第57話 一年生五人で茜のクラスへ……

 文化祭二日目がスタートして、一般のお客さんも増えてきた。

 俺は綾奈さん達が来るまで、一哉と健太郎の三人で校内をぶらぶら歩いていた。

 しばらくすると綾奈さんから【着いたよ】とメッセージが来たので、俺達は校門まで移動した。

「綾奈さん!」

「真人君!」

 ほぼ同時にお互いを見つけ、同時に駆け出す俺と綾奈さん。

 綾奈さんは俺のそばに来ると、すぐさま手を繋ぎ指を絡めてきた。その顔は満面の笑みで彩られている。

 今日の綾奈さんの服装は白のロングワンピースにデニムのジャケットといったカジュアルなコーディネートだ。

「全く。相変わらずラブラブだな」

「だね」

 一哉と健太郎は若干呆れながらも俺達と合流した。

「山根君に清水君もこんにちわ」

 そんな呆れ顔をしている二人に対し、笑顔で挨拶をする綾奈さん。

 綾奈さんの挨拶に「こんにちわ西蓮寺さん」と挨拶を返す一哉と健太郎。

「全く、そんなに走らなくても真人から来るんだ…………っ!」

 最後に合流したのは千佳さん。こちらも走って行った綾奈さんに対して嘆息したかと思ったら、突然頬を赤らめビクッと身体を揺らした。

 俺はその時千佳さんの持つ暴力的な果実も揺れたのを見ないように咄嗟に目を逸らした。

「ひ、久しぶりだね……健太郎」

「電話やメッセージはしてたけどね。会いたかったよ千佳さん」

 そう言うと健太郎はにこにこしながら千佳さんの手を握った。

「ん。…………あたしも」

 健太郎の奴、よくそんなセリフを恥ずかしげもなく言えるよな。俺はこんなに人がいっぱいの所で言える自信が無い。

 そして千佳さんは今まで見た事がないくらい照れていて顔が赤い。一週間振りに健太郎に会えて嬉しいのと、元々照れくさかったけどさっきの健太郎のセリフでさらに照れが増したのだろう。

 さて、五人が揃ったところでこれからどうするかを話し合ったけど、最初はみんなで回ろうと言う結論になり、どこに行こうかと言う話し合いの中、茜のクラスに行こうと思い俺は口を開いた。

「せっかくだし、茜のクラスに行かないか?一哉、茜のクラスは何をやるんだ?」

「知らん」

「は?」

 俺は今回その場のノリで行く所を決めようと思っていたので配布されたパンフレットは見ていないから、茜のクラスの出し物が何かを把握してないのだけど、茜の彼氏の一哉が知らないのはどういうことだろう?

「何でお前が知らないんだよ」

「いや、俺も聞いたさ。そしたら茜は頑なに教えようとしないんだよ。今日も「私のクラスには来ないで」って言ってたし」

「茜さん、どうしたのかな?」

「そう言われると、行きたくなっちゃうよね~」

 綾奈さんは若干心配そうな、千佳さんはニヤリとした笑みを浮かべながら言った。

 一哉にまで自分達が何をするのか伝えてないのを聞くと、気になってしまうのが人間の性というもの。

「健太郎。パンフ持ってる?」

 俺は一番パンフレットを持ってそうな健太郎に聞いてみた。

「持ってるよ」

「さすが!」

 俺達は健太郎が持っていたパンフレットを囲むようにしてみんなで見た。もちろん通行の邪魔にならないように通路の端に移動して。

「えーっと、確か茜のクラスはニ年ニ組だったよな」

 一哉がそう言うと、俺達はニ年ニ組の出し物が書かれているページを探した。すると……。


 ニ年ニ組:メイド喫茶


 と、書かれていた。

 あーこれは確かに、茜は隠したがるだろうな。というより、パンフレットが配布されるんだから、いくら茜が俺達に教えたくなくても最終的には知られるんだから潔く自ら言った方がよかったのでは?

「よし、行こう!」

 そう言うと一哉はすぐさま茜のクラスに向けて歩き出した。わかりやすい奴。

 俺は綾奈さんと、健太郎は千佳さんと顔を合わせ、みんなして苦笑いをしながら一哉の後をついて行った。


 意気揚々とニ年ニ組を目指す一哉とその後を追う俺達四人は、茜のクラスがやっているメイド喫茶に到着した。

 廊下で順番を待っている人達はおらず、俺達はそのまま教室に入った。すると……。

「お帰りなさいませ。ご───」

 俺達を出迎えて、メイド喫茶お馴染みの言葉を口にしていたメイドは、俺達を見て固まっていた。

「か、カズくん!?それにみんなも!」

 そのメイドこそ、俺の幼なじみにして一哉の彼女、東雲茜その人だった。

 茜は黒の長袖ロングスカートのメイド服を着ていて、スカートの裾と袖には白いフリルがついていて、エプロンとカチューシャにも同じくフリルがついている。オーソドックスなクラシカルなメイド服を着用していた。

「な、なんで来たの!?来ないでって言ったのに」

 その茜は突然の俺達の来訪に絶賛パニック中だ。

「自分の彼女がメイド服を着るってわかって来ない訳ないじゃないか!」

「うぅ……恥ずかしい」

 茜はそう言うと、持っていたトレイを自分の顔に当てて、真っ赤になっている顔を隠した。

「恥ずかしがらなくても、凄く似合ってて可愛いぞ!」

「ほ、本当?」

 茜はトレイを少し横にずらしてチラッと顔を覗かせてきた。相変わらず顔が赤い。

「俺は真人や健太郎みたくオタクじゃないから、メイド服の良さがいまいちわからなかったんだけど、自分の彼女が着てたら……凄くいいなって思った」

 これまでメイド服を装備した茜の良さを力説していた一哉だが、照れてきたのか、段々と声が小さくなっていった。

「みんなもそう思うだろ?」

 そう言って俺達の方に振り向いた一哉の頬は赤みを帯びていた。こんな一哉の表情は滅多に見ないから新鮮だ。

「茜、似合ってるぞ」

「うん。茜さん可愛い」

「良いと思いますよ。センパイ」

「よくお似合いですよ。東雲先輩」

 一哉に続いて、四者四様の賛辞を送る俺達。

「皆……ありがとう」

 茜は照れながらも満面の笑みを見せて俺達にお礼を言ってきた。その姿はお世辞抜きで綺麗だった。

 茜はその後、「こほん」と咳払いをして姿勢を正した。

「改めまして……お帰りなさいませご主人様、お嬢様。お席にご案内いたします」

 そうしてメイド喫茶お馴染みの言葉を口にした茜に誘導され、席に着いた俺たち五人は、それぞれ注文したメニューに舌鼓を打つのだった。

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