第30話 天才科学者は催眠アプリの夢をみる

 悲しいかな、おかしいのはそれだけじゃない。

 諸悪の根源である白崎を除いて、現在直接的に俺の平穏を脅かす鬱陶しい存在がいた。


「黒川君。今日こそ君の持っている催眠アプリを分析させて貰うよ」

「だから! そんなもん、持ってねぇって言ってんだろ!?」


 放課後の教室。

 大急ぎで帰り支度をする俺を逃がすまいとして現れたのは、小生意気な顔に大きなメガネをかけたロリ貧乳のボクっ子、西園寺回路だ。


 先日脈絡なく現れたこのクソバカは、超科学部なる怪しい部に所属しており、俺が催眠アプリを持っているという噂を真に受けて分析させろとしつこく付きまとっている。


 ちなみに白崎の話によると、西園寺は三組で一番の美少女で、有名な天才発明家らしい。それで既に科学部があるにも関わらず、特例的に超科学部というのを立ち上げて私物化しているそうだ。

 この時点で関わり合いになったらヤバい変態だとわかる。


「それはあり得ない。科学的に考えて、君のような身も心も醜い嫌われ者が白崎君のような絶世の美少女と付き合えるはずがない。加えて君はこの学校で随一のいやらしい身体をしている一ノ瀬君とも付き合っている。さらに二人は公然と二股をかけられて平気な顔をしている。それだけじゃなく君は彼氏持ちの枯井戸君に生贄と称して身体を差し出させ、黒川教なるカルト集団を形成しようとしている。こうなるともはや有り得ないを通り越して異常事態だ。異論はあるかね?」

「あるに決まってんだろ! 俺は生贄なんて差し出させてねぇっての!?」


 大勢が見てる前でなんて事を言い出すんだこのクソバカは!


 慌てて周りを見ると、信者になっていない真っ当なクラスメイトが「うわぁ……最低……」とドン引きを通り越して犯罪者を見るような目を俺に向けている。


 一方信者化したクラスメイトは「いいなぁ……俺も黒川様に抱いて貰ったら願いが叶うのかなぁ……」とか世迷い事を言っている。てかお前は男だろうが!?

 いや、この際性別は関係ない。どんな願いか知らないが、自分の身体をもっと大事にしろ!


 そして黒川教の教祖である枯井戸は「黒川様がお求めなら、私はいつでも大丈夫なのですが……」と、もじもじしながら頬を染めている。


「誤解されるような事を言うんじゃねぇ!? てか枯井戸、てめぇには安藤がいるだろうが!?」

「それがなにか?」

「なにかじゃねぇだろ!? 彼氏でもない相手とそういう如何わしい事をするんじゃねぇ!?」

「恐れながら黒川様。性交など所詮、性器と性器の重ね合い。それ自体に貴賤はないと私は考えます。大事なのは、どのような想いでそれを行うか。真の愛があればただ見つめ合うだけでも心は高ぶり、愛のない性交は裸で行うスポーツのようなもの。そしてこの場合は、偉大なる大悪魔黒川様に対する崇拝の証として。如何わしい所など、なに一つございません。あと安藤君も、それって寝取られみたいで興奮するね! っと仰っていましたし」


 なに言ってんだこいつは!

 見た目だけは清楚系な枯井戸にそんな事を言われて、俺は焦った。


「うるせぇ!? そんな話、俺は聞きたかねぇんだよ!?」


 勘弁してくれ! 俺はそういうエッチな話は苦手なのだ!

 普通そういうのは人前で話す事じゃないし、話すとしても大人になってからだろ!


「枯井戸君の話にはボクも同意するところがあるが、それは本題じゃない。彼女のような美少女が君のような醜い男子に心酔している状況も不可解だと言える。その他諸々の状況から考えて、ボクは君が催眠アプリを持っていると判断した。科学の発展の為、なによりボクの知的好奇心を満たす為、是非協力して欲しい。勿論タダとは言わないよ。君が望む通り、ボクの身体を差し出そうじゃないか」


 西園寺が真顔でセクシーポーズを取る。

 幼児体系でガキみたいな西園寺がそんな事をすると、犯罪みたいで心が痛い。


「だから! そんなもん求めてねぇって言ってんだろ!?」

「それはあり得ない。君は明らかに性的欲求を満たす為に美少女達を洗脳して回っている」

「してねぇっての!? 俺は童貞だ!」


 あぁもう! なんで俺はこんな事を教室で叫んでるんだ!?


「それを証明する術はない。よって嘘だと判断する。それとも君は、ボクのような幼児体形では性的興奮を得られないと、そう言いたいのかね?」

「違う! いや、違わないのか? あぁもう、どっちでもいい! とにかく俺は、そういうエッチなのは興味ないんだよ!」

「バカな。エッチな事に興味のない人間など存在しない。このボクですらそうなんだから」

「知らねぇよ!」

「今ボクは君の嘘を論破する為に話しているんだ。知って貰わないと困る。大体君は、性的な事柄に多感な高校二年生だろ。エッチな事に興味がないなんて事は絶対にあり得ない」

「うわあああああああ!?」


 恥ずかしさが限界に達し、俺は耳を塞いで叫んだ。

 誰かこいつをなんとかしてくれ!?


 †


「ねー桜。黒川の奴超テンパってるけど、助けなくていいの?」

「うん。可愛いから、もうちょっと見てる。で、いよいよ限界になったら助けてあげて、好感度アップを狙います」


――――――――――――――――――――――――――――


 エッチな事に興味のない方はコメント欄にどうぞ。

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