第16話 オーク討伐任務

「ではEランク依頼を二十個達成したのであとはDランクの魔物を五体倒せばDに昇格です。頑張ってね」

 アメリアさんに見送られ、討伐に向かう。


 Dランクの魔物、オーク五体の討伐。

 そのうち今回の依頼内容は二体だ。


 ラヴェンナから西に行った先にある村の郊外でオークが出たらしい。ゴブリンやオークは魔族と呼ばれている。魔族は魔力のある生き物を捕食して生きている。コボルトなどの魔物と、人だ。村ではすでに人が襲われて犠牲者が出ているらしい。


 俺たちは半日かけて村についた。

 依頼には討伐完了までは村に泊めてもらえると書いてあったので村長さんを訪ねた。


「ようこそおいでなさった。……これは随分と若い冒険者さま。二人だけですかな?」


 心配だろうな。弱っちく見えるもんな、俺たち。

「はい。俺たちがオークを倒しに来ました。よろしくおねがいします」


 村長さんは自分の家に呼んでくれた。

「今日はワシの家に泊まってくだされ。今晩は宴にしますじゃ」

 よっぽど待ちくたびれたのか、俺たちは歓待を受けた。


 次の日の朝、俺たちは村を出て犠牲が出たという村のはずれにあるその場所に行ってみることにした。

「このあたりかな。薬草を取ってたら襲われたって言ってたね。このあたりを探してみよう」

 俺たちはその先にある森に入っていった。


 慎重に周りを警戒しながら歩くこと一時間、いた。


「なんだあれ? あれがオーク?」

 五十mほど先には二頭の人型の化け物が何かを取り囲んでいた。獲物を食べてるようだ。めちゃめちゃでかい。


「ちょ、ちょっと、まるで力士ぐらい大きいわよ? どうやって倒す?」


「そうですね。確実に一体ずつ倒して二体同時には絶対に戦わないことが大事ですね。

なので右のヤツから倒しましょう。ハルノさんはできるだけ多くの水弾で頭を狙ってください。俺は半ばまで距離を詰めて首を切り落とそうと思います」


「わかった。じゃあやるよ」

 ハルノさんが詠唱を開始した。圧縮された水弾が二十個浮かび上がった。相変わらずの魔力量だ。こんな数を出せる人はそうそういないらしい。


「ウォーターバレット」

 水弾は二列で縦に連なってオークへ飛んで行った。そして右のオークの頭にドカドカと次々と当たった。


「ブフォオア!」


「よし! やった!」


 顔の半分が削れて赤い血が出ていたが、しかしオークは倒れなかった。

「なんて頑丈なの! ゴブリンと全然違う!」

 二頭のオークはこちらに気づいて走り出した。まっすぐに向かってくる。


「来ます! 俺が出るからハルノさんは次の魔法をお願い!」


「わかった!」


 俺は刀を抜いて飛び出していく。ちっ、傷ついた方からやりたかったけど、左のオークのほうが速いな。仕方ない。

 距離半ばでオークと相対した。こん棒を持ってる。ゴブリンが持っているやつの倍ぐらい長くてでかい。俺の足ぐらいある。

 オークはそれを片手で難なく振り上げて俺をめがけて殴りかかってきた。


「くっ!」

 すかさず右に飛び退る。右手にこん棒を持ってるから咄嗟に攻撃されにくい反対側に回避した。これもじいちゃんの教えのおかげだ。体が覚えてた。


ブオンッ

 すさまじい圧でこん棒が通り過ぎる。当たったら絶対即死だ。


「はっ!」

 俺は正面に構えていた刀でそのまま突きを放った。

ブスッ

 相手の左脇に刺さった。しかし抜けないので引き戻せなかった。

「くっ! このっ!」

 俺は右足でオークの腰あたりを蹴って刀を引き抜いた。


「ぶふぉおおおおおお!」

 しかし突きが効いてないのか、オークがそのままこん棒を横に振り回してきた。咄嗟に刀を立てて受け止めてしまう。これはまずかった。


ドガンッ

 ものすごい音とともに間に入った刀もろともこん棒で殴られる。


「がっ」

 横なぎのこん棒で左の二の腕に当たり、そのまま吹っ飛ばされてしまった。


 ゴロゴロと地面を転がる。止まった時にはすぐにはどっちが上でどっちが下かわからなかった。


「く、くそっ」

 何とか起き上がり膝をついて体を起こして周りを見た。すると二頭のオークはハルノさんに近づいていくところだった。やばいやばい!


