6-10 戻っておいで
主である
あの騒ぎの後、
こちらの事は気にしないで欲しいと伝えて、とりあえず
扉を少しだけ開けて中を覗いてみるが、
あの日から、
昼間だというのに、その部屋はどこか暗く感じる。きっと、
(
さすがの
あの後、
竜虎自身も見たわけではなく、
「
せめて衣裳を着替えてもらい、許されるなら髪の毛も整えてあげたかった。何度か試みてみたものの失敗に終わっているのだが、
「あ、えっと、
力の抜けた笑みを浮かべ、
「
なんだか
手に持っている衣裳は、
「そうだね······さすがに着替えた方がいいよね」
「はい。お手伝いしますから、ついでに身体も拭いて、髪の毛も整えましょう?
自分で言って、
長い髪の毛は一旦適当に括って、布で背中を軽く拭っていく。ふと、右の腰の辺りに痣を見つけ、思わず息を呑んだ。
「綺麗な花びらの痣ですね、」
「······そう、かな、」
それは五枚の花びらのような痣で、
それに対して、困ったように
その笑みはどこかいつもの主らしくなくて、不安になった。
身体を拭い、衣裳を着替えさせ、そのまま部屋の椅子に座らせる。美しい黒髪を櫛で梳きながら、整えていく。
赤い髪紐を手に取り、ひとつに纏めて括ると、いつもの
「
「うん、そうだね。ありがとう、
「
ふふっと
いつもならば、へらへらとした顔で嬉しそうに笑う
どたばたと慌ただしく出て行った
ゆらゆらと頭の天辺で括られた長い髪の毛を揺らしながら、愛しいひとの許へとゆっくりと近付いて行く。寝台の横に膝を付き、
「ごめんね······
翡翠の瞳を細め、眠ったままの
愛しい。
愛しい。
大好きな、ひと。
今更、どうして、戻って来てしまったのか。
あの子はどこに行ってしまったのか。
ちゃんと戻って来てくれないと困る。
でないと、せっかく諦めた夢の続きを見てしまいそうになる。
(早く戻っておいで······だれも君を責めたりしないから、)
それまでは、ここにいる。
「忘れないで? あの時、
ねえ、そうでしょう?
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