第113話 早朝、西蓮寺家へ

 翌日の金曜日、午前七時。

 冬がすぐそこまでやってきている十一月の早朝は大分寒い。

 俺は西連寺家の前にいる。

 周りを見渡すと、出勤途中のサラリーマンやOLの人達がちらほら行き交っている。

 ここにはもう何度も来ているけど、こんな朝早くから来るのはもちろん初めてだ。

 昨日は深夜テンションでここに来たいって言ってしまったけど、実際迷惑じゃないのか?

 弘樹さんや明奈さんに非常識呼ばわりされて門前払いを食らうのではないかと考えると焦りを感じる。

 でも、自分で言った手前、ここまで来て引き返すなんて選択肢は選べない。

 俺は意を決してインターホンを押した。

 するとしばらくして応答があった。

『おはよう真人君』

 明奈さんだ。どうやら俺が来ることは綾奈が言ってくれていたみたいだ。

「お、おはようございます明奈さん」

『今開けるから待っててね』

 それからすぐに玄関が開かれ、綾奈と明奈さんが出迎えてくれた。

「おはよう。真人君」

 綾奈はどこか緊張が伴った笑顔を見せてくれた。

「おはよう綾奈。明奈さん、こんな朝早くから来てしまってすみません」

「いいのよ真人君。それより中に入って」

「お、お邪魔します」

 そう言って俺は玄関で靴を脱ぎ、用意されていたスリッパを履く。

 廊下、広いな。

「じゃあ、私の部屋行こ」

 廊下の広さに驚いていると、綾奈が俺の手を掴み、そのまま引っ張りながら綾奈の部屋に向かった。


「あ、あんまり見られると、恥ずかしいよ」

「ご、ごめん。でも、綺麗だと思って……」

「あ、ありがとう」

 綾奈の部屋に入り、俺はその部屋を見渡していた。

 全体的に白とピンクを基調とした女の子らしい部屋だ。

 ベッドを見ると、俺が初めて綾奈とゲーセンに行った時にクレーンゲームで取った猫のぬいぐるみが置いてあった。

「これ……」

「うん。真人君から貰った初めての贈り物。私の一番の宝物だよ」

「綾奈……」

 大切にされているんだろうなとは思っていたけど、まさか「一番の宝物」と言われるとは思ってなくて、その一言で胸の奥が熱くなる。

「ありがとう」

 俺は綾奈の頭を撫でる。

 綾奈は頬を赤らめ微笑みをくれた。

「うん……真人君」

 俺の名を呼んで綾奈は俺の胸に顔を埋めた。

「大好き」

「俺も」

 もう何度目かわからないけど、お互いの気持ちを言い合って、それから綾奈は俺に膝枕をしてくれた。

 後頭部に感じる綾奈の柔らかな太ももの感触、俺の頭を優しく撫でてくれる手の感触で、ちょっと寝不足な俺は睡魔に襲われた。

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