161.イレギュラーばかりのこんな世界では
『……この樹に住まう風の精霊よわたしの呼びかけに応えよ』
「お、それっぽい。ねえ風――」
夏那ちゃんの声が聞こえてきた瞬間、視界が収縮し頭痛を起こした。
そして意識が遠くなり、やがて夏那ちゃんたちの声が聞こえなくなる。
「ん……ここは……」
頭痛が収まり目を開けると、そこは先ほどまで立っていた場所とは違い一面が白で覆われた空間だった。いつの間にこんなところへ? そう思っていると後ろから声をかけられた。
『目が覚めた? ミズキ』
「え? だ、誰?」
『わたしよリーチェ』
「嘘!?」
私の後ろに立っていたのはリーチェちゃんだった。確かに面影がある顔立ちと羽がある……けど、大きさは小さくなくて中学生くらいの大きさだ。
「こんなことって……」
『ま、ここは精神世界と言っていい場所だからね。体の大きさなんていくらでも変えられるって感じ? ……ポリンも目が覚めたようね」
「ん……ここは……? リーチェ様? ミズキさんも」
「私も今、目が覚めたところなの。精神世界だって言ってたけど何が起こるの?」
『まあまあ、焦らない焦らない。チャンネル? リクがそう言っていたけど、それがもうちょっとで合うわ』
目を閉じたリーチェちゃんが胸に手を当てて呼吸をすると白い空間が少し輝き、スッと見知らぬ女性が現れた。
緑の髪に薄い若葉の色のワンピースを着ている美人と言える。
そんな彼女が私達に視線を向けた後、口を開く。
『ようこそいらっしゃいました、異世界の来訪者。わたくしはこの世界で風を司る大精霊ウィンディア。歓迎いたしますわ』
『初めましてウィンディア、わたしはリーチェ。四属性の力を持った人工精霊よ』
「わ、私は水樹と言います」
「シャーマンのポリンです! うわあ……本当に大精霊様と会えるなんて……!」
『ふふ、いつもあなたの声は聞こえていますよポリン。応えられなくてごめんなさいね」
そう言ってポリンさんに笑いかけるウィンディア様はどこか弱々しい印象を受けた。だけど次の言葉でその意味を知ることになる。
『早速ですがわたくしの状況についてお話ししましょう。世界樹と共にあるわたくしもまた力を徐々に落としています』
「それはどうしてですか?」
『……風が少しずつ濁っています。それはわたくしだけでなく恐らく火や水、土も。直接的な原因は分かっていませんが確実に世界は蝕まれていると思っていいでしょう』
「魔王のせい、とか?」
『あり得ます。召喚された時点で彼女は力をかなり消耗していました。だからその傷を癒すために力を吸収していると考えるなら』
「彼女? 魔王は女性なんですか?」
『はい。ご存じありませんでしたか? あなたの仲間である彼が知っているはずですが』
ウィンディア様はそう言って首を傾げる。リクさんが知っている……ということはやはりリクさんが居た世界から召喚された、ということ。性別がどうのという気はないけど意外だった。
『確証は無かったけど、これで答え合わせができたってわけね。謎はまだあるけど、それは本人に語ってもらうとして……』
「謎があるの?」
『ええ。だけど今はそれを考える時間じゃない。とりあえず聞くわ、あなたはどうしたら枯れるのが止まるの? それが聖木を貰う条件だから方法を聞かないとね』
大きいリーチェちゃんが笑いながら腰に手を当てて言う。確かにポリンさんも居るしそれを聞いておくべきね。
するとウィンディア様は私に目を向けて言う。
『仮にですがわたくしの力を異世界の勇者達へ預けたいと思います。そこから力を貰い世界樹へ注げばしばらくは持つかと。その橋渡しをミズキさん、あなたにお願いします』
「へ!? な、なんで私なんですか?」
『あなたは勇者として召喚されていません。聖女としての能力があると感じています』
「嘘……確かにメイディ様が候補にしたいと言っていたけれど……」
困惑する私には構わずリーチェちゃんが近づいてきて肩に手を乗せてから口を開いた。
『なるほどね。ということはあなたはフウタに力を貰うってこと?』
『ええ、あの男の子は風の恩恵をもってこの地に降りました。もう一人の女の子は火……。そしてミズキさんは水』
「いきなり聖女って言われても……。アキラスはリクさんと私を『役に立たない』とずっと言っていましたよ? 魔法を使えるのは異世界人は全員、かと……」
『召喚した魔族がなにを考えていたかまではわかりません。五十年前に召喚された勇者の中には魔法を使えない者も居ましたからそれは参考にならないでしょう』
「長なら知っているかもしれませんね。ではミズキ様がなんらかの方法でフウタ様にウィンディア様の力を与えれば世界樹は枯れずに済む、と」
『いえ、先程も言いましたがしばらくは持つということです。できれば四大精霊全員を異世界人とリンクさせればいいのですが』
それかセイヴァーを倒す。ウィンディア様はそう言って話を区切った。
結局、すべてのことは魔王に関わることということなのね……。
でも精霊をリンクさせれば世界樹は簡単には枯れず、聖木も手に入るということであれば願ってもないことだと思う。
「わかりました。私に聖女の力があるとは思えませんが、できる限りのことはしましょう」
『ありがとうございます』
「でもリーチェちゃんではダメなんですか? 力を持っていそうなのに」
『……わたしは異世界の精霊な上にリクの創った存在だからね。この世界の精霊の力とぶつかったらちょっと危ないんじゃないかしらね。爆発したり?』
「ば、爆発……。で、でもこれで、なんとか世界樹は助かる道が見えて良かったです……」
『そうですね。エルフ達は魔力を一日に少しでも注いでくれると嬉しいですわ』
「承知いたしました……!!」
『ふふ、なにそれ』
ポリンさんは興奮気味に敬礼をし、リーチェちゃんに苦笑されていた。これで聖木は問題ないと思うけど、次は風太君へウィンディア様を渡す必要がある。
だけど私の召喚は狙ってやったものじゃない、と思う。
あの時、夏那ちゃん達を助けようとして魔法陣に足を踏み込んだけど、もし立ちすくんでしまったとしたら一緒に来ていなかった可能性がある。というか高い。
それはリクさんも同じで私の手を掴んだから巻き込まれたし、アキラスが狙ってやったとは思えないんだよね。
でもそういえばメイディ様は『予知していた』と言っていた。
いったいなにが本当で嘘なのか……?
リーチェちゃんもなんとなく何かを隠していそうな感じもしたけど……リクさんとリーチェちゃんは何かに気づいたのかしら?
『それでは申し訳ありませんがそろそろこの空間の維持が難しくなってきたようです……フウタさんへの力の与え方はリーチェ様へお伝えしておきますので――』
『オッケー』
私が考え事をしているとどうやら時間切れのようで目の前が波打つように揺れ始めた。
ヴァッフェ帝国へ戻る途中メイディ様へ話を聞いた方がいいかもしれない……リーチェちゃんが頷いたのを見届けた瞬間、再び意識が途切れた――
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