第38話 二人だけの思い出を作りましょうね!
とある夜。
エリシアが楽しそうに羽根ペンを走らせていた。
書いているのは個人的な日記。
「師匠とどんな会話を交わしたとか、ちゃんと記録してますよ」
フェミニンな
引き出しの中には国家機密もある。
他人が見られないよう、魔法の封印を
「明日の建国祭、楽しみですね」
「ああ、俺もだ」
「あまりにも待ち遠しくて、目の前に置かれたケーキを我慢している気分でした」
エリシアが頭を
「明日に備えて早く寝ろよ。最近、働きすぎだ」
「は〜い」
(しまった! 向こうが上官なのに、保護者みたいな態度を取ってしまった!)
……。
…………。
そして
エリシアは朝から複数のイベントに出席した。
王都一の
「みなさん、今日は思いっきり楽しみましょう! そして
(さすがエリィだな……)
(普段、褒められることのない
(王都の人々から愛されるわけだ)
エリシアがステージ裏に戻ってくる。
グレイは頭に付着している花びらを一枚取ってあげた。
これからデート。
でも一個だけ下準備がある。
実は、聖教会から衣装を借りている。
フードを
「じゃあ、行くか」
「私が案内しますね」
エリシアは当然のように手を握ってくる。
「完ぺきなプランを用意してあります」
まず噴水の広場へ連れていかれた。
真ん中のところに女神像が立っており、その周りを天使像が取り囲んでいる。
「泉にコインを投げるのです」
「コイン? 安いやつでいいのか?」
「そうです。いっせ〜の〜で、で投げますよ」
大人しく従うグレイ。
「何かの願掛けなのか?」
「一緒にコインを投げた男女は永遠の愛で結ばれるのです」
「ッ……⁉︎」
ゆらゆらと沈んでいった二枚のコインが水底でめぐり合う。
「大胆だな」
「私じゃ不満ですか?」
「いや……そういうわけでは」
(エリィのことだから、俺を
グレイが硬直していると、エリシアは恋人のように腕を
「ほら、次の人に場所を
後ろを振り返ると、若い男女の列が伸びていた。
どの顔も幸せの色に染まっている。
(俺とエリィも同類に見えるのか……)
(しかし、庶民に紛れて楽しむアイディアは悪くない)
次に連れていかれたのは大きなテント。
円形に配置されたテーブルに占いの
「普段は山岳地帯に住んでいる占い一族です。建国祭のために招待しました」
大盛況だ。
順番待ちして占ってもらった。
「何を占ってほしいんだい?」
歯の欠けた老婆がいう。
「私たちの恋愛運を占ってください」
「おい……エリィ……」
「今日は二人だけの思い出を作る日でしょう」
「そうだな。いいだろう。恋愛運を占ってもらおう」
紙を渡された。
名前を書け、という意味らしい。
『グレイ』『エリシア』と書き込む。
占い老婆は紙をつまむなり、むすっと目を細める。
(魔剣士とバレたか……)
「ふん、エリシアが来るのは今日で十三人目だねぇ。王都はホント、エリシアだらけだねぇ」
「あはは……」
老婆はゴニョゴニョと呪文を唱えた。
水晶に手をかざして「見える……見えるぞ……」と口走る。
「それで? 私たちの未来はどうですか?」
「
真実なので
「元から強い運命で結ばれている証拠さ」
「やった! やった!」
「しかし、行く手にもう一個試練がある。しかも、遠くない将来にな」
「乗り越えられますか、その試練は?」
エリシアが身を乗り出す。
「二人の協力が欠かせない。支え合うのだ。一人じゃダメだ。影に
老婆は一枚の紙を渡してきた。
「幸運を祈っておるぞ、若き男女よ」
小さな紙には、
『この世には二種類の嘘がある』
『他人を
『自分を欺き、他人を救うための嘘』
と意味深なメッセージが
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