第48話 やっと少しラブコメの主人公っぽくなってきた男
妖怪騒ぎを解決した翌日の放課後。
いつも通りに俺達は超科学部の部室に集まっているのだが。
「…………はぁ」
「…………うぅ」
ソファーに座った一ノ瀬が、膝に乗せた西園寺の頭の上に顎を乗せ、陰鬱そうに溜息を吐く。その下でちょこんと膝を抱えた西園寺は、ちゅぱちゅぱと親指をしゃぶりながらしょんぼりだ。
一晩経って色々考えたのだろう。
妖怪騒ぎの責任を感じているのか、この通り落ち込んでいる。
おかげで空気は最悪だ。
こんな時、白崎がいてくれたら下らない事を言って場を明るくしてくれたのだろうが、生徒会に報告がてら、西園寺や小暮先輩の立場が悪くならないよう交渉に出かけていた。
口の達者な白崎だ。いつもの屁理屈で丸め込み、すぐに戻ってくると思っていたのだが、一時間が経っても帰ってこない。
そのせいで二人は余計に落ち込んで、俺も段々心配になっていた。
例によって俺は知らなかったのだが、生徒会長は色々黒い噂のあるヤバい男らしいし。
そうでなくとも、普通に考えて女の子一人を送り込むなんてどうかしていた。
そりゃ、白崎は俺なんかが足元にも及ばない凄い奴だけど、それでも、チンピラに殴られた俺を見て取り乱してマジ泣きするような繊細さも持ち合わせているのだ。
アレくらい、俺的には別にどうという事もないのだが。
ともかく、なんの役にも立たないにしろ、それでも一緒に行くべきだったのかもしれない。
ただ横に見知った顔があるだけで、暗い夜道も怖くはなくなる。
武器を持ったチンピラなんか俺だって普通に怖いけど、後ろで白崎が見てると思えば、情けない姿は晒せないと勇気が出た。
俺はあいつに貰ってばかりで、なに一つ返せていない。
彼女とか、友達とか、そういう風には考えられないが、人として、与えられてばかりでは心苦しい。
一ノ瀬達に対しても、それは同じだ。
こいつらには、こんな顔は似合わない。
なにより、目の前で落ち込んだ顔をされると、俺が悪いんじゃないかって気がして胸がモヤモヤする。俺には何も出来ないのかって、無力感に苛まれる。昔はそれで余計な事をして散々嫌な目に合ってきたのだが。
やっぱり俺は、白崎のせいで頭がどうにかなってしまったらしい。
あれだけ失敗したにも関わらず、また昔のように余計な事をしたくなってしまっていた。
と言っても、俺なんかに出来る事なんてたかが知れているのだが。
「……ぁー。なんだ。こうしててもなんだしよ、白崎が戻ってくるまで、ドラハンでもするか?」
「……気分じゃない」
「……ボクもパスだ」
「ぁ、はい……」
ぁぅ……。
いや、ぁ、はい。じゃねぇよ! 諦めんな! 白崎なら、空気が明るくなるまで手を変え品を変え色々しつこくやるだろうが!
