第61話 焼き討ち

 一気に南下した私は夜の北洋海を北極星を頼りに南下していった。

 思えば夜間飛行にも慣れたものだと思う、黒の森ダンジョンでの苦い経験はしっかりと私の身に刻み込まれている。

 セルボネまで北洋海を400ワーク(600㎞)進んだ所で大きな都市が見えて来た。

 ジュヘイモスから南下するとセルボネ市あたりに着く、把握では確認できたが、目には黒い陸の中に都市の明かりが少し見えるだけだ。

 セルボネ市を見て懐かしさが込み上げて来るが、あの都市では凄惨な殺し合いが在った。

 懐かしさも在るが、苦い気持ちの方が多い。


 ここから海岸沿いに西行して行くとミオヘルンが在る。

 沿岸を100ワーク(150㎞)進むと港湾都市ミオヘルンの特徴的な河口の形が暗闇の中に見えて来た。


 港湾都市ミオヘルンは大河ワーカムの河口に広がる大きな港で、東から海へと流れる大河ワーカムが河口部分で大きく四角形の形に広がっている。

 これは帝国が海の玄関として港を整備した時に作られた人工の港です。

 この四角形の一角にあるのが帝国海軍省西部本部で、大きな丸屋根のドームを中心に左右に建物が広がっている。

 大型の軍船が係留できる桟橋が多数あり、陸地側には海軍工廠や関連の工房が林立している。

 川を隔てた向こう側はミオヘルンの市街が広がっている。


 ジュヘイモスから1刻(2時間)の飛空の後、ミオヘルンの上空へとたどり着いた私は、海軍の寂れた桟橋の一つにポツンと係留された小型の船を1艘見つけた。

 他の桟橋にも船の係留されている姿が見えず、小型の船が寂しげに係留されているのが哀れに見えた。

 今の帝国海軍は北洋海戦で失われた艦船の補充はまだまだ先の事だろう、今見える桟橋の現状がそれを語っている。


 小型の船の周りは警備が厳重で、歩哨が配置されていて、船の中にも何人か人が警戒している様だ。


 私の把握には、懐かしいカモメの船内の様子がそのまま残されている事が分かる。

 帝国はカモメを調べる前の様に思えた。


 カモメを確認した私は、この近くの工廠には帝国の自行船が作られていると聞いていたので、探してみる事にした。


 工廠と思える大きな造船工房は幾つもあるので、近くの工房から探して行く事にした。


 最初の工房には粗方出来上がった船とまだ骨組みだけの船が在った。

 船は北洋海戦で戦ったガレー船と同じで2段の櫂で漕ぐタイプの大型船だった。

 この工房は旧来のタイプの戦艦を作っている工房の様です。

 しかし、1つの工房で2隻の着工ですか、さすが帝国ですこの調子なら3年で元の北洋艦隊を再現出来そうですね。


 3つ目の工房で自行船と思える船を見つけました。

 でも、なんだかこれじゃ無い感が強いですね。


 鉄で全体を覆っています、しかし木造の船の外側に鉄板を貼り付けた徹甲船?ですか。

 自行船と聞きましたが外輪船ですし。

 外輪船は最初の自行船としては悪く無い選択だとは思いますが、スクリュー船だとばかり思っていたので残念感が強いです。


 外輪を調べると全て鉄製です、これは出来るところから鉄製品の技術を向上させていくことを狙っているのでしょう。

 レシプロエンジンも鋳鉄で作った巨大な鉄の塊です。

 帝国は完全に鉄の生産に成功しています。


 ただし魔石の使い方は稚拙な作りです、熱に強いヒヒイロカネ(魔銅)を使用して熱効率を上げていますが私から見ると魔銅を必要以上に使った無駄の多い作りに成っています。

 魔銅を使うならタービンにすべきでしたね。


 ここでは魔石から取り出した魔力で水を沸騰させて蒸気室で蒸気を溜めています。

 蒸気で動かすピストンを弁の開閉で往復運動させて、回転運動に変化させるのにクランクシャフトを使っています。

 蒸気を水に戻す復水器は海水で冷却するようにしていますが、冷却水を汲むのに同じレシプロエンジンをつかっています。


 帝国の技術力は妹の世界で言って19世紀中ごろぐらいでしょう。

 この名も無き世界は魔法はありませんが、魔術がある世界です。

 技術的な結びつきは魔法より魔術の方が強いと思います。


 帝国が魔術と異世界の技術を組み合わせて物作りをするのは脅威に感じます。


 帝国の自行船を見れたので、今日の憂鬱な目標カモメの焼き討ちに戻りましょう。

 カモメの上空へと戻ると、闇魔術でゆっくり近づきます。

 見張りの目を掻い潜って船尾のボートを係留している下へとたどり着きました。


 家(神域の部屋)を船殻の水密区画へ開けて、姉ねとレタと妹でビザンツ帝国の火を仕掛けて貰います。

 船首から船尾までビザンツ帝国の火を隈なく仕掛けてタイマーで起動させます。


 起動するまでにカモメを離れて、船の上空へと移動します。


 時間となって、一気に火災が発生したカモメは最初は何事も無いようでしたが、警備員でしょうかカモメから飛び出るように桟橋や海へと逃げ出します。

 彼らを追うかのように、船室や窓から火が出て、火柱がカモメを覆います。

 桟橋に居た警備員が慌てて水をカモメに掛けているようですが、火の勢いが弱まる様子はありません。


 やがて船はバラバラに分解し始め、それでも火の勢いは強いままです。

 水の中でもまだ燃えているようです、2時間ほどであらかた燃え尽きてしまいました。

 そこまで見届けると、私は引き返します。


 桜草の宮に帰って寝る時間が残っているでしょうか?

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