第68話 早苗との帰り道

 俺は玲子さんからの依頼をどうして良いかその時は判断できなかった。仕方なく午後一番の授業を頭の中でスルーしながら考えた。


 玲子さんとは大学卒業まで向き合うという事にしている。一つの区切りは高校卒業時だが、彼女はこれからも今の不安な気持ちが続くなら元の学園に戻ると言っている。


 それは色々な意味でして欲しくない事だ。だがだからと言って彼女の言い分を簡単に受け入れていいのか。


 俺は玲子さんを友達としては見ているがそれ以上の気持ちはない。大学卒業まで続いたとしても彼女に好意を寄せる事になるだろうか。


 もちろん全くないとは断言できないが、今の俺は加奈子さんという深い関係になった人がいる。この状況は余程の事が無い限り逆転はしないだろう。それにあいつの事もある。

 だが、玲子さんの心の不安はあれでしか取り除けないならば……。




 玲子さんと昼休み時間にお願いされた事の返事は午後授業の中休みに返事をした。彼女には、それをする事によって決して自分の優位としない事を約束して貰った。




 そして放課後、

 俺は一度図書室で開室前に図書委員三人と桃坂先生とで図書委員会を開いた後、下校する事にした。


 玲子さんには、今日は早苗と一緒に帰ると言って先に下校して貰ったが、何故か機嫌よく聞いてくれた。



 図書委員会が終わり下駄箱に行くと早苗が待っていた。

「早苗帰るか」

「うん」


校門を出るまで早苗は何も話さない。校門を出て少し歩いたところで、

「達也、期末考査が終わったら抱いてくれるって言ったよね」

「いや言っていない。前向きに検討すると言った」

「じゃあ、検討した結果は?」

「まだ検討していない」


 また黙ってしまった。駅まで何も話さない。電車に乗っても下を向いているだけだ。


 俺達が降りる駅で降りて改札を出ると

「達也こっち」

「えっ?」


 いきなり早苗が俺の手を引いて家のある方向とは違う少し高台にある公園に連れて来られた。っちょっと寒い。


「どうしたんだ。こんな所に連れて来て」

「達也、私の事嫌いになった?」

「…何を言っているのか分からない」


「達也、三頭さんとはしてるよね。玲子さんともしているんでしょ。なんで私としてくれないの?」

 どういうつもりで言っているんだ。


「早苗…」

「ねえ、私はあの人達と比べて魅力ないの。達也にとって魅力ない不必要な女なの?」

「早苗、馬鹿な事を言いだすな。お前は俺の大切な幼馴染で、武術だってお前を守る為に始めたんだ。そんな人(女性)を不必要だなんて思う訳無いだろう」

「じゃあ、何で、何で私だけ取り残されているの?」

「早苗、俺はお前が大切だ。だから簡単にする訳にはいかないんだ」

「それは、それは達也が他の人を選んだ時、私が手付かずの女だと良いという意味なんでしょ。達也が私を大切な人って言っているのは、そんな意味も含まれているんだよね」

「…………」


 実際に早苗の言っている事は本当だ。一時の気まぐれで彼女の大切なものを失わせてはいけないと思っていた。だから避けて来た。この前、最後直前で終わらすことが出来たのもその気持ちが有ったからだ。

 しかし、このままでは早苗は…。


「達也、私が例えあなたと一緒になれなくても私の初めては達也にあげたい。だからお願い」


 風が少し出て来た。俺は早苗の風上に立って彼女を優しく包み込んだ。

「た、達也」

「早苗、分かったよ」

「本当、本当だよね。達也。…証拠見せて」


 俺は初めて自分の意思で早苗と口付けした。


 今週金曜日からは午前中授業になる。時間はどこかで取れるだろう。しかし、玲子さんといい、早苗といい、本当にこれでいいのか。

 今自分の心は…加奈子さんか?違う気もする。俺の心の底にある人(女性)は…。



 高台の公園からの帰り道、早苗はずっと俺の腕に絡みついて来ていた。もう歩きにくいだろうなんて言葉掛けても意味無さそうだ。




 俺は早苗と別れて自分の家に帰った。


「ただいま」


タタタッ。


「お帰りお兄ちゃ…。どうしたの?疲れた顔しているよ」

「ああ、少しな。期末考査が終わったからな」

「あっ、そうだ。お兄ちゃん凄い成績だったね。瞳驚いちゃった」

「何で知っているんだ」

「だって、全学年同じ掲示板に張り出されるじゃない」

「えっ?」

 気が付かなかった。そう言えば両脇に一年と三年生の分が有った様な。


「まあ、いいわ。それよりお兄ちゃん。洗面所で唇拭いておいた方がいいよ。その色早苗お姉ちゃんだよね」

「あっ!」


タタタッ。


「お母さーん。お兄ちゃんが今日も唇に早苗お姉ちゃんのリップ付けて帰って来たー」

 今日もってどういう意味だ。



ダイニングに行くと

「達也、早苗ちゃんとは順調みたいね。お母さん嬉しいわ」

「ふふっ、瞳も」


 不味い、早苗が黙っていてもいずれバレる。これは慎重にしないと。早苗によく言っておかないと。



 俺は風呂に入って、ベッドの上でゴロゴロしているとスマホが震えた。


 ディスプレイを見ると涼子と書いて有る。


「涼子、俺だ」

「達也…」

「どうした涼子?」


「ごめんなさい。ねえ期末考査で一番になったらご褒美欲しいって言ったけど、一位が三人もいたんじゃ駄目だよね」

「ははっ、その事か。全然駄目じゃない。それより涼子凄いじゃないか。それに涼子に教えて貰ったおかげで俺も二位を取れたし」

「ふふっ、それは立花さんと桐谷さんも一緒だからでしょ」

「まあ、それはそうだけど。でっ、何が欲しいんだ」

「達也…。本当にご褒美貰って良い?」

「良いって言った」

「じゃあ、会って。二人でデートしたい。それで…」

「涼子、それって…」

「そう、達也が想像している通り。今とても不安なの。なぜか達也が私を置いてどこかに行ってしまいそうで。だから心を安心させたい。

 決してよりを戻してなんて思っていない。今の友達の関係で十分すぎるほど私は嬉しい。でも心は違う。お願い達也」

 

 俺は、たぶん涼子がいずれこれを言って来ると思っていた。だから自分で思っている。涼子にはどこまで許せばいいんだろうかと。

 自殺以来、この子には心の支えになろうとしてきた。でもこれは…。



「達也お願い」

「分かった」

「本当。嬉しい。今週金曜日から午前授業だけだよね。ねえ、金曜日私の家に来てくれる」

「涼子、会う日はまた別に決めよう」

「…分かった。そうだよね。達也忙しいものね。うん、そうしよう」


 実際俺はとんでもない状況になってしまっている。玲子さん、早苗そして涼子。嫌な予感だがこれに加奈子さんが絡んでくるのは間違いない。


 海外にでも逃げたい気分だ。


――――――


 達也の優しさにつけ込んだ、トラさん、ヒョウさん、それにオオカミさん。後ろにはライオンも控えている。

うさぎ(達也)は本当に食われてしまうんですかね?でも四分の一ずつかあ。お代わり欲しがりそうだな。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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