光樹の過去

 逸人は琴里に連れられ面談室へと連れてこられた。

 ソフィと和樹には先に帰って貰っており、今この場には二人だけだった。



「まぁ、座れ」



 琴里にせかされ逸人は琴里の向かいの席に座った。



「で、私の弟について聞きたいんだな」

「そうです。さっき言っていた、高等部以前の話を」

「話してもいいが、それがあいつに勝つための弱点にはなりえないかもしれないがそれでもいいか?」

「別に生徒会長の弱点を探るために聞きたいわけじゃないです。ただの興味本位です。それと情報は多いに越したことはないので」

「……嘘、だな」

「嘘? 何がですか?」

「興味本位ってとこだ。本当は別の目的のために聞きたいんだろう?」

「それは……」

「いや、誤魔化さなくていい。事情なら知っている」

「え? 事情を知っているって……」

「大罪魔法の調査の為、だろ?」

「どうしてそれを……!?」

「頼まれたんだよ、あのバカに」

「あのバカ……、もしかして弥生所長ですか?」

「そ、そいつだ」

「あの人と知り合いだったんですか!?」

「幼馴染みの腐れ縁ってやつだ。だから、上蔀のことも聞いてるし、一緒に来た二人のことも聞いてる」

「それなら話しは早い。この学園に大罪魔法って本当にあるんですか?」

「そうだな……、結論から言うと分からない、だ」

「分からない?」

「確かにこの学園に大罪魔法があるって噂は一部で流れている。が、教職員である私でもその存在を知らされてないし、ありそうな場所に心当たりもない」

「でも、火のない所に煙は立たないって言いますよね。何か噂になるようなことがあったんじゃないんですか?」

「あったさ。それが光樹だよ」

「やっぱり……」

「その反応からすると想定内って感じだな」

「はい、予想はしていました。ソフィが持ってきた大罪魔法が存在するという噂の出所はどこなのか。そして、生徒会長が高等部に入ってから急に力をつけ始めたきっかけは何なのか。もし、この二つが繋がるのだとしたら、それを結びつける存在はただ一つ、大罪魔法だけだと」



 大罪魔法は持っているだけで常人を超えた力を手にできると噂されている。生徒会長の不可解な魔法吸収率や使用属性の多さは大罪魔法が関わっているのではないかと逸人は考えていた。



「弥生に聞いていた通りだ。流石、頭の回転が速いね。さっきの私たちのやり取りを聞いただけで、そこまでの推論を立てるとは」

「そう褒められたものじゃないですよ。これはあくまで推論。その確証を得るために、先生から生徒会長のことを聞こうと思ったんですから」

「そうか、なら申し訳ないが期待に応えられそうにない」

「と言うと?」

「光樹は大罪魔法のグリモワールを持っていないからだ」

「その確証はあるんですか?」

「……そうだな、少し身内話をしてもいいか?」

「それは、構いませんけど……」



 急に話題が変わり不思議に思う逸人を尻目に琴里は話し始めた。



「高等部に入ってから光樹の魔法力が上がったと話したな」

「はい、それ以前とは比べ物にならないほどに。そして、今や生徒会長になるほどに力を付けている」

「けど、それだけじゃないんだ。あいつが変わったのは」

「それだけじゃない?」

「性格もさ。前はあんな性格じゃなかった」



 琴里は懐かしむように語り出した。



「昔は引っ込み思案で、自分に自信がなくて、いつも何かあるたびに私に頼ってきていた。けど、今は違う。自分に自信しかない。なんでもできると思い込んでいる節がある。口調も変わって、まるで別人のようになってしまった」

「急に力に目覚め始めて調子に乗り出したって感じですかね?」

「そんな感じだな。だけど、前は少しうまくいってもあまり驕ったりしなかったんだ。そう考えるとやはり力が付いた以外にも何か光樹に変化が訪れているかもしれない。それかもしかしたら……」



 琴里は何かを言いかけてやめた。



「もしかしたら、何ですか?」

「あ、いや、私のせいもあるのかもってな」

「どういうことですか?」

「自分の生徒に話すのは少し憚られるが、お前ならいいだろう。私は魔法師になるだけの力があり、学園側からその推薦もあった。だけど、私はそれを蹴って教職の道に進んだ」

「それ、他の生徒が聞いたらあまりいい気はしなさそうですね」

「だから、お前には言ったんだ。他の生徒には言うなよ」



 この学園の生徒たちは皆魔法師になる為にこの学園に通っている。しかし、全員が魔法師になれるわけではない。魔法師の試験に合格するか、琴里のように推薦を貰わなければ魔法師になることは出来ない。



「でもそれが生徒会長と何の関係があるんですか?」

「あいつはな、私に憧れていたんだ。なんでもできる姉。それがあいつの誇りであり目標だった。そして、光樹は私が魔法師になるものだと思っていた。けど、現実は違った。私は魔法師にはならず教職の道を選んだ。あいつは多分、そのことが許せなかったんだと思う。あの時、好戦的な性格じゃなかったあいつが初めて私に反発したんだ。どうして、魔法師にならないんだって。怒ってた。光樹が本気で怒ったことなんて今までなかったから、今でも覚えてる。それから、しばらく塞ぎこむように部屋に籠ってしまった時期がある」

「その後、ですか? 生徒会長が変わったのは」

「今にして思えばそうだな。転機はその時かもしれない」

「そうですか。分かりました」



 逸人は席を立つ。



「なんだ、もういいのか?」

「はい、聞きたいことは聞けたので。そして、俺のやるべきことも決まったので」

「やるべきこと?」

「まぁ、二週間後の摸擬戦を楽しみにしていてくださいよ」



 逸人はそう言い残し、面談室を後にした。

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