第137話 合唱部員二人のカラオケデート
俺はりんごジュース、綾奈はココアを選び、二人の飲み物をトレイに置いて、俺がそれを持って部屋に入った。この二つは喉に優しい飲み物だ。
綾奈はトレイに置く時に笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。さっき俺のコートをハンガーにかけてくれたんだからお相子だし、お礼を言われるほどのことではないと思うけど、綾奈の性格上絶対にお礼を言ってくれる。
中学三年の時、このお礼と笑顔が目当てで、自分の係の教科の提出物をクラスメイトの席に返却している時、わざと綾奈が席にいる時を見計らって置いていたのが懐かしい。
部屋に戻り、テレビの近くに置いてあったタッチパネルを取り、テーブルに置いた。
「じゃあ、どっちから歌う?」
「真人君からでいいよ。真人君の歌、久しぶりに聞きたい」
お互いの歌っている姿を見たのは、十月にあった風見高校と高崎高校の合唱部の合同練習以来だ。俺も綾奈の歌を久しぶりに聞きたいが、綾奈がめちゃくちゃ上手いので、その後に歌うのはどうにも見劣り……いや、聞き劣りしてしまうので、俺から歌うことにした。楽しみは後にとっておこう。
「わかったよ」
俺はタッチパネルを操作して歌う曲を選ぶ。
いきなりアニソンを歌うと女子に引かれてしまう危険があるが、綾奈が相手だとその心配はないだろうと思い、俺はあるアニソンをチョイスした。
この曲は、ある夏休みの日、数人の小学生の男女が、突如として異世界に飛ばされてしまい、そこで出会ったモンスターと一緒に旅をして成長していく冒険活劇アニメの主題歌だ。
俺たちが産まれる前のアニメだけど、神アニメとして高く評価されていて、それを見た俺もこのアニメにハマり、主題歌も覚えたのだ。
俺が歌い終わると、綾奈が笑顔で拍手をしてくれた。
「真人君、やっぱり上手だね!」
「あ、ありがとう綾奈」
大好きな彼女に褒められて素直に嬉しい。ゴキゲンな蝶にもなれそうな勢いだ。
「それに、この曲は私も好きだから、真人君がこの曲を歌ってくれて嬉しい」
「えっ!? 綾奈、この曲を知ってるの?」
綾奈は別にオタクではない。それなのにこの曲を知っている事に俺は驚いた。
「う、うん。去年から真人君とおしゃべりしたくて、共通の話題がほしかったから、ライトノベルの他にもアニメを見るようになってね。それでこの主題歌のアニメも見てすごく面白かったから、私も主題歌だけじゃなくて挿入歌も歌えるよ」
ま、マジかよ……。俺と話をしたくて、綾奈はラノベだけじゃなくてアニメも勉強してくれていたのか。
綾奈が語ってくれた理由が嬉しすぎて、照れくさくて顔がニヤけるのを抑えられない。
俺はその顔を見られまいと、綾奈から顔をそらし、右手の甲で口をおさえた。
「あ、ありがとう。綾奈」
「えへへ。今日は、真人君の好きなアニメの主題歌、いっぱい歌ってほしいな。知らないアニメがあったら見てみたいし」
こんなことを言われて嬉しくならない奴がいるのか? いや、いない!!
「わかった。じゃあ綾奈も自分の好きな曲を歌ってくれる? 俺も綾奈の好きな曲を知ってちゃんと聞き込みたいからさ」
綾奈が一方的に俺の好きな曲を覚えようとしてくれるのはもちろん嬉しい。だけど、そんな一方通行は嫌なので、俺も綾奈の好きな曲を知りたい。
「ありがとう真人君。じゃあ…………」
綾奈はタッチパネルを持ち、操作を始めた。
「これ!」
一分くらいして、歌う曲を選んだ綾奈は、タッチパネルを機械に向けて送信した。
俺はドキドキしながら綾奈が入れた曲を見る。
すると、人気アイドルグループの代表曲のタイトルが表示された。
「綾奈、アイドルが好きなの?」
「うん。お母さんがアイドル好きでね、車でよくかかってたから、その影響で私もアイドルが好きになって聞いてたの」
この曲は確か、ファン投票によって歌うメンバーが決定されていたはずだ。
当時はこの曲が凄く話題になって、CMやバラエティ番組でも、この曲がよく流れていたのを子供ながらに覚えていた。
そんなわけで歌い始めた綾奈なんだが…………ヤバい、上手すぎる。
さっき俺の歌を褒めてくれたけど、綾奈の歌唱力はやっぱり凄い。
その可愛らしい声から発せられる、みずみずしく澄んだ歌声。
中学の頃、エースとして合唱部を引っ張っていた綾奈の歌うアイドルソングに聞き惚れていた。
「なっ!?」
それだけでなく、二番のサビになったところで俺はさらに驚かされた。
なんと、綾奈がその曲の振り付けを完コピしながら歌っているではないか。
アイドル顔負けの容姿で当時誰しもが踊れていたであろう振り付けを踊ってくれて、なおかつ合唱で鍛えられた歌唱力を惜しげもなく披露してくれている。
これ、マジでお金を取れるレベルだ。
そのままダンスをしながら歌い続け、最後の決めポーズまでしっかりと決めてくれた綾奈に、俺はスタンディングオベーションをおくった。
「綾奈、マジで凄いって!最高だったよ!!」
「え、えへへ。そんなに褒められると照れちゃうよぉ……ありがとう」
俺の知らなかった、こんなに可愛い一面を見れて、あっと驚く奇跡が起きたようだ。
「アイドルソング、今まであまり聞いてこなかったけど、いい曲だよね」
実際マジでそう思った。綾奈が歌ったからというのもあると思うけど、実際アニソン以外でここまで気持ちが弾んだのは久しぶりだった。数多くの有名楽曲を手がける作詞家さんが書いた歌詞もさすがというべきか……。
「そう言ってくれて嬉しい。CDもあるから今度貸すよ」
「マジで!?ありがとう綾奈。楽しみにしてる」
「うん!」
それ以降も、俺たちはアニソンとアイドルソングを中心に歌い、カラオケデートを楽しんだ。
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