第7話

夕日が照らされた教室に俺と桜町の2人。

既に他のクラスメイトは部活や帰宅で教室を離れており、2人寂しくボランティア同好会の発足への進捗状況を報告しあう。


……はずだった。


「……っ桜町、落ち着け、そしてどいてくれ」

「なに? 私は十二分に落ち着いているよ。そして、どかない」

「どかないはないだろ、俺もお前もこのままじゃ帰れないぞ」

「私はいいよ、尊となら……一晩中このままでも」

「お前なぁ……」


セリフからも分かる通り俺は今桜町に馬乗りにされて動けない状況。

唯一の救いは教室の床が妙に冷たくて気持ちがいいことぐらいだ。


「……なんで怒ってるのか分からないけど、謝るからどいてくれ」

「何で怒っている分からないのに、何に対して謝るの?」

「いや……それは、お前の機嫌を悪くしてしまったから?」


……そう、彼女は何故か怒っているのだ。


同好会発足のために役割分担をして、俺が生徒会で交渉をするという任務を負っていた。本日無事にその責務を果たし彼女へ報告していた途中、何故か急に不機嫌になったと思ったら、俺の身体にタックルをかまし、そのままマウントをとられてしまった。


かれこれ10分はこのままだが一向にマウントを解かれる様子がない。


「機嫌が悪いのは正解……じゃあなんで悪くなったと思う?」

「んー……。戻ってくるのが遅かった、とか?」

「それもある」

「それもあるのか、えーとじゃあ、……勝手にメンバーを増やしたこと?」

「それ!!!」


どうやら正解だったみたいだ。

ただこれは仕方がないだろう。

同好会発足のためには生徒会長を入部させないと許可してくれない。と言われたのだから。


それもちゃんと説明した。

しかし、彼女はどうやらそれが許せないらしい。


「断ってきて」

「……はい?」

「そいつの入部断ってきて」

「そいつって……生徒会長だぞ、東海林先輩は」


正直最初はめんどくさかったが、ここまできたのなら同好会を作れるなら作りたい。

いつまでもこの教室でウダウダしているよりは部室でゆっくりしていたほうが幾分有意義……なはず。あと、寝れそうだし。


「私は尊と2人でいれるから作ろうとしたのに……そいつがいたら意味ないじゃん」

「だめだ、目的は部活動の発足だったろ?」

「むぅー」


そのセリフを合図に今度は身体を俺に預けて来る。

俺の顔の横に彼女の顔。

横を向けば唇があたってしまいそうだ。


「……キスしてもだめ?」

「キスってお前。……だめだ、俺は同好会作りたい」

「キスだけじゃ足りないってこと?」

「違うわ! ……俺は同好会を作りたい。そのためには生徒会の許可が必要。その許可をもらうには東海林先輩の入部が必要。ここでお前にキスされても、俺は東海林先輩を入れるつもりだ」

「……入れても浮気しない?」

「そもそも付き合ってないだろ?」

「まだそんなコト言う……。まぁしょうがないか、ディープキスしても無駄そうだし」


そこまでするつもりだったのかコイツ……。


とは言えなんとか俺の意思が固い事に納得してもらえたらしい。

ようやく馬乗りから開放される。


が、その解かれる瞬間、唇に柔らかいものが触れる。


「なっ……お前」


そのままスッと立ち上がり、指を唇に当てゆっくりと笑みをこぼす桜町。


「……これで2回目ね」


悔しい。悔しいが、思わず頬が緩んだのが分かった。

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