第62話 桜草の宮(5)
桜草の宮の食堂で養母様のお帰りを待っている。
アナベルに案内されて、私の居た客間から中庭が見える一室へと入って来ました。
ここは養母様専用の昼食用の部屋だそうです。
執務宮の中にある養母様の執務室から比較的近い場所に作られている。
親しい人と食事が出来る様に暖炉を背にシンプルな長方形のテーブルを取り囲んで6脚の椅子が配置されている。
9月に入ったが、ジュヘイモスはまだ夏が残っていて暖炉に火を入れるほどではありません。
部屋の壁は薄いベージュ色の単色にしてあるのは養母様の趣味に合わせてあるのでしょう。
部屋全体が簡素で、それでいて花が暖炉や部屋の隅に飾られていて落ち着いた雰囲気を感じます。
あまり待つことなく養母様が入って来られました。
「お帰りなさいませ、お養母(かあ)様」軽くお辞儀をしながらお迎えします。
「あら、起きて来たのね、カスミちゃん」
「朝遅いから心配したのよ、飛空ってそんなに疲れるの?」
養母様は私が朝遅くまで寝ていたのを心配されておられるのでしょう。
「ご心配おかけしました」
「昨日の夜も飛空で帝国のミオヘルンまで行ってきた為で、寝たのが夜の11時(午前4時)だったからですわ」
ここで暴露しても良かったのかなぁ。
「あらあら、そうなの?」
養母様が目を見張っています、驚いたご様子です。
「ふぅーん」と言いながら、向かいの椅子に座ります。
私も椅子に座ると、養母様は食事を始めるように昨日も居た侍女に言っています。
「先ずは食事を始めましょ、お話は食後にゆっくりと聞くわね」
昼食は岩パンを給仕する人がスライスしてくれたので2切れ貰った。
朝はバターとブルーベリージャムだったので今度はスグリのジャムにしましょう。
メインは薄切りの玉ねぎと赤い色(唐辛子?)をした何かと共にイワシをマリネにしてケッパー(蔓性のフウチョウボクの蕾をマリネにした物)を散らした料理で独特の風味と辛みがイワシを美味しくしています。
養母様に依ると、ケッパーは此処(桜草の宮)の中庭の一角に温室が在って、そこで栽培されているそうです。
赤色は唐辛子で間違いないようです、これも中庭で栽培されているそうです。
唐辛子は直接食べると、辛みが強すぎて味を損ないます、漬けた汁に出たぐらいが丁度良いのだそうです。
中庭が家庭菜園に成っている様子が思い浮かびます。
食事中の会話は料理の材料を話題に話が弾みました。
食後のお茶の時間に、先ほどの飛空の続きを話します。
「帝国と商業同盟の通信を中継バードが何度か傍受しています」
「その中にカモメの符丁が在りましたの」
紅茶を飲みながら、情報部の最近の活動を報告します。
「そこでカモメは商業同盟を経由して帝国に渡されたと判断しました」
「帝国海軍の符丁でしたので、ミオヘルンの港にカモメが居るのか、昨夜偵察に行って来たのです」
「そうなのね、情報部は商業同盟の符丁と帝国海軍の符丁を解読してたのね」
養母様は情報部の活動に何やら考え込まれておられます。
「たまたま、彼らが使った符丁の中にカモメの名前をそのまま使ったので分かったのです」
「まだ完全には掴めていません」
情報部の現状を説明して、まだ解読は途中までしか出来ていない事を知らせます。
「彼らの船に偵察バグを侵入させて探らせている所です」
「ミオヘルンの港町の海軍用桟橋に厳重に監視されてカモメが係留されていました」
「カモメを見つけたのね!」養母様は驚かれたご様子で声が大きくなっています。
「はい、残念ながらカモメでした」
昨日の無念が又込み上げて来ます。
「厳重な警戒を見て、取り戻す事は諦めました」
そこまで説明すると、養母様もその先を察したのか厳しいお顔をされています。
「幸い、彼らが見張っている先は海か桟橋の方でしたので、空からカモメに近づくのは簡単でした」
「船のあちこちに発火装置を仕掛けて離れると、上空からカモメが燃え尽きるまで確認して帰還しました」
そこまでは早口で説明しているとついため息が「ふぅ」と出てしまいました。
「残念だったわね、でも燃やしたのは帝国へ新型船の情報を渡さない為には必要な事よ」
「よくやりました、カスミちゃん」
と私の決断を褒めてくださいました。
「ただし、夜中に黙って飛空でここから出て行くなんて」と私を一睨みすると。
「今後は一言言ってから行動しなさい、分かりましたわね」
と叱られてしまいました。
立ち上がって、お辞儀します。
「ごめんなさい、お養母(かあ)様、これからはそうします」
報告した後、養母様は昨日の犯人(魔薬の件の事務員2人組)は確保して、市内の家(隠れ家)で調べていると教えて下さいました。
昨日お菓子を運んだドワーフの女性はとても怒っていましたので、厳しい取り調べを行っているのでしょう。
今の所まだ調べ中で背後関係などは分かっていないそうです。
彼女たちの所属は総務省なのは分かっています(案内は総務省管轄なので)、知りたいのは誰の指示で魔薬を仕込んだのかです。
行使痕の件は、サリアの師匠がオウレに行っている為、急遽呼び戻す事にしたそうです。
オウレに居るのなら、カーライルさんではないかしら、彼は錬金と付加の専門家だと聞いています。
養母様に昼7後(午後)は市内の見物に行く事を伝えます。
養母様は気を付けて行くように言われると、足早に桜草の宮から執務宮の中へと入られました。
私も一度部屋へ戻りましょう。
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