激赤のスティグマ

春風子夏

第1話

B地区にP反応多数」

 オペレーターがいった。

 彼女の前のディスプレイには地図が広がっている。

 そこに無数の赤い点が出現していた。

「閾値を越えそうな者は何人だ?」

 ヘッドセットをはずし、須崎卓郎はオペレーターの背後に立った。

「およそ30人です」

「危険だな。ゆうべのテレビ番組やネットの情報をチェックしろ」

 後半は、別のオペレーターへの指示である。

「了解しました」

 すかさず声が返ってくる。

「一箇所に誘導できそうか」

「いまやっています」

 須崎の前のオペレーターが答えた。

「一番近くに配置されている『いろはノイド』は?」

「S型零式が最寄りの高校に。あとの9体は大阪からの応援要請で出払っています」

「おとといの事故か。まだ収まっていないのか」

「ええ。事故車両から拡散したP物質が偏西風に乗って、大阪市全域に降り注ぎましたから」

「しかし、困ったな」

 須崎は眉をひそめ、顎に指を当てた。

「零式については。確か不具合が報告されていたはずだ」

「E回路が不安定だということです。原因は不明」

「どこでいつ製造されている?」

「先日閉鎖された徳島の生理研。製造から丸二年経過しています」

「あそこは色々問題が多かったからな。iPS細胞に何か混入した可能性がある」

「どうしますか? 一応零式のN機能は正常ですが」

 オペレーターが振り向いた。

 髪の長い、有能そうな若い女性である。

「事象惹起率87%。すでに3人が閾値を越えています。このままではおそらく1時間以内に最初の事象が」

 須崎の眉間の皺が深くなる。

 ここは的確な判断を、すばやく下す必要がある。

「E体の混在率は?」

「5.3%。この時期にしてはかなり高いと思われます」

「零式の装備は? 対E体用のものはあるのか」

「昨年の”収穫祭”のときに、装着済みです」

 収穫祭。

 嫌な言葉だ。

 今年もいずれやってくるのだろう。

「よし。零式を投入しろ。ただし、監視ドローンを飛ばして、行動を常に把握するんだ」

「了解しました。零式をポイント通過車両に向かわせます」

「俺も現場に行こう。もしものときは、零式を破壊する」

 いつのまにかにじんでいた額の汗をぬぐい、須崎はオペレーションルームを後にした。

 いろはノイド零式。

 あれを破壊するだと?

 塵ひとつ落ちていない、長い通廊を歩きながら、思う。

 そんなこと、この俺にできるだろうか。

 零式には、できれば何事もなく任務を全うしてもらいたいものだった。



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