第7話
美波は結局、くるみの死因についての真実を突き止めることができていない。
美波は悔しくて、悔しくて仕方がなかったが、もう今は自分がどうしようもなく惨めで何もできないことを、彼女の笑みで改めて思い知らさせ、認めてしまおうかと思い始めた。
「美波ちゃん…? お出かけするの?」
「うん、ちょっとね」
美波は玄関にて、母から声をかけられた。母の顔にはいつもの明るい表情はなく、少し不安がっている。
「いってらっしゃい、美波ちゃん」
「う?」
母はそう言って手を降った。だけど、美波は母の方を振り向かないまま、家を後にした。
「美波ちゃん、大丈夫かしら……。そろそろ学校にも行ったらいいのに…」
美波は全速力で道を駆け抜ける。風は彼女の長い髪を揺らす。
空気の匂いが鼻から伝わった。空気の匂いといっても、そこまでどんなものかわかったものではないが、美波には、この風を切る美波には、よくわかった。
「あぁ、今ならまだ死んでしまえそう」
走り行った先には一つの小さな神社が立っていた。手前には赤色の鳥居、奥には石でできた鳥居。そして二つの鳥居の先にはしっかり神を祀っているであろう建物があった。
―美波がここに来た理由はあのメールだった
『美波さんへ。突然の連絡ごめんよ。
あ、そうそう俺は君の親友、成瀬くるみの死因を知っているんだよ。もし気になっているのであれば一つ交換条件としようよ』
見に覚えがあるようなこの口癖…。語尾に「〜よ」と無駄につけ、中々ないような話し方だ。美波には少し心当たりがある人物がいたのだ。
そして、もう一つ美波は気づいたのだ。この文は縦読みだということに。
頭文字をとり、縦で読むと
―みあしば
そう、よく読み替えればみやしばとも呼べる。漢字にすれば宮柴。美波はあの文でこう読み取ったのだ。
もしかしたら、ただの勘違いかもしれない。いや、きっと勘違いだ。そう思ったのだが、もう行動せずにはいられないようになってしまった。
まぁ、それはともかく「宮柴」とこの神社に何の関係があるのか説明しよう。
―それはあの夏の日
「くるみ、くるみ! これ、なんて読むの??」
美波は人差し指で、神社の名を示す岩を指して尋ねた。
岩には「柴宮」と掘られている。そのはずだったが――
「宮柴?じゃない?」
くるみは、まさかの右から読んでしまったのだ。
そんなこんなで、今ではただの笑えてしまうような話だったのだが、なぜか二人は大きくなってもこの神社のことを「宮柴」と呼ぶのであった。
あのメールが本当に縦読みであったなら、もしそうなら、あのメールは美波にここにくるように知らせていたのだろう。
時間など伝えられてなんかいない。ただここで待っていればきっとメールの相手は来るのだろう、いや待っていてくれているのだろうと強く信じた。
美波は鳥居を潜り、胸を張って前を向いた。
「やっぱり君は――――」
鳥居の先には頬に傷跡がある少年が、真面目な顔してこちらを見つめていた。そんな少年に美波は偽りの笑みですっと息を吸ってから―
「くるみを愛していたんだね、千早」
と、そんなふうに言った。
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