第15話 勇者について
なんかすごいしか言ってないな。でもすごい。
「ガルムさん、ありがとうございました。でも、ほんとに銀貨五十枚でいいんですか? これ、もっといいもののような気が」
「サービスじゃ。あんな弱っちかったお前らが成長しとるんだ。武器が足引っばったらいかんからな。それにな、お前らを見てると昔勇者に出会ったことを思い出したわい。そこで考えたんじゃが、お前ら多分勇者召喚に関係していると思うぞ」
「昔に異世界から勇者を呼んで魔王とかから助けてもらったっていうおとぎ話のやつですか?」
「そうじゃ。あれはおとぎ話ではない。本当にあった話だ。勇者召喚はアルビオンの王族しか使えない固有魔法じゃ。初代勇者は二百年ぐらい前に召喚されたキイチ・サイトウという男じゃった。まあ、勇者と呼ばれるようになったのはやつが魔王を倒してからなんじゃがな。もともとアルビオンの王族は勇者というものじゃなく聖獣を召喚する力があったんじゃ。
当時の召喚魔法を持っていた王女は国民の多くが魔族の犠牲になっていることに悩んで聖獣を呼んで魔族を退治しようと考えた。じゃが召喚されたのは異世界の人族じゃった。まさか誰も人が召喚されるとは考えてもおらなんだそうじゃ。こことは全く違う世界があってそこに人がいるということもな。召喚されたキイチは剣の達人じゃった。オークなら十体は一人で一瞬で切り倒すほどの腕じゃったそうじゃ。キイチは最後に魔王を倒したが、刺し違えて死んでしまった。その功績が称えられて勇者と呼ばれるようになった。アルビオンでは建国時の英雄に次いで二番目の『グランドクロス』という騎士の中の騎士である称号を持っとる」
……なんてことだ。
「斎藤基一だって? それって昔の英雄の名前ですよ」
「キイチを知っておるのか?」
「はい。知ってます。斎藤基一の英雄譚は今でも語り継がれています」
「そうなのか。どんな内容なんだ?」
「二百年前に俺のいる国で起きた戊辰戦争という内戦の話です。斎藤基一がいた旧体制の保守派である幕府派は劣勢で、少年志士たちの予備隊までもが城下町の守護に当たっていたんです。斎藤基一は松坂藩の剣術の師範で、武家の少年たちに剣術を教えていたこともあってその予備隊の隊長に任命されました。
だけど主力隊が全滅して、城下町まで敵が攻めてきました。
敵は外国から調達した最新式の銃を武器にしていたんで、古い銃しか持たない味方の主力隊は全滅してしまい、剣しか持たない予備隊は次々にやられていきました。
教え子の少年たちが死んでいくのを見かねた斎藤は自分を犠牲にして残った少年たちを城まで逃がすんです。その時斎藤が相手にしたのは百人の銃兵でした。
ここからは嘘かホントかわからないんですが、斎藤基一は秘剣術があって、音速で飛んでくる鉄砲の弾をも切り落として敵陣に飛び込み、半数近くを切り倒したっていう逸話があります」
「なんと……」
「これは生き残った少年兵たちが見た話らしくて、でも最後は敵に四方から一斉に銃を撃たれて死んでしまうんです。敵は同士討ちで十人位が道連れになったようです。
でも、なぜかそこに斎藤の亡骸はなかったそうなんです。もしかすると、そのときにこの世界に召喚されたのかもしれません」
「ふ、ふはははっ。キイチめ、そんな大それたことをしておいて一言も話さなんだとは。ふん、全くあいつらしいな。
何度か飲みにも行ったが、そういえば自慢話の一つもしない、謙虚な男じゃったわい」
ガルムさんの目尻には小さく涙が光っていた。
過去の知人の偉業だ。嬉しいのだろう。
ていうかこの人やっぱりドワーフなんだな。めちゃめちゃ長生きだ。
「この話は歴史の教科書にも乗るほどの偉業として英雄譚になっているんです。俺は物語を読むのが好きなんですが、過去の人で尊敬できる人はその斎藤基一です」
「そうか……、話を聞かせてくれてありがとう。ヤツの身の上が知れてよかった」
話し終えて俺達は剣のお礼を言う。
「ガルムさん、こんなにすごい武器を作ってくれてありがとうございました。お陰でこれからもなんとか冒険者をやっていける気がします」
「まあ、その剣は長く使ってくれよ」
……これ、絶対もっとするやつだ。くそっ、この町の人はみんないい人ばかりだ。こんなのお礼になってないじゃん。
「ガルムさん、俺達はあのときのお礼にでもなればと思って武器を作ってもらいに来たんだ。でもこれじゃあまた俺たちがお世話に……」
「何言っとんじゃ。ちゃんと儲かっとるわ。そんな心配せんと、早くDランクの魔物を倒してこい」
「は、はい。じゃあ行ってきます!」
ガルムさんに礼を言って俺たちはギルドに向かった。Dランクの魔物を討伐するために。
◇◇◇◇
今回の話に出てきた初代勇者のお話は一作目の
『基一の剣 〜ある幕末藩士の異世界冒険譚〜』
という作品名で公開しています。
ご興味のある方はぜひご覧ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます