第39話 悩む達也
俺立石達也、まだベッドの上だ。
夏休みも七月が終わろうとしている。早苗と今月中に終わらそうという事で夏休みに入ってすぐ始めたが、思ったより順調にこなせた。
宿題はそれでいいのだが、問題が別に残っている。早苗と海に行く日を決めなければならない。
実は早苗以外にも三頭さん、立花さんとも海に行く日を決めなくてはいけない。俺がズルズルと夏休みの宿題を理由に先延ばししていたからだ。
他にも道場の山合宿や家族で夏休み旅行もする。三人の女の子達の事がなかった去年までは、ほとんど自由に夏休みを過ごせたが今年はそうはいかない。
健司が言っていた「今お前の前にはヒョウとトラとライオンがいて、隙あらばお前を食ってやろうとしている」という状況なのだろうか。
逃げたいが逃げようがないというか逃げ場所が無いのだ。しかし、三人(匹?)に座して食われる訳にはいかない。
三頭さんと立花さんにはその危険な匂いが一杯だが、まさか早苗にもあるとは?でも早苗は何故俺なんだ?
彼氏がいたんじゃないのか?それとも別れたから俺と?いや、あいつはそんな器用な事が出来る子じゃない。だったら何故?
分からないままにベッドの上でゴロゴロしていると午前七時を知らせる目覚ましが鳴った。
そろそろ起きるか。今日は午前十時には早苗が来る。夏休み宿題最後の日だ。そして返事をする日でもある。
ダイニングで朝食を取っていると
「お兄ちゃん、今年は家族以外も海行くの?」
どういう意味で聞いているんだ。
「瞳どういう意味だ?」
「えっ、もし行かないなら瞳達と一緒に行って欲しいなと思って」
「瞳達?」
「うん、涼香ちゃんと一緒」
また増えるのかよ。これは断らないと。
「瞳残念だけど一緒に行けない。予定が一杯なんだ」
「えーっ、なんで?」
「それは言えない」
「でもその予定決まっているならその隙間に入れてよ。優先順位一番後でもいいから」
「優先順位?」
「そうだよ。お兄ちゃん、バレンタインの時、チョコ何個か貰っているんでしょ。それに立花さん。どの人が一番大切か考えれば優先順位決まるでしょ。でも出来れば瞳一番にして」
「瞳。おまえは大切な妹だが、それとこれは違う。でも優先順位か、確かになあ……」
俺は朝食後、自分の部屋で瞳から言われた優先順位を考えた。三頭さん、早苗、立花さん、俺にとって優先順位が高いのは誰だ。…………分からん。
漠然と考えても何も出てこない。優先順位を決める何かが必要だ。………分からん。
コンコン。
「瞳か?」
「うん」
ガチャ。
「なんだ?」
「さっきの様子だとお兄ちゃん優先順位も決まっていない感じがしてたから様子見に来た」
「…………」
妹に聞くのもなんだが………。
「瞳教えてくれ」
「ふふっ、仕方ないなあ。優先順位を決めるキーアイテムを考えないと」
「キーアイテム?なんだそれ?」
「つまり
一番簡単なのは、誰が一番好きか。
それが無かったら、誰がお兄ちゃんに取って一番大切か。今までそしてこれからも。
それも同じだったら、普段接している濃さかな。今回に限ってだけど偶に会う人より普段多く会う人の方が大切だからね。
取敢えずこれで考えたら。あっ、お兄ちゃんこの中には兄妹要因入っていないから」
「なるほど…そうか、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ瞳達の事も考えてね」
これだけ言うと瞳は俺の部屋から出て行った。
やっぱり俺の妹は良く出来た子だ。この三人より瞳が一番なんだけどな。
しかし、一番好きな人………いない。
一番大切な人………誰だ俺にとって大切な人。
立花さん…違うな。確かに家の事考えると気になるけど。
三頭さん………………………………。あれ引っ掛かる。なんで?この前キスしたし。
早苗…大切な幼馴染。こいつが俺に告白してきたら、俺断れるか?自信ない。俺は早苗に対して小さい時から保護モードだからな。断るというのが難しい。
もし早苗が告白したら多分受けるだろうけど恋人というより幼馴染のお友達気分から出れないんじゃないか。やっぱり分からん。
普段接している濃さ。三頭さんだろうな。今までの事も考えると。二番目は…立花さん?早苗?どっちだ? 直近では立花さんだけど、付き合いは早苗が圧倒的に長い。
じゃあ、優先順位は三頭さん、早苗、立花さん。でもそれで本当にいいのか。
分からないままに時間が過ぎ………。
ガチャ。
