第4話 既にモンスターにやられた後なのか?
久しぶりに出会った幼馴染、天音茉森(あまね まもり)は、自信満々な表情で自身の唇を噛み千切りながら、鮮血を滲ませ零護の前まで歩いてきた。
それにはどんな時も冷静さを保つ、確滅の巫女の護衛役である神威として修業してきた零護もさすがに動揺する。
(既にモンスターにやられた後なのか?)
いやまだフィールド化の予想はこの地域にはなかったはずだ。
何事かと思ったが、とりあえず平静を装いつつ茉森に声をかけてみる。
その刹那、茉森は自分の頬っぺたを平手打ちして破裂音と共に地面へ倒れ——こみそうになり、何とか膝をつかずに踏みとどまった。
まるでどこぞのボクサーのように燃え尽きる直前の立ち方である。
ここで膝をついたらタイトルマッチの敗北が宣言されるかの如く、彼女は鬼の形相で膝に力を込めている。
(モンスターと命のやり取りを行わない平時ですら、これほどの緊張感を漂わせるなんて。確滅の巫女とはそれほどまでに厳しい修行をしてきたんだな)
零護は茉森の心も知らず、どこまでも純粋な男だった。
今にも倒れこみそうな茉森の華奢な腰に手を回し、倒れないように抱き留める。
「大丈夫か、マモリ」
確滅の巫女の神威としての役目は彼女の絶対なる安全である。
乾家に生まれ幼いころから天音家の巫女を守ると教えられてきたのだから、この心に偽りはない。
これからプレイヤーとして戦いに身を投じていくのだ。
だから茉森にはどんな小さなケガも出来れば負って欲しくなかった。
零護は鮮血を流したときの方法も熟知している。
鞄から音もなくガーゼを取り出し、そっと唇の血を拭う。頬にはどこから取り出したのか冷やしたハンカチを当てた。
「あ、ありがとう、零ちゃん——」
何故かよく分からないが茉森の手当てをしているのに、しっかりと抱きとめて頬にハンカチを当ててやるほど茉森の体温は上がり、脈拍は早くなっていく。
「これは保健室に行くべきだな」
「ひ、ひぁああ、あふ、ばぶ、あふ」
突然、校門でお姫様抱っこされた茉森は訳が分からず、赤ちゃんですら話さないようなふわふわとした言葉を口から流した。
茉森はこの時、零護に抱かれながら、消えかかる意識の中で思っていた。
(死ぬ、死んでる、死んで転生を繰り返してる、異世界五回くらい救ってる。やばい、これ、やさしすぎるこの幼馴染)
それから保健室に茉森を運んだことで、零護と茉森は遅刻を免れた。
零護は茉森が倒れている間じっと彼女の表情や体調を『視て』いた。
茉森はそんな零護の熱い視線をどう感じ取ったのか、あまりにも胸が苦しすぎてシーツを頭からかぶってじっと黙っていた。
その為、久しぶりに再会した幼馴染は何の会話もないまま1時間目を終えた。
零護は茉森の体調が戻った事を確認し、二人で教室へと戻ろうとしたが、教室には誰もいなかった。
零護のスマートフォンが小さく揺れる。
慣れない手つきでスマートフォンの表示を読もうとしていると、茉森も同じようにスマートフォンを確認していた。
「え、そんな、はやすぎない?」
驚くの茉森も無理はない。
二時間目は早くもフィールド化した実践授業だった。
────────────────あとがき──────────────────
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
初めてのラブコメなので、参考までに「★」「応援」「コメント」をいただけると、とっても嬉しいです。
いつかレビューがもらえたら嬉しいなと思いつつ、次回のお話も頑張ります。
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