92話 「マイア支局ギルドマスター アグヴェリオ」
とまぁ、こんな事情によりルーベリー王国でやるべき仕事は決まってしまった。
非常にめんどくさい。
……というか、関わりたくなかった。
でも、事情を知ってしまった以上は放置出来ないよな。一応セージとは知らない間ではないし。……そこまで親しくもないけども。
命を懸ける程に親しくは無いが、実際俺達には彼の頼みを引き受けられる力はある。ならば、引き受けても構わないと判断したのだ。
……ただ、後々の展開次第では、依頼を放り出して逃げるという選択肢も考えておかねば。
その後ギルドを後にした俺達は、アルドラゴへと帰還した。
そして待機していたルークとゲイルに事情説明する為に、ブリッジへと主要クルーを集めたのだった。クルーと言っても、アルカ、ルーク、ゲイルの三人なのだが。
「ふぅむ。次期王様の護衛依頼でござるか」
『そんなの引き受けて大丈夫なの?』
予想通り、二人とも良い顔はしなかったな。そりゃそうだ。国の事情に関わるなど、俺達からしたら面倒以外の何物でもないからな。
「そりゃあやりたいかやりたくないかで言ったらやりたくはない! でも、俺達が動く事で死ぬ人間が出なくなるのなら、悪い事じゃないだろう。……だからと言ってなんでもかんでも引き受けるつもりは無いが」
そう、これからする事は別に悪い事では無いのだ。
まぁ、敵対する側からしたら悪い事なのかもしれないが、そこは知ったことでは無い。
テレビに出てくる正義の味方のように、何でもかんでも守ろうというつもりは無いが、手の届く範囲ならちょっと面倒でもやる価値はあるだろう。
後手に回って、ゲオルニクスさんの時のような事態になるのは嫌なのだ。
「とは言え、こっちの依頼の方は俺がやるから、アルカ達は今まで通り――――――」
普通にハンターの仕事をしてもらって構わない。
と言おうとしたが、突如として三人から鋭い眼光のようなものが発せられ、言葉に詰まってしまった。
なになに? 何か怒ってらっしゃる?
「主……。貴殿のそういう所は美徳だとは思うのですが……」
『私達の事を本当になんだと思っているのですか』
『僕達、単なるチームメンバーじゃないんだよ』
これは何だ? ひょっとして、三人に遠慮しているって事を怒ってらっしゃる?
「いや……そうは言っても、俺が勝手に決めた事に巻き込むわけには……」
『ケイ、言った筈ですよ。貴方はこのアルドラゴの艦長で、私達はクルーなんだと。だとしたら、スパっと命令でもしてください』
「艦長って言っても暫定だし……それに、命令って言葉はあまり好きじゃないっていうか……」
「では、指示をお願いします。拙者達がどのように動けばいいのか、主が指針を示してください」
「指示……か」
物は言い様であるが、確かに命令って単語よりは響きはいいかな。
それにしても、本当に俺には勿体ない部下……いや、仲間達だ。だからこそ巻き込むのは心苦しいのだが……。
「……巻き込んじゃっていいの?」
申し訳なさげに言うと、三人はふかーく頷いた。
ええい、こうなったら仕方がない。
「それじゃ、今後の予定を指示します!」
俺の言葉にアルカとルークがピシっと気をつけの姿勢を取り、ゲイルも急いでそれに
「ルーベリー王国へと渡り、魔獣を倒して魔石集め。その合間に、セージ……いやセルジオ王子の護衛任務をする。護衛依頼の詳しい話はルーベリーに渡ってかららしいから、早速ルーベリー王国へ向かうとしよう」
「……魔石集めの合間に護衛……でござるか?」
「第一目標はそっちだからな。護衛の方はあくまでついで。……そういうスタンスで行く」
『具体的にはどういう方針で?』
「とりあえず、せっかく四人居るんだから、護衛組と魔石集め組の二班に別れようかと。護衛組は請け負ってしまった手前、俺がメインで動いて状況に応じてサポートを頼むかな」
本来なら俺一人で動く予定だったが、こうなったら手伝ってもらおう。
それに、やっぱり一人と言うのは心細い。
ふと、ゲイルは何か考え込んでいる様子だったが、やがて口を開いた。
「それならば、拙者は魔石集めの方をメインにしよう思うでござる」
おや? と思うと、ゲイルは説明した。
「アルカ殿とルーク殿ならば、魔晶へと身体を変える事が可能でござろうから、主のサポートもしやすいでござろう。拙者は身体がある分身軽には動けないでござるからな」
なるほど。
とりあえずは納得です。とは言え、ゲイルはアルカ達とは違った意味で頭が良いからな。こっちのサポートもある程度はしてもらうようにしよう。
とまぁ、こんな感じでルーベリー王国での指針は決まった訳だ。
◇◇◇
指針が決まったのなら、その方向に
という事で、後は行動あるのみ。
第二都市マイアへと辿り着いた俺達は、この都市にあるハンターギルドの支部へと足を向けたのだった。
その道中、奇妙な風体の四人組はやはり注目を浴びたのだった。
全員色違いの揃いのコートを羽織り、それぞれカラフルな髪の色をした美少女、美少年、美青年、フツメンの集団だものな。ここまで美形に囲まれていると、リーダーなのに場違い感が半端ない。……これは常に仮面でも身に着けて、以降は仮面キャラで行こうかなとかマジに考えてしまうのだった。
