第126話 放課後、風見高校の図書室にいたのは……

 そして放課後。

 俺は帰らずに学校の図書室に移動した。

 家で勉強すると、やっぱり綾奈の事ばかり考えてしまって集中出来ないからだ。

 いつもと違う所で勉強すれば集中力が向上して、勉強効率もアップするかもと考えた。

 図書室の扉を開けると、何人かの生徒が読書や勉強をしていた。

 俺は適当な席に着こうとして、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 あの肩より少し伸びた明るい茶髪はあの人しかいない。

 俺はその女子生徒の方に向かった。

「こんにちは。雛先輩」

 健太郎のお姉さん、風見高校三年生の清水雛先輩だ。

 雛先輩は何かの本を読んでいた。

「あら~、お久しぶりね中筋君」

 相変わらずのおっとりボイスで癒される。

「ここ、良いですか?」

「ええ~、もちろん~」

 雛先輩に許可を貰ったので、俺は先輩の対面の席に座った。

 というか、この人勉強してない。テストもそうだけど、受験生なのに大丈夫なんだろうか?

「雛先輩、勉強ってしないんですか?」

 俺は失礼ながらも雛先輩に思っている疑問をぶつけてみた。

「大丈夫~。私これでも成績はいい方だから~。それに私は衣装制作の専門学校に合格してるから受験勉強も必要ないの~」

 流石健太郎のお姉さんと言うべきか、姉弟揃って頭がいいんだな。

 それに雛先輩はもう既に進路を決めている。あれだけのコスプレ衣装を作れるのに、さらにそのスキルを伸ばそうとしてるのか。素直に尊敬する。

「そうだったんですね。おめでとうございます」

「ありがとう。中筋君はこんな所で勉強するの~?西蓮寺さんと一緒にはしないの~?」

 まぁ、当然その質問はしてくるよな。

 俺は綾奈との件を雛先輩に話した。

「そうだったの~。それで中筋君はこうやって真剣に勉強してるのね~?」

「はい。家に帰ると綾奈のことばかり考えてしまいそうで……だから今日は気分を変えて図書室で勉強しようかと思ったんです」

 言いながら俺は教科書とノートを机に広げる。

 雛先輩は読んでいた本を閉じ、それを持って席を立った。多分次に読む本を探しに行ったんだろう。

 これ以上雛先輩と話して、先輩の読書の邪魔をしたくなかったので、俺は切りかえて勉強しようとシャーペンを持った。

 そうしたら雛先輩が戻ってきた。だけど、手には何も持っていない。

 鞄を持ったし、そろそろ帰るのかなと思ってたんだけど、雛先輩は出口には向かわず、俺の左隣の椅子に座った。

「雛先輩?」

 俺は少し混乱していたが、雛先輩は俺に構わず口を開いた。

「私が中筋君の勉強見てあげるよ~」

「……良いんですか?」

 俺にとっては願ってもない申し出だったけど、それだと雛先輩に迷惑をかけるんじゃ……。

「もちろんよ~。西蓮寺さんの為に頑張る中筋君を見たら、応援したくなっちゃったから~」

 そう言って雛先輩は俺に顔を近づけてくる。

 かなりの美人で、先輩から香るいい匂いと、千佳さんに負けず劣らずの果実の持ち主なので目のやり場に困る。

「た、助かります」

 俺は右を向きながらお礼を口にする。面と向かって言えないのはご容赦願いたい。

「気にしないで~。だけど、ここだと他の人に迷惑になると思うから移動しましょ~」

 雛先輩に促され、俺たちは図書室から雛先輩の教室へと移動した。

 俺は雛先輩に、苦手な数学と英語を教えてもらったのだが、雛先輩の教え方はとても上手くてわからなかった部分が先輩のおかげで解けるようになり、とても有意義な時間になった。

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