第八話 はんぶんこ

僕が予約したレストランに入る。


河井さんはさっき歩いてるときは何だか元気が無いように見えて心配だったけど、料理を選ぶ目はキラキラしていて可愛かった。


「どれにしようかな~」


河井さんはメニューのページをめくりながらそう言った。


「河井さんの好きなの選んでいいよ」


僕は河井さんが料理を選んでいる姿をずっと見ていられる気がする。


「佐藤くんはどれ食べるの?」


河井さんは突然目線をこっちに向けて聞いてきた。僕は慌ててメニューに視線を下ろした。


開いてたページに美味しそうなステーキが写っていた。


「僕はこれにしようかな」


メニューを指さして河井さんに見せた。


「それも美味しそう……でもこっちも美味しそう……」


食べ物でこんなに悩むんだと河井さんの新しい一面が見れたようで嬉しかった。


「じゃあさ、はんぶんこしようよ」


僕は河井さんに提案した。すると河井さんの顔が一気に晴れた。


「え?!いいの?!佐藤くんありがとう!」


僕は可愛いなと思いながら料理を頼んだ。


僕たちは運ばれてきた料理を半分ずつ分けてそれぞれ渡して食べ始めた。


「いただきます」


河井さんは僕が頼んだステーキを先に口の中に入れた。


「ん!このステーキ柔らかくてすっごく美味しいね!」


河井さんは幸せそうな表情でお肉を食べた。


僕も一口サイズに切ったお肉を口の中に入れた。お肉の脂と肉汁が口の中で溶けあって混じり合う。


「うん!ほっぺたが落ちそうなぐらい美味しいね!」


こんな美味しい料理を河井さんと一緒に食べられるなんて幸せだな。


このときの僕はこのあと告白することをすっかり忘れて楽しんでいた。


僕たちは料理を食べ終わり、店の外に出た。


「佐藤くん、お金ほんとうによかったの?」


河井さんが申し訳無さそうに聞いてきた。


「うん。僕が誘ったんだから気にしないで」


僕は少しだけカッコつけたくてそう言った。


河井さんはそれを聞いて


「ありがとう、佐藤くん。ごちそうさまです」


と手を合わせて小さくお辞儀した。


僕たちはイルミネーションで飾りつけされたメイン通りを歩いてゆっくり駅前に戻って行った。

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