そんな感じで注目を浴びつつ、俺達はハンターギルドへとやって来たのだった。
見た目は、ほとんどオールンドのギルドと大差は無い。ただ看板には“ハンター協会 ルーベリー王国 マイア支局”と書かれている。
聞いた話ではあるが、ルーベリーの第一都市ラクシャにはギルドの支局は存在しないらしい。昔はあったらしいのだが、今現在覇権を握っている第二王子派とハンターギルドは折り合いが悪く、半ば追い出される形でマイアに逃げて来たのだとか。
だから、俺達のようなハンターは第一都市には存在せず、ほとんどがこのマイアに集まっているらしい。なんとも面倒な国だ。
「よ、ようし……行くぞ」
相変わらず、初めての場所というのは緊張する。この世界に来てから多少はチキン成分が改善されたが、17年培ってきたものがそう簡単に治る筈もない。これは、もうちょい場数を踏まないといけないだろう。
ギィ……と、音を立てて扉を開いた。
パタンと扉が閉まると同時に、ロビーに集まっていたハンター達の視線がこちらへ向く。
ざわざわとしているのがよく分かる。そういや、俺が一人でハンターギルドに
でも、今は心強い仲間が傍に居るから、それほど不安になる事は無いぞ。
「ふぅむ。ギルドとはこのような所でござるか」
「そういやゲイルは初めて来るんだったか」
『外も中身もオールンドのギルドと大きな差はありませんね』
『うぅぅぅ……人が……人がいっぱい居るよ……』
気づけば、ルークは俺のコートの裾にしがみついていた。
久々のルゥモード発動。最近は親しい人間にずっと囲まれていたせいもあって、普通に行動出来ていたもんな。やはり、この対人恐怖症もなかなか治らない。
とりあえず視線の方は無視し、俺達はつかつかと受付へと向かう。
やはり、受付嬢には綺麗どころを置くというのは、どの世界も共通なのか。マイアのギルドでも、結構な美人さん達が受付席に座っていた。
その受付嬢さんは、俺達を見て少しだけ驚いた様子だったが、さすがはプロ。すぐに営業スマイルへと戻り、親しげな声で喋りかけて来た。
「ハンターギルドへようこそ。ご依頼……ではなさそうですね。ハンター登録でしょうか」
「ええと、彼はそうなりますね。俺達は必要ありません」
彼とは、ゲイルの事だ。ゲイルはオールンドでハンター登録はしていないからな。
そして、俺達三人は受付へと自分のハンターカードを差し出す。
「えっ!? Bランクハンター……ですか。残りの方も、Cランクハンター……」
さすがに、俺のような若い男がBランクと知り、驚きは隠せないようだ。ついでにアルカとかルークみたいな女子供がCランクと言うのも驚きポイントだろう。
とにかく、Bランクハンターであれば他国での活動も出来、そのチームメンバーであればCランク以下であっても同じように活動は可能。……というシステムになっている。
「彼のハンター登録もあるが、エメルディア王都オールンドのギルドマスターからこちらのマスターへの紹介状を預かっている。謁見の許可を頼みたいんだが」
「ギ、ギルドマスターへの!? わ、わ、分かりました。至急確認します」
受付さんは慌てた様子でギルドマスターの部屋へと駆けて行った。プロに見えてこういう突発的な事態には弱いのね。
待っている間、隣の受付嬢さんにゲイルのハンター登録を頼む。ハンターのシステムは各国共通であるから、ゲイルは俺達の時と同じようにGランクからのスタートとなった。早々に魔獣退治の依頼でもこなしてDランクに上げないといけないな。Gランクでは魔獣退治は許可されていないが、Bランクの俺と同じチームならば問題は無いだろう。
そうしてゲイル専用のハンターカードが出来上がった所で、さっきの受付さんが戻って来た。
「お、お待たせいたしました。ギルドマスターがお会いになるそうです」
そのまま俺達は、ギルドマスターの部屋へと案内される。部屋の位置もほとんどオールンドのギルドと同じだな。なんか決まりでもあるんだろうか。
さて、オールンドのギルドマスターは爺さんだったけども、ここマイアのギルドマスターはどんな人物かな……?
期待と不安を胸に抱き、ガチャリと戸を開く。
するとその部屋の中に居たのは……
「はぁい。貴方達が噂のハンターチームね。アタシはこのマイア支局のギルドマスター……アグヴェリオよ。気安くアグちゃんって呼んでも構わないからね。よろしく♪」
緑色のメッシュの入った金色の髪、そして細面の端正な顔立ちと切れ長の目つき。
手足はすらりと伸びていて、着込んでいる豪勢なドレスの裾から覗く足は実に艶めかしい。
……だが男だ。
口調は完全に女性だが、声は甲高くは無く逆に低く野太い。
……つまりは男だ。
胸元が大きく開いたドレスであるが、そこに谷間のような物は存在しない。あるのは、意外な程に鍛え上げられた胸板だけであった。
……完全に男だ。
なるほど、こういうタイプの新キャラクター登場になりますか。
……濃いなぁ。
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