんの側に居て来訪者が来ても何も言わない。父さんだけが対応する。俺の役目は将来関わる人達の面識と考え方を覚える事だ。これは会社維持発展の為には非常に重要な事だ。


 しかし、今日の午前中は一緒に居なくて良いと父さんから言われているので、予定を聞いた元旦の内に涼子に連絡を入れておいた。今日の午前中なら空いていると。


 彼女からは昨年末に一緒に初詣に行きたいと言われていたが、日付の調整が不確かだったので元旦まで延ばしていた。



 今日は、動きやすい様に濃紺のスーツに冬用のコートを羽織っている。理由は、涼子を電車で迎えに行かなければいけない事だ。

 流石に着物姿の涼子をこちらの駅まで来させるわけには行かない。かと言って俺も和服姿では電車に乗りたくないからだ。まあ、正直恥ずかしい。



 涼子の家には午前十時に着いた。玄関のインタフォーンを鳴らすと直ぐに涼子が出て来た。

 赤を基調とした綺麗な和服だ。涼子はショートカットなので髪はアップしていないが綺麗な飾りを付けて、首には真っ白なファーを付けている。良く似合っている。可愛い顔をした涼子が着るとお人形さんの様だ。


「達也、明けましておめでとう」

「涼子、明けましておめでとう。涼子着物だから駅まで歩いた後、タクシーを使うか?」

「出来ればそうしたい」



 出かけようとすると妹の涼香ちゃんが出て来た。涼香ちゃんも着物を着ている。薄いブルーの綺麗な着物だ。


「あっ、立石先輩。明けましておめでとうございます」

「おめでとう涼香ちゃん」

「私も行きたいけど、今日は遠慮しておく。二人で仲良く行ってらっしゃい」

「涼香、ありがとう」

「うん、いいよお姉ちゃん」

 その後、お母さんも出て来たので丁重に新年の挨拶をして駅に向かった。


「達也、嬉しい。初めてだね達也と一緒に初詣行くの」

「そうだな」

 そう言えば、涼子と知り合ってから一度も一緒に初詣に行った事は無い。一昨年、昨年と色々有り過ぎたからな。


「どうかな。私の着物姿?」

「とっても良く似合っているよ」

「えへへ、嬉しいな。ところで今日は何処の神社に行くの?」

「家の近くに有る神社だ。この辺では結構有名な神社だよ」

「ふーん、楽しみだな」


 私の初詣は近所にある小さな神社。元旦はそれなりに人は来るけど、二日目以降はまばらだ。だから達也の連れて行ってくれる神社が楽しみ。



 駅まで着いた後、俺達はタクシーに乗って、俺の家の近くの神社の参道に向かった。最近のタクシーは屋根が高いシティサイズワンボックスカータイプの車種も多い為、和服でも乗りやすくなっている。



 神社の参道入口に着き、タクシーを降りると三日目だというのにまだ初詣の参拝客が多く居た。


「三日目でも結構いるんだね」

「そうだな、元旦や昨日に比べると少ないけど、それでも多いな」

「そうか、達也は三が日毎日ここに来ているんだ。誰と来たの?」

「早苗、玲子さん、加奈子さんだ」

「ふふっ、達也は大変だね。重い人ばかりで」

「仕方ないさ。それが俺の運命だからな」


「私は軽いよ」

「そうか。俺は同じに思うけどな」

「酷ーい。そんな言い方。でもあの人達と同じに見てくれるんだ。それはそれでいいかも」


 なんか、誤解をするような事言ったか?しかし、今回で四回目だ。毎回同じ事をお願いしているから叶って欲しいものだが。



 参拝が終わると

「達也は、もう四回目なんでしょ。何をお願いしているの。同じ事、それとも別々な事?」

「全部同じ事だ」

「ふーん、聞いてもお教えてくれないよね」

「ああ駄目だ。人に話したら叶わないって言うじゃないか」

「大丈夫だよ。私は今年もずっと達也の傍に入れます様にってお願いした」

「そうか」

 これ以上返す言葉も無いが仕方ない。


「ねえ、おみくじしたい。いい?」

「いいぞ」



 涼子がおみくじを引くと

「ふふっ、中吉だって。大吉はそこがピークだからまだ吉の伸びしろが有るって事だよね。嬉しいな」


 なるほど物は考えようか。早苗は中吉だと言って怒っていたが、涼子はこういう風に考えるんだな。


 昨日加奈子さんに話した件、今日涼子に言っていいものか。今日は午後から父さんと一緒に居なければいけない。早く言った方が良いが、今度にするか。


「達也何考えているの?」

「これからの事だ。涼子明後日五日、時間を取ってくれないか?」

「達也の事ならいつでも良いよ」

「分かった。後で会う時間を連絡する」


 達也何か有るのかな。今更別れる別れないは無いだろうし。大学の事?聞くしかないか。



 俺達は茶屋に寄って三十分位話をした後、またタクシーで涼子を家まで送って行った。家の車を使うという手もあるが、相手が涼子だけにそれは止めておいた。



 四日目も夕方になると父さんへの来訪も無くなった。ほぼ一時間位の間隔で来るから流石に疲れたが仕方ない。

 

 夕食を済ませ、早めの風呂に入って自室でのんびりしているとスマホが震えた。早苗からだ。画面をタップして直ぐに出ると


『達也、明日は会える?もう来客の対応も無いんでしょ』

 いきなりだな。


『ああ、会えるけど』

『じゃあ、朝からでいい?』


 明日は、涼子と例の件話をしたいと思っている。早苗に会うのは良いが、一日中は不味い。

『早苗、朝から会うのは良いが、午前中だけにしたい。でなければ午後からだ』

『何か有るの?』

『涼子と会う。今後の事についてはっきりと話すつもりだ』


 今後の事って…。私とはもうはっきり決まっている。別れ話、早々にあの人が承諾するとは思えないし。


『ねえ、会うのは良いけど、どんな話なの』

『早苗、まだ相手次第だ。結論が出たら説明する』

『それって私にとって嫌な事じゃないよね』

『早苗、何が有ってもお前は俺の妻になる人だ。それだけは揺るがない』

 なんか意味深だけど仕方ないか。


『分かったわ。じゃあ午前中会ってね』

『ああ、いいぞ』


 早苗との電話の後、俺は涼子に電話した。明日午後一時に迎えに行くと。


――――――


 涼子との話、次話になります。さてどんな話になるのやら。


次回をお楽しみに。

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