団体戦終結……?

――――住宅街地帯。



 和樹はひたすら光樹から逃げ隠れしていた。

 住宅街地帯は多くの遮蔽物があり、逃げるのにはうってつけの場所だった。



「これでは埒が明かない。仕方ない。壊すか」



 そんな和樹にしびれを切らした光樹は光魔法で周囲の住宅街を無差別に破壊し始めた。



「おいおい、そんなことしたら隠れる場所がなくなっちまうじゃねぇかよ!」



 無差別攻撃に巻き込まれない様に光樹から距離を取りながら、和樹は悪態をついた。

 光樹の攻撃により住宅街地帯は一瞬にして半壊状態。和樹が隠れる場所はほとんどなくなってしまった。



「ったく化け物んかよ。こっちは魔法を使えないってのによ」

「だから、君は退学なんだよ」



 和樹は光樹の圧倒的な魔法に意識を割かれ、すぐ傍にまで来ていた彼の存在に気が付かなかった。

 光樹は背中の翼で飛行し、和樹の上を取っていた。



「っ!」



 和樹はすぐさま光樹の射程から逃れようと動くが時すでに遅し。



「君の負けだ」



 光樹の指先から光のレーザーが放たれ、和樹の体を撃ち抜いた。

 光属性の魔法の特徴はその攻撃の速さ。魔法が発動された瞬間、人間の反応速度ではまず回避は不可能。

 和樹はあっけなく光樹の前に敗れる。

 ……はずだった。



「びっくりした! 今、死んだかと思った」



 光樹の攻撃を受けたはずの和樹は無傷だった。



「なんだと!? 貴様、何をした!」

「なにって、え?」



 光樹に問いただされる和樹。しかし、その本人すら何が起きたか理解できていなかった。



「外した? いや、そんなはずは……」



 ここまで余裕の表情を崩さなかった光樹が初めて戸惑いを露わにした。



「今のがまぐれでもなんでも、次はない!」



 何かの間違いだ。そう結論づけた光樹は手当たり次第に魔法を撃ち込んでいく。



「ちょっ、ま!」



 和樹は背を向け逃げようとするが、その物量に押され全ての魔法をまともに食らった。



「はぁはぁ……、これで終わりだ」



 一気に魔法を発動しすぎたため、光樹は息を切らしていた。



「だから、あぶねえって!」



 それでも和樹は未だに無傷だった。



「どうなっている。こいつ……魔法が効かないのか……? まぁいい。それならそれで別のやり方に切り替えるだけだ」



 光樹はすぐに平常心を取り戻し、和樹に魔法が効かないと割り切って、攻撃方法を変える。



「これならどうだ」



 光樹は破壊した住宅街の瓦礫を魔法で浮かし、和樹に向かって飛ばした。



「いっ! それはやべぇって!」



 和樹はギリギリで避けるが、完璧には躱しきれず、瓦礫が頬を少し掠め、そこから血が流れ出した。



「どういう原理化は知らないが、なるほど、どうやら魔法を利用した物理攻撃なら効くみたいだな」



 和樹の弱点を看破した光樹はさっきほどとは比べ物にならないほどの瓦礫を浮かし、和樹を覆った。逃げ場のない全方位攻撃だ。



「ちょ、まっ……!」



 和樹の制止を無視し、光樹は容赦なく和樹に瓦礫の破片の雨を降らせた。

 流石に避けきれないと直感した和樹は目を閉じた。



「…………………………あれ?」



 しかし、いつまで経っても瓦礫は和樹の体には当たらず、不思議に思った和樹はゆっくりと目を開ける。



「ギリギリセーフと言ったところか」



 劣勢の和樹の前に姿を現したのは、大きな鎌を携えた藍紗だった。



「ほう、あれだけの瓦礫を全て打ち落としたのか」



 光樹の言う通り、和樹に向かって放たれた瓦礫は藍紗が鎌で全て切り伏せた。



「生徒会長ってのは弱い者いじめがお好きなようで」

「別のそんなつもりはないが?」

「そうか。なら、選手交代だ。アタシの相手をしてもらおうか」

「どちらが先でもそう変わらない。なんなら、二人同時でも俺は構わないぞ」

「そりゃ、ちょっと舐めすぎじゃないか?」



 そう言いつつ、藍紗は一足で光樹との距離を詰め、鎌を振るう。



「っ!」



 光樹は咄嗟に鉄の盾で鎌の攻撃を受け、そのまま後ろに飛んで距離を取る。



「……速い」



 想像以上の速さに光樹は息を呑んだ。



「逃がさないよ」



 藍紗は立ち止まらず、そのまま踏み込み、光樹へ鎌を振りかざす。



「っく!」



 今度は対処できず、光樹は左腕に掠り傷を受ける。



「浅いか……」



 踏み込みが甘く光樹に致命傷を与えることが出来なかった藍紗は舌打ちをする。



「これ以上は……!」



 光樹は藍紗に追撃されない様に、後ろに引きながら光魔法のレーザーを無作為に放つ。



「っ、鬱陶しい」



 レーザーは藍紗を直撃しなかったが、足を止めるのには十分な役割を果たした。

 藍紗は深追いできず、一旦和樹の傍まで戻ってきた。



「あの魔法の遠距離攻撃がウザい。アンタ、あれどうにかして」

「どうにかって、俺にどうにか出来るわけないだろ!」

「アンタ、魔法効かないんでしょ? なら、盾になってよ」

「盾って、無茶言うなよ! 大体、魔法が効かないって保証ないだろ。たまたまさっきまでダメージなかっただけかもしれないし」

