第71話 死への旅立ち


冒険者ギルドに呼び出された。


「これは大きな騒ぎになるから、緘口令を引いていますが…」


ギルドの職員の顔は青い。


嫌な予感がする。


こういう事を言い出す時は絶対に俺にとって嫌な話だ。


しかも、態々サロンを使った説明で目の前に通信水晶が2つもある。


王族と教皇絡み…直感は当たったようだ。


「まずはこれを…」


記録水晶に映像が映し出された。


嘘だろう…ゼクトがリダがマリアが…メルが鎖で吊り上げられている。


しかも、四肢が揃った者は誰も居ない。


まるで人犬…それが一番近い。


周りには沢山の死体が山積みにされている。


ゼクト達は勇者パーティ…此処迄の事が出来る存在等そうはいない。


まさか、魔王軍四天王…か。


「聞くまでも無いが、これを誰がやったんだ」


「魔王軍四天王、剛腕のマモンです…元、勇者達ですが、今の所は誰も死んでおりません。マモンは7日間処刑を待つそうです」


「何故だ…」


マモンを殺してやりたい。


だが、相手は『魔王よりも強い』『邪神が作ったバグ』とまで言われた奴だ…ただ行っても殺されるだけだ。


俺は頭の中で此奴の攻略法を散々練った。


倒す為の準備もした…その結果は…『無理』だった。


もし、マモンを倒すなら…馬鹿な話だが大量の人間を使い『数の理』で倒す…それしか考えられない。


だが、此奴はいったいなんで7日間も待つと言うんだ。


「元勇者パーティ、最後の1人貴方と戦う為です…貴方の到着を待っている…もしセレス様が戦わないなら7日後には勇者達の処刑と街の人間を皆殺しにするそうです」


街の人間は何をしているんだ…相手は1人逃げられるだろう。


「何故、街の人間は逃げないんだ」


「それは…」


記録水晶には更なる映像が映し出された。


無数の騎士や兵士の死体が山積みになり門を塞いでいた。


まるで数百の死体を穴に詰めた…そう思える。


死体をどかさなければ、此処を通れない。


いや、これを見たら、余程の人間じゃなければ怖くて此処は通れない。


恐らくは殆どの人間は家の中で震えているだろう。


4人が捕らわれている以上は行かないという選択は俺にはない。


だが、問題はどうやって助けるかだ。


ただ漠然と行っても4つの死体が1つ増えるだけだ。


苦痛から救ってあげたい…


助けてあげたい…


逃げられない…


頭の中がグルグル回る。


◆◆◆


自分一人で考えても仕方が無い


3つある通信水晶…恐らくは帝国、王国、聖教国からだ。


ザマール王国にはお願いしたい事がある。


だから、俺はザマール王国から話をする事にした。


「セレス殿…話は聞いたと思うが…どうする?」


「戦わない、その選択はありません、ですがお願いがあります」


「戦うのか…相手はあのマモン逃げ出しても、なんなら此方から」


「勇者パーティの4人は幼馴染…逃げられません…ですがお願いがございます」


「あのマモンと戦うと言うのであれば、国として最大限の支援をしよう」


「それならば」


俺が王国に頼むのは静子たちの事だ。


恐らく俺が戦いに行くと解れば絶対についてくる。


マモンは単純に強い。


搦め手は一切通用しない。


静子達とは相性が悪すぎる。


だから、ザンマルク国王に足止めを頼んだ。


「セレス殿、緘口令を敷いているからこの情報は流れていない、幸いにも、セレス殿の奥方達とマリアーヌは顔見知りだ、こちらで指名依頼を入れ城にきてもらう…それでどうだ」


本当に助かった。


「ありがとうございます…大きな恩が出来ました」


「セレス殿、何も言わぬ…生きて帰って来るのだ」


「はい」


これで心配事が無くなった。


◆◆◆


次は…教会絡みか…


言われる事も、こちらの答えも解っている。


「セレス殿…事情は解っていると思う、それで問題は、元4職をどうするかだ?」


『元』ってどういうことだ…


「教皇様、元とはどういう事なのでしょうか?」


「まさか、この様な事になるとは思わなくてな、少し前にゼクト殿が勇者を辞任したいと言ってきたので辞任を認めたのだ…それでセレス殿はどう動く」


「どう動くとは、どういう事でしょうか?」


話を聞くと教会内では二つの意見で揉めているそうだ。


簡単に言うと…


『最早勇者パーティで無いので、俺を派遣する必要は無い』


『過去の功績から派遣するべきだと』


この二つの意見に割れているそうだ…それより驚いたのは、ゼクト達が辞めた為、勇者パーティ『希望の灯』のリーダーは俺になり静子達が正規メンバーになっていた事だ。


もう気持ちは決まっている。


「勿論、この決闘からは逃げません…ただ無駄死にはしたくありません…なにかマモンにつけ入る隙があればと策を練っている所です」


「そうですか…やるのですね…マモンに戦いを挑む、それだけで、貴方は真の英雄なのだと私は思います…教会としてアドバイスをしたいのですが…マモンについては…ただ強いとしか言えません…『過去幾多の英雄、勇者が挑むも傷ける事叶わず』それしか記載が無い…敵ですが無敵、その言葉が一番似合う存在なのです」


可笑しい…俺の頭の中には『マモン』に傷をつけた存在の記憶がある。


どこかで本でも読んだのかと思っていたが…俺が読めるような本であるなら教会が知らない筈はない。


「それでお願いがございます」


「貴方は勇者パーティの1人、そしてマモンにすら挑む、真の英雄…何でも言って下さい…教会の全てを持ってサポートします」


俺が頼んだのはヒーラー部隊の派遣…そして教皇様への個人的お願いだ。


幾ら考えても勝てない…だが行かない。


そんな選択は俺には出来ない。


「解りました…流石に戦場には送れませんが近くにヒーラー部隊を派遣させます…もう一つの頼みも解りました、必ずや用意します」



◆◆◆


「セレスくん、どうしてもという指名依頼が来たから行ってくるね」


「ごめん1週間位留守にしちゃう」


「セレスさん、ごめんね、男性は駄目な依頼なの」


「セレスちゃん…行ってきます」


「丁度良かった、俺も指名依頼で少し出かけてくるから…行ってらっしゃい」


「「「「行ってきます」」」」


皆、ごめん…もし生きて帰ってきたら死ぬ程謝るから。


皆を見送り…俺も旅に出た。





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