「達也おはよ」
「おはよ早苗」
「達也ほとんど夏休みの宿題終わっているしさ、今日は二人で行く海の事考えない?」
「えっ?!」
「なんで驚くの、一緒に行くって行ったよね」
「あ、ああそうだったっけ?」
「そうだった、なの?」
早苗がちょっと寂しそうな顔をしている。
「い、いや早苗、そうだ行く約束だ。忘れていない」
ふふっ、達也らしい。
「…ちょっと調べたんだけど、千葉県だと外房、神奈川、静岡だと伊豆なんかどうかな?」
「えっ?!い、いやいや。俺達高校生だろ。俺達だけじゃダメなんじゃじゃないか」
「ふふふっ、親が認めていればいいの。だから予約はお母さんからして貰う。もちろん達也の両親も承認の上だよ」
うっ、こいつ。外堀埋めるつもりか。てか、俺の両親こんな事認めるの?立花さんの事も有るだろうに。
「ふふっ、達也、立花さんの事考えていたでしょう。でもあの人の事決まっている訳じゃないんでしょう?だったら私と二人で海に行っても何の問題もないわ」
な、何言っているんだ。その意味って、つまりその…。
「達也考えすぎ。達也と一緒に海に遊びに行くだけよ」
本当は……。
「…………」
「ねえ、いいでしょう。行こうよ」
いつの間にか俺の隣にピタリと座っている。
「と、とにかく。親が良いっていうかだ」
「もし駄目でもプール二人で行こう」
「わ、分かった」
早苗とは、午前中で夏休みの宿題を終わらせた。昼食の時に母さんに早苗の事を言うと父さんと相談してからという事で保留になった。
午後からは早苗は用事があるらしく、昼食後そのまま帰った。
さてどうしたものか。でも早苗の事が進んでいるなら三頭さんの事も連絡するか。でも今いるかな?
俺はスマホを取るとメッセージチャットを送った。
『三頭さん、今電話出来ます?』
直ぐに電話が掛かって来た。
『達也』
『三頭さん、プールの件ですけどいつにします』
『えっ、達也一緒にプール行ってくれるの?』
『だって先輩と約束したし』
ほとんど諦めていたのに。この子ったら。だから誰にも渡せない。
『達也、先輩はなし。行くなら八月三日でいい?』
『急ですね。いいですけど』
『じゃあ、私の家のある方の改札に午前十時で良いかな』
『分かりました』
私三頭加奈子。やったー。達也から連絡くれるなんて。こっちから連絡しても宿題が忙しいって言って、全然予定組めなかったのに。
やっぱり達也だわ。約束は必ず守ってくれる。まだ私の事、好きって感情は無いんだろうけど、こうして誘ってくれる。
プールは最高のチャンス。絶対私を振り向かせる。あれだってうまくいけば出来るかもしれない。そうすれば…。
俺立石達也。夜、父さんが返ってきた後、母さんと話したらしい。結果はプールは良いが海に二人で行くのは駄目だ。行きたいなら我が家が海に行く時一緒にという事になった。
早苗はOKが出るつもりで居たらしく不満たらたらだったが、二人でプールに行くのは良いという事で八月七日に決まった。
ちなみに我が家が海に行く予定は八月十三日から十五日だ。
俺はこれで一通り予定が付いたと思っていたら…とんでもない予定が入って来た。
立花さんが父さんを通して立花さんの別荘に八月九日から十一日までの間、従者が付くという事で俺と玲子さん二人で行く事を決めてしまった。
どういうつもりだ。父さん?
俺は翌日父さんが出勤する前に起きて
「父さん、早苗の時は断ったのに何故玲子さんは良いんだ。俺は行かないよ」
「達也。お前は早苗ちゃんと二人で行きたいのか?」
「そんな事じゃない。何故玲子さんはいいんだ?」
「玲子さんが、転校して時間もなく達也と話す時間も少ないから二人でゆっくりと話したいと言って来た。
特に断る理由もないだろう。早苗ちゃんは普段、特にここ十日間ずっと一緒だったというじゃないか。
だったら玲子さんと二日間位良いんじゃないか。別に二人だけと言う訳ではない、別荘で世話をしてくれる人も一緒に行くというし」
「しかし…」
「達也、行って来なさい。二日間話してお前が玲子さんとは合わないならそれも仕方ない事だ」
「…………」
参った。理屈はそうだが…。
――――――
凄い事になって来た達也。夏休みはこれからです。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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