「それなら大丈夫だ。自信もって魔法の中に飛び込んでいけ」

「ふざけんな! 魔法効かなかったとしても、心臓には悪いんだからな! 何度死ぬかと思ったことか」

「じゃあ、どうすんだ。このままやられるのか?」

「それは……」



 藍紗の言葉に和樹は言いよどんだ。



「覚悟決めろ。魔法以外の攻撃はアタシが何とかしてやるから」

「ああ! もう、分った! やるよ! やってやるよ!」



 和樹はやけくそ気味に藍紗の話に乗った。



「よし、じゃあ、アンタ、アタシの前、走れ。それだけでいい。それ以外はこっちでフォローする」

「信じるかんな」

「任せておけ」



 藍紗が和樹の背中を叩くと同時に二人は光樹に向かって走り出した。



「永田を盾に突っ込んでくるか。だが、そいつの弱点は既に知っている」



 光樹は瓦礫の破片を浮かし、和樹に向かって飛ばす。



「……っ!」



 和樹は瓦礫の破片にビビって一瞬足を止める。



「止まるな! そのまま突っ込め!」



 しかし、藍紗に背中を押され、和樹は瓦礫に目もくれず突っ走る。



「瓦礫は全部アタシが叩き落す!」

「何をする気だ……?」

「武装展開……!」



 その言葉と共に藍紗の背後に無数の剣や槍などの武器が生成されていく。



「なんだあの魔法は……」



 見たことのない魔法に光樹は眉をひそめる。



「錬成魔法、“武具戴天”」



 生成された武器は光樹の飛ばしてきた瓦礫を迎撃し、全て打ち落とした。



「あれほどの武器を一度に生成し、それを操作するだと? 聞いたことがない。こいつも規格外なのかっ!」



 光樹は急いで距離を取りつつ、和樹たちに瓦礫の破片を飛ばしていく。

 しかし、その全てが藍紗の生成した武器によって打ち落とされる。



「なら、炎で溶かすまで!」



 光樹は青白い炎を前方に展開する。



「約八千度の炎。これなら生成された武器も使い物になるまい」



 光樹を阻むように展開された炎の壁。放たれた藍紗の武器はことごとく溶かされ、光樹には届かない。



「おい、どうすんだよあれ」

「突っ込め」

「あ?」

「突っ込めって言ったんだ」



 聞き返す和樹に藍紗は変わらずゴーサインを出した。



「マジで言ってんのか。全身焼け焦げて死んじまうんじゃねぇか?」

「心配ない。あれがどんな高熱だろうが、魔素を元にして生み出された炎ならば、アンタが触れた瞬間、無に帰す」

「それ、どういうことか、俺分かってないんだけど?」

「逸人が前に説明していたはずだが?」

「聞いたけどよぉ~。ぜっんぜん意味分かんなかった」

「はぁ~、それはもう理解しないお前が悪い。罰としてあの炎の壁に飛び込んで行け」

「いや、だから、無理だって!」

「ええい、じれったい!」



 尻込みしている和樹にイライラしだした藍紗は和樹の首根っこを掴み、炎の壁の方へとぶん投げた。



「なぁ!」

「なに!?」



 藍紗の予想外な行動に和樹だけでなく、光樹も驚きを隠せなかった。



「永田! 手を大きく振れ!」

「んな、無茶な!」



 文句を言いつつも和樹は投げ飛ばされながら、空中で炎の壁を振り払うように手を大きく振った。

 すると、炎は和樹が触れた個所から消えていった。



「なんだと!」



 和樹に魔法が効かないとだけ思っていた光樹は動揺した。

 和樹に魔法が効かないのではない。正確には和樹の体に触れた瞬間、魔法が霧散してしまうのだ。



「よし、これで邪魔なものはない!」



 炎の壁が消え、藍紗は真っ直ぐに光樹へと向かっていく。



「いや、まだだ!」



 炎の壁が消えたとしてもまだ光樹と藍紗の間には距離があった。

 光樹は藍紗が距離を縮めるまでの間に再度、炎の壁を展開しようとした。



「悪いが、これで決着だ。“リインフォースメント”」



 そこで藍紗はボイスコマンドを入力した。



「なっ!」



 その意味を一瞬で悟った光樹だったが、もう間に合わない。



「(さっきまではリインフォースメントの強化なしで戦っていたというのか!)」



 藍紗は一足で間合いを詰め、大鎌を振り下ろす。

 急に早くなった藍紗の動きについていけず、光樹は大鎌の一撃をもろに食らい倒れるのだった。



「俺たち、勝ったのか……?」

「今のは手ごたえあった。アタシたちの勝ちだ」

「よっしゃー!!!」



 和樹は両手を大きく上げ、勝利の雄叫びを上げるのだった。









「勝負あったな」



 モニター室で観戦していた琴里は倒れた光樹の姿を見てそう確信した。

 砂漠地帯ではソフィと合流した光咲が一瞬にして浪川を戦闘不能にしていた。これで生徒会メンバーは全滅。逸人たちの勝利だ。

 琴里は決着がついたことをアナウンスしようとマイクをオンにした。

 その時だった。



「なんだ、これは……!」



 驚く琴里の視線の先にあるモニターに映っているのは負けたはずの光樹の変わり果てた姿だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る