第56話

 「えっと。タクシーでも呼んだんですか?」


 「いや、違う。友達が暇だから迎えに来てくれるって。ほら、来た」


 男が指さす方を見ると、一台の車が路肩に停車した。


 「すいません。遠慮します。一人で帰れるので」

 

 「まぁまぁ。近場まで送るだけだから」


 「きゃっ」


 強引に私の手首を掴み、引っ張られた。

 必死に抵抗するも、力で敵う訳もなく徐々に車が止まっている方へと。

 

 「本当に乗りたくないんです。叫びますよ」


 「・・・・」


 流石に、叫ばれて警察が来たらまずいと思ったのか、男は手を離した。


 「ただ、俺は送ってあげようとしただけで、別にやましい事は考えていないんだけどなぁ」


 ぼやく男。

 そんな事を言われても、実際の真意なんて分かるはずもなく、ひょいひょい車に乗り込むなんて危険極まりない。 


 「じゃあ、帰りま・・・卓也さん?!」

 

 振り向いた先に卓也さんが立っていた。

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