第4節 綾奈さんの看病は甘さと愛情がいっぱい
第74話 真人の家へ
電車で移動中、私はお母さんに真人君の事を伝えるためにメッセージを送った。
【真人君が熱を出したって聞いたから今からお見舞いに行ってきます】
この時も、早く着いてほしいというはやる気持ちは増すばかりで、見かねたちぃちゃんに「落ち着きなよ」と言われてしまった。
少ししてお母さんから返事が来た。
【それは大変ね。しっかり看病してきなさいね】
【ありがとうお母さん。帰りは少し遅くなると思うから】
【わかったわ。真人君のご家族のご迷惑にならない時間には帰ってきなさいね】
お母さんからの了承を貰えた。お願い、早く着いて。
いつもは短いと思っていた電車に乗っている時間も、この時ばかりはとても長く感じた。
程なくして地元の駅に到着した私達は、足早に駅から外に出た。
するとそこには茜さんと山根君、そして清水君が私達を出迎えてくれていた。
「二人ともお帰り」
「金賞おめでとう」
「本当凄いよ。おめでとう千佳さん。西蓮寺さん」
三人がそれぞれ温かい言葉と共に出迎えてくれている。それはとても嬉しいことなんだけど、みんなには本当に申し訳ないと思っているけど、私はそれどころではなかった。
「みんなありがとう。でも、お出迎えしてくれたのにすごく申し訳ないんだけど、私……すぐに真人君の所に行きたい」
「あぁ、わかってるよ」
「真人のお見舞いだよね」
「僕達のことはいいから、早く行ってあげて」
お友達の心使いが本当にありがたかった。
「ありがとうみんな。それで……茜さん、山根君。悪いけど真人君の家まで案内を頼めないかな?」
「あれ?綾奈ちゃん真人の家知らなかったんだ」
茜さんにびっくりされてしまった。
付き合っている彼氏の家を知らなかったのだから無理はないけど。
「うん。付き合う前も私の家まで送ってくれてばかりで、真人君の家に行ったことなかったし……今日も本当なら真人君に案内してもらうはずだったから……」
「まぁ、学校違うし無理ないのかもしれないけどな」
山根君がフォローしてくれた。
「だよね。ごめん綾奈ちゃん。じゃあ真人の家に案内するね」
「ありがとう二人とも」
茜さんと山根君にお礼を言ってから、私はちぃちゃんと清水君の方を見た。
「あたしと健太郎はここで。家に入らないにしても大人数で行ったら迷惑だろうし。だから真人にはお大事にって伝えといてよ」
「西蓮寺さん、僕達のことはいいから早く真人の所に行ってあげて」
「ありがとうちぃちゃん、清水君。じゃあまたね」
「「うん」」
二人に挨拶をしてから、私は茜さんと山根君と一緒に真人君の家に向けて歩き出した。
いつも登下校で通る通学路を、今は茜さんと山根君と三人で歩いている。
真人君の家に向かって歩いてる私は、真人君と一緒に通った時のことを思い返していた。
初めて一緒に帰った時は書店へ行った帰りで、お互いまだ少し緊張していたっけ。
でも、真人君の好きなライトノベルのお話をしてとても楽しかった。
それからも週に何度か一緒に帰って行くうちに、お互いの距離が縮まっていくのがわかって嬉しかった。
お付き合いをし出してからは手を繋ぎながら一緒に帰って、真人君と繋いでいる手と、この人が……ずっと好きだったこの人が私の彼氏なんだと改めて意識して、初めて一緒に帰った時とは違う緊張があったな。
いつものT地路に差し掛かって、そこを右に曲がる。ここからは私の家とは反対方向だ。
もうすぐ真人君の家に着く。
熱を出して苦しんでいる彼を想像するだけで胸が張り裂けそうになる。
中学まで同じ学校に通っていて、その時に真人君が熱を出して学校をお休みしても「そうなんだ。大丈夫かな?」くらいにしか思わなかった。私が真人君のことを気になりだしてからは、彼は一日も休んでなかったから。
早く真人君に会いたい。会って何が出来るか分からないけど、真人君のそばについていてあげたい。
私がそばにいるのを見て、彼が少しでも安心してくれたなら、今の私にとってこれ程嬉しいことはないから……。
「着いたよ綾奈ちゃん。ここが真人の家」
そんな事を考えていると、真人君の家に到着していた。
T地路を曲がってから五分くらい、私の家からも約十分くらいの距離だった。
白い外観の、言ってしまえば少し大きめな、ごく普通の一軒家。
車庫には車が二台停まってあって、恐らく良子さんと雄一さんの車だ。
「じゃあ西蓮寺さん。俺達もここで帰るよ」
「二人はお見舞いしていかないの?」
「さっき千佳ちゃんも言ってたけど、みんなで押し掛けても申し訳ないし、それに綾奈ちゃんは真人と二人で会いたいでしょ?」
「……うん」
「だから俺達はここまででいいよ。真人には西蓮寺さんからよろしく言っといて」
「わかった。二人ともありがとう。……それとこれ、二人にお土産」
私は二人にお土産の東京ばな〇が入った紙袋を手渡した。
「ありがとう綾奈ちゃん。後でいただくね」
「ありがとう。真人のこと、よろしくね」
「こちらこそ、二人とも本当にありがとう」
私は二人に頭を下げてお礼を言った。
二人は「いいって」と言って、笑顔で帰って行った。
「すぅーー……はぁーー……」
私は二人を見えなくなるまで見送った後、深い深呼吸をした。
いよいよ真人君の家に入る時が来た。考えるとものすごく緊張する。
いつまでもここでじっとしている訳にもいかないので、私は意を決して、震える手で真人君の家のインターホンを押した。
インターホンの音が消えて、辺りは静寂が戻ってきたけど、私の心臓の音はうるさいままだった。
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