そう思うのだが、豆腐メンタルの俺である。
今のでMPが半分ぐらい削れてしまった。
とりあえず、スティックシュガーを一本キメ、十分程精神力を蓄えて再チャレンジする。
「そ、そうだ西園寺。催眠アプリの検証が半端になってただろ? 今の内にやっちまおうぜ。今なら丁度、いい感じに嫌な汗が出まくってるし」
欲張らず、まずは一人ずつだ。西園寺が明るくなれば、一ノ瀬も少しは元気が出るだろう。こいつは自分が余計な事をしたせいで西園寺が落ち込んでいると思ってるみたいだし。
西園寺も、これならきっと食いつくはずだ。
「……あれはもういい」
「…………なんでだよ!? 昨日までしつこいくらいせがんできてただろ!?」
「勘違いしないでくれ。別に、催眠アプリを諦めたわけじゃない。なにがとは言わないが、ある日を境に黒川君は急に前向きになった。恐らく、ボクの追及をかわす為に自分自身に催眠アプリを使って記憶を操作したんだろう。そう考えれば、ブローノ君三号が反応しないのも納得できる」
「してねぇよ!? てか、そんな使い方思いつく程要領よくねぇから!」
俺は勉強は程々に出来るが、頭のいいタイプじゃない。騙されやすいし、普通にバカな方だと思う。なんなら、そんな使い方もあるのかと感心したくらいだ。
「君自身が記憶を操作されている以上、黒川君の発言はなんの証拠にもならない。もしかすると、気づかない内にボクも既に催眠アプリの影響を受けている可能性もある。当面は君達と行動を共にしつつ、打開策を考える予定だ」
まぁ、なにをされた所で催眠アプリなんか持ってないからどうでもいいが。基本的には、変人だけど面白い奴だし。天才様が俺なんかとつるんで時間を浪費するのはどうかと思うが、それでもいいなら好きにすればいい。
ともかく、西園寺を元気にさせる作戦は失敗だ。
俺はスティックシュガーを二本キメ、また十分程MPを溜めて、今度は一ノ瀬にアタックした。
「……そ、そうだ一ノ瀬。そう言えば俺、枯井戸から貢物とか言って美味そうなお菓子を貰ったんだ。クレープから着想を得た、フルーツ入りのクリーム生八つ橋だぜ? 今回はみんなで頑張ったわけだし、お前にも分けてやるよ」
信者に実家が和菓子屋の奴がいるとかで、朝方貰った奴を超科学部の冷蔵庫に入れておいたのだ。ちなみに、この前西園寺に指紋を登録して貰ったので、俺達はフリーパスだ。
俺には負けるが甘党の一ノ瀬だ。
これなら絶対食いついてくる。
最近は俺も、一ノ瀬と一緒にお菓子を食べて感想を言い合うのが楽しみになっていたし、丁度いい。
「……気持ちは嬉しいけど、今はいいや」
「…………だからなんでだよ!? いつもは勝手に俺のお菓子つまみ食いするくらい食いしん坊だろ!?」
一ノ瀬の奴は、俺が冷蔵庫に入れておいたお菓子を横取りする悪癖がある。毎回代わりの品を置いていくので見逃しているが。
てかこいつ、お菓子が食べられないくらい落ち込んでるのか? ヤバいだろ!? どどど、どうしよう……。それはかなりの重症だ。俺だったら、自殺しててもおかしくない。
ダメだって一ノ瀬! 命は大事に! 生きてれば楽しい事があるんだから!
「……はぁ。そんな心配そうな顔すんなし。もうすぐ夏休みだし、最近マジで太ってきたから、ダイエットしてるだけだから。てか黒川、なんであたしより甘い物食べてんのに太らないの? マジズルいんだけど」
「いや、普通に毎日運動してるからだが」
職質されるからジョギングとかはしてないが。毎日二時間くらい、シュワッチで出来るボクシングのゲームや、リング型のコントローラーを使うエクササイズゲームをプレイしている。遊びながら出来るし、いいストレス発散になるのだ。
最近はこいつらと遊ぶのが忙しくてちょっと時間が減っているが、以前はストレスフルな上に時間が駄々あまりだったから倍以上やっていた。俺の強さの秘訣と言ってもいい。
ともあれ、俺はホッとした。
ダイエットなら仕方ない。確かに一ノ瀬はムチムチだ。最近はもうパンパンでほっぺも丸くなっている。けど、それはそれでなんかモチモチしてそうでいいと思うが。白崎が腹をフニフニしているのを見ると、ちょっと俺も触ってみたくなるし。
もちろん、そんな事をしたらセクハラになるからしないけど。
なんにせよ、そういう理由なら仕方ない。可哀想だから、一ノ瀬の前でお菓子を食べるのは控えてやろう。お菓子を我慢しないといけない辛さは俺にも分かるからな。というか、ダイエット中にお菓子の話をしてしまい、申し訳ないくらいだ。
「…………はぁ」
「…………うぅ」
「…………ぁー。ちょっとトイレ行ってくる」
万策尽きて、俺は部室を抜け出した。
ちょっと外の空気を吸ってリフレッシュしたい。
はぁ、白崎。早く帰って来てくれ。
俺じゃお前みたいに人を明るくする事なんか出来ないんだから。
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