宣戦布告

 逸人たちは生徒会長がいるであろう生徒会室へと向かっていた。



「あれ? 藍紗、お前なんでここにいんだ?」



 生徒会室前には藍紗が中を伺うようにひっそりと立っていた。



「なんでって、あんたの頼みでだよ。自分で頼んで忘れてたのか?」

「ん、ってことは生徒会室にいるのか?」

「生徒会長と一緒にいる。なんか用なのか?」

「生徒会長の方にな。けど、一緒にいるならちょうどいいか」



 逸人はノックもせず、生徒会室にどかどかと入っていった。



「なんだね、君は?」



 生徒会室には生徒会長である光樹、そして理事長の二人だけだった。



「先月転校してきた二年の上蔀逸人です。今日は、そこの生徒会長に用があってきました」



 逸人は挑発的に光樹を指差した。



「俺に用、か。それはそこの後ろにいる二人と関係していることか?」



 察しの良い光樹は逸人の後ろにいるソフィと和樹を見る。



「分かっているなら、話が早い。こいつらの退学を今すぐ取り消してくれ」

「それはできない相談だ。彼らの退学はもう既に全校に告知されている。撤回するのは生徒会のメンツにかかわる」

「やっぱ、そうなるよな。赤城って言うつっけんどんな態度の女からもそう言われた」

「なら、諦めるのだな」

「いいや、どうせ無条件で退学を撤回してくれるだなんてはなっから思っちゃいないよ」

「では、どうするんだい?」

「俺と摸擬戦をしろ。そこで俺が勝ったらこいつらの退学を取り消せ」



 逸人は赤城に言ったのと同じセリフを光樹にぶつける。



「君、いきなり来て何を言っているんだい! 摸擬戦で退学を取り消そうだなんて……」

「何故、理事長が止めようとするんだ? 俺は生徒会長に言っているんだが?」

「そ、それは……」



 理事長はあからさまに動揺していた。



「理事長、落ち着いてください」



 そんな理事長に光樹は声をかける。



「俺が彼の摸擬戦申し込みを受ける義理はない」

「た、確かにそうだ。摸擬戦は互いの同意があって行われるもの。光樹君が了承しなければ、成立しない」

「っち、やはりと言うべきか。まぁそうだよね」



 逸人は予想通りとは言え、光樹が摸擬戦を受けてくれないことに苛立ち軽く舌打ちをした。

 光樹とどうにかして摸擬戦を行えないかと思案する逸人だったが、何も思いつかなかった。

「だが、このまま引き下がるわけには……」



 このままでは大事な報酬が無くなってしまう。それは逸人にとっては大きな損失となる。どうにかして回避したいが何も策が思いつかない。

 そんな時だった。



「いいじゃないか、その摸擬戦。受けてやりなよ」



 そう言って生徒会室に入ってきたのは、琴里だった。



「っ。姉さん、何故ここに?」



 光樹は露骨に嫌そうな顔をしていた。



「何故って、大事な生徒が退学処分食らうってそこら中に張り紙されれば、文句の一つも言いに来たくなるものさ」

「それでわざわざ文句を言いに来たと?」

「そのつもりだったんだけどね。なんだか、面白そうなことになっているじゃないか。上蔀と摸擬戦するんだってな」

「俺にそのつもりはない」

「何故?」

「受けるメリットがこちら側にない。それに俺は忙しいんだ」

「メリットがない? そんなはずはないだろう?」

「何?」



 光樹は琴里の言葉に眉をひそめる。



「高等部以前の光樹の成績を知っている生徒たちから疑惑の声が上がっているのは知っている?」

「ああ、それくらい嫌でも耳に入ってくる。だが、それがどうした。俺はそんなもの気にしない」

「高等部以前の光樹の成績は最底辺だった。ろくに魔法も使えなかった。それが高等部に入ったあたりから急に力を付け出し、そしてつい先月生徒会長まで上り詰めた。イカサマを疑っても仕方ないだろうね」

「イカサマだって? それこそ笑い種だな。先月の選抜試験でみんなの前で俺の力は示したはずだ。あれのどこにイカサマがあったと言うんだ」

「そうだね。あれを見た感じじゃ、イカサマをしているようには見えなかった」

「そうだろう。だって、イカサマなんかしていないのだから」

「けど……」



 琴里は逸人たちの肩を抱き寄せて言う。



「この子たちの方が強い」

「なん、だと……?」



 そこで光樹が苛立ちの表情を見せ始めた。



「俺より強いだって? そこの底辺にいるゴミどもがか!?」


 余裕そうな雰囲気を出してた光樹の姿はとうになく、口が悪くなり、感情が制御できていない様だった。



「なら、証明してやる。俺の圧倒的な力を。そうすれば満足か?」

「それはつまり、上蔀の摸擬戦を受けると言うことだな?」

「ああ、そうだ。そこの人間を叩き潰せばいいのだろう。簡単なことだ」

「ちょ、ちょっと、光樹君……」



 理事長はあせあせと光樹に近寄り何やらひそひそと話し始めた。



「分かった。あなたがそう言うのなら、そうしよう。不本意ではあるがな」



 少し怒りを抑えた光樹が理事長の言葉に耳を貸した様だった。



「上蔀と言ったか。貴様の模擬戦の挑戦受けよう。だが、戦闘方式に条件を設ける」

「条件?」

「生徒会全員と貴様ら、五対六の団体戦だ。もちろん、六人ってのは貴様らの方だ」

「五対六? 六人って言われても、俺たちは俺含めて、ソフィ、和樹、光咲それと人数として入れていいなら藍紗だが、それでも五人だけだぞ?」

「そこはハンデだ。君たち最底辺のメンバーでは生徒会相手じゃ相手にならないだろう。だから、一人だけ助っ人を用意するといい。誰でも構わない。退学になる覚悟があるものならな」



 退学という脅しはあるが、それは逸人と同様に藍紗にもあまり意味のないものだった。だから、藍紗は自分が人数に数えられていることに関して何も言わなかった。



「人数的にはこっちが有利の団体戦か。まぁ、いいだろう。それで摸擬戦を受けてくれるなら構わない」

「では、この勝負成立だ。日程は二週間後。賭けるものは貴様らの退学の有無だ」

「じゃあ、俺たちはこの辺で失礼するぜ」



 そう言って逸人たちは生徒会室を後にした。






「おいおいおいおいおいおいおいおい! あんなこと言って本当に大丈夫なのかよ! 団体戦って、俺何の役にも立たないぞ!」

「私もです。上蔀さんと生徒会長との一騎打ちの方がまだ可能性はあったと思います」



 生徒会を出た後、ソフィと和樹は逸人の文句を言いまくっていた。



「大丈夫だ、一応策はある」

「本当か!?」

「問題はあいつが仲間になってくれるかというところと、そいつの成長具合だな」

「あいつ? もしかして、助っ人枠のことか? もう既に目星がついているのか?」

「ああ。それとお前たちにもこの二週間努力してもらわないとな。本番で使い物になるように」

「え? それってどういう……」

「それはおいおい話す。それよりまずは……」

「分かっている。私はこのまま調査に戻る」



 逸人の言いたいことを察した藍紗はその場から去っていった。



「なんだ、調査って」

「お前には関係ないことだ。それよりも、橋間先生にちょっと話があるんですけど」

「ん? なんだ? さっきのお礼なら別に構わないぞ」

「いや、それもあるんですけど。先生の弟さん、生徒会長について聞きたい」



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