「ウォーターバレット!」

 ハルノさんが水魔法で顔を怪我しているオークに再度ぶつけた。しかし、胸に当たった水弾は

少しよろけさせながらも、オークにはまるで効いていないようだった。

 やはりゴブリンとは違って頑丈なんだ。


「なんて強さ……」

 ハルノさんが呆然と立ち尽くしている。だめだ、ハルノさんは逆境、というか非常事態に弱いのかもしれない。


「ハルノさん! 逃げて、後ろに下がるんだ!」


 俺の叫びにオークの動きが止まり、こちらを見た。

 それにハッとして後ろに逃げるハルノさん、よしっ


 俺は起き上がってさっき対峙したオークを追った。間に合え!


 二体のオークのうち、顔を怪我した方が先にハルノさんに追いつくだろう、こいつは何とかハルノさんに食い止めてもらうしかない。

 せめてもう一体は俺が先にやらなきゃ!


「うあああああああ!」

 声を上げて気合を入れる。オークがまたこちらを見た。何とか追いついた俺は走りながら右手で刀を振り下ろした。


ザシュッ

 背中に斬りつける。オークが立ち止まって振り向いた。よし。


「はっ」

 相手がこん棒を振り上げるよりも先に振り下ろした刀で突きを放つ。狙うは首だ。

 喉をついて呼吸困難にするか、頸動脈を斬るかできればいい。


ザクっ

 刃が入ったのは首の真ん中だった。


「ブゴッ、ゴゴゴッ」

 呼吸困難になったオークの動きが止まった。すかさず刀を引き抜いて振り上げ、まっすぐに正面切りを当てる。ゴスッっと入った刃は頭頂から目の位置で止まってしまった。でも脳が傷ついたのか、オークは動かなくなった。

 俺は足でオークを蹴り押しながら刀を抜いてハルノさんを見た。


「はあっ!」

 ハルノさんは薙刀でオークに切りかかっていた。すごい。女の子なのに度胸ある。だけどあまり切れてない。魔力を込めるのを忘れてるのもある。


「ハルノさん! 今行くから!」

 大声で声をかけるとオークがこちらを振り向いた。よし。


「うおおおおお!」

 声を上げながらオークに近づいていく。十mぐらいあったけど、ハルノさんへの攻撃を止めてこちらに向き直って迎撃体制を取ってくれた。目の前のハルノさんを無視して離れた俺を見てるなんて、オークはあまり頭が良くないらしい。

 そしてそのまま対峙する。俺は前に倒れるように上段から刀を振り下ろす。

 相手はこん棒で受けようと右手だけで横にかざして構えた。


 それをかまわずに振り下ろす。


 それがじいちゃんの教えだ。

「いいか幸。一度やると決めたら絶対に止めるな。相手の剣よりも先に当てた方が勝つんだ。

一太刀一太刀怯まずに最後まで振り切るんだ。それが正道一刀流だ。わかったか?」

 頭ではなく体で覚えていた。体が勝手に動くんだ。教えられた記憶はその後から思い出す。


 刀は音もなくこん棒に切り込み、それを真っ二つにした。そのまま相手の額めがけて振り下ろす。


ドガッ

 体当たりするように自分の体がオークにぶつかった。あれっどうなった?


 ぶつかった勢いのままオークは後ろに倒れていく。

 ドサッと俺はオークに乗りかかるように一緒に倒れてしまった。やばい。

 すかさず体を起こして起き上がった。あっ、刀が手から離れてしまった。地面に刺さったように抜けなかったみたいだ。


「コウ! 大丈夫?」

 ハルノさんが近づいてきた。


「う、うん、それよりオークは?」

 下を見るとオークは仰向けに倒れたまま動かなかった。

 よく見ると頭が割れて刀が首のあたりまで切り込んでいた。


「やったのか?」


「すごい……、すごいすごい、すごいよコウ! オークを倒したよ! やった!」

 ハルノさんの声でやっと戦いが終わったと悟った。そして力が抜けてへなへなとその場で座り込んでしまった。

「はああああ、やっと終わったあああああ」


 こうしてDランクのオーク二体を倒すことができた。だけどかなり危険な戦いだった。

 ほんの少しでも気を抜いてたら二人ともやれてたに違いない。これがDランクの討伐か。こりゃかなり厳しい仕事だ。こんなのをずっと続けるなんて、本当にできるのかな?


 俺は討伐した喜びよりも、この先の不安の気持ちの方が大きくて、とても喜ぶ気にはなれなかった。

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