第9話 幻惑のウィンドブレーカー

 零護は頭から足の先まで水浸しになった茉森へ、フード付きのウィンドジャケットを渡す。


 フィールド内がどんな所か分からなかったので、念のために準備しておいて助かった。


 しかし問題は茉森の服装にあった。

 如何せん目のやり場に困る。


 さっきまでの巫女装束はミニスカート袴ではあったものの、確殺の巫女としての服装だと納得していたから、袴からのぞく白いふとももにも全く心が動かされなかった。


 だがしかし、今はどうだ。


 栗色のセミロングはしっとりと濡れ、恥ずかしそうにうつむき、零護を見上げる表情。


 濡れたままで行動するわけにもいかず、零護がさっきまで着ていた「とうきょうじんです」Tシャツを渡し、その上にウィンドブレーカーを着ている。


 ちなみに零護は上半身裸だ。

 こればかりは変えのシャツを忘れたので仕方がない。


 茉森は全身ずぶぬれだったので、ウィンドブレーカーより下は何も履いていない。


 今の茉森の装備は「180cm男性用の大きめのTシャツ」と「180cm男性用の大きめのウィンドブレーカー」のみとなっていた。


 しかもウィンドブレーカーの首周りの襟は長く、茉森の口元も襟で隠れて、より可愛さが際立っている。


(く、なんだこの——なんだ? 言葉に言い表せない感情は!)


 そう零護は自分自身でも気が付いていなかったが、無類の「口元が隠れたり、パーカー的な服装に弱い属性の男性」だったのだ。


 理由は小学校当時の茉森がパーカーを多く着ていたことに由来するのだが本人は知る由もない。


「……ご、ごめんね」


 小型犬のようにしょぼんと肩を落とす茉森を見て、心苦しくなる。

 

(そうだ、こんなにも落ち込んでいるのに、よこしまな気持ちで見ては失礼だ——俺としたことが何たる不覚!)


 両手で頬を叩き、キッと森の奥を見定める。

 確滅の巫女と護衛役、神威として精神集中の修業を思い出す。


 冷静さを失い、女や金にうつつを抜かさないようにするための訓練を思い出すことで、零護の心は一片の揺らぎもない静かな湖として冷静さを取り戻した。


「気にするな、マモリ。歩けるか? もし歩けないなら背中に——」


「だ、大丈夫だよ!」


 茉森としてはおんぶされるのは願ってもないことだが、さすがに何も履いてない状態でおんぶされると、足やら貧相な胸板やら自信のない部分が密着してしまうので、反射的に断ってしまった。


 しかも他のパーティーに遭遇したら何事かと思われる。


(いや、まてよ、まるで彼氏彼女に見られるから、クラス内で先に印象付けておくのも良い……)


 と思った頃にはもう遅い、零護は相変わらず表情を変えずに歩き出していた。


 それから一時間ほど零護と茉森は襲い掛かってくる上位モンスターを片っ端から倒し、森の奥深くであからさまな宝箱を見つけた。


 茉森は金属でできた赤を基調とした宝箱を開けると、中からは二つの武装が現れた。


「これは——」


 光り輝くプレイヤー用の武装。

 これを手にした瞬間、二人は正式なプレイヤー候補生として、フィールド化が発生する世界を正常化するために戦うことになる。


──────あとがき──────

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いつかレビューがもらえたら嬉しいなと思いつつ、次回のお話も頑張ります。

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