第6節 合同練習
第29話 テスト明け、部活でサプライズ発表
図書館での勉強会から二週間後の金曜日、この日は風見高校の中間試験最終日で、全てのテストを終えた生徒達はその開放感からか、友達同士で遊びに行く相談だったり、久しぶりに部活動に精を出せる生徒達で賑わっていた。
俺はどちらかと言われると後者だ。いや、別に部活に精を出そうとするような程では無いのだけれど、この日はテスト終了後、臨時合唱部員も音楽室に来るよう顧問の坂井先生に言われていた為、俺と一哉は、健太郎に別れの挨拶をした後、音楽室に向けて歩き出した。
｢合同練習？｣
｢そう。実はある高校の顧問の先生とテスト前から話をしていて、臨時の子には急な話になるんだけど、明日の土曜日に合同練習をする事になりました｣
先週、坂井先生が俺達に｢テスト明けの土曜日は予定空けておいてね｣と言っていたのはこの為だったのか。
まぁ、明日は特にすることも無くテスト勉強疲れを癒すために過ごそうと思っていたところだ。
｢それで、どこの学校と練習するんですか？｣
一哉が挙手して先生に質問をする。
一哉の質問に坂井先生は｢よくぞ聞いてくれました｣と急にドヤ顔になって、そう前置きをして続けて言った。
｢合同練習の相手は、高崎高校です！｣
｢えっ？｣
俺も一哉も他の臨時部員も驚いたのだが、正規の部員も驚いている。恐らく今のいままでどの学校と合同練習をするのか秘密にしていたのだろう。サプライズ好きな先生だ。
とは言え、全国大会常連の高崎高校の練習を間近で見れるまたとない機会なので、素直に興味を引かれた。
一哉を見ると、何故か俺の方を見てニヤニヤしている。こういう時のこいつはろくな事を言わない。
｢良かったな真人。愛しの西蓮寺さんに会えるぞ｣
｢な、何言ってんだよ！それに、西蓮寺さんとはしょっちゅう会ってるし……｣
｢でもテストが始まってからは会ってないって言ってただろ｣
そう、あの勉強会の翌週から高崎高校のテストが始まり、テスト中は一日数教科──日によっては一教科──テストを受けたら下校となるので、必然的に下校時間が合わず、一緒に帰れない日が今日まで続いていた。
それでもメッセージのやり取りや、たまに電話もしていたので、全くコンタクトを取っていなかったと言う訳では無いのだが、ただやっぱり……。
｢寂しかっただろ？｣
｢……！｣
一哉が相変わらずのにやけ顔で俺の心を読んできやがった。やっぱりイラッとする。
｢心を読むな。心を｣
｢こらそこ、お喋りしない｣
一哉がけたけたと笑った後に坂井先生に注意された。もう少し笑いのトーン抑えろよ。
｢と言うわけで、明日は十時から練習開始だけど、高崎の生徒さんも来るので、九時半にはここに集合ね｣
坂井先生の連絡事項が終わり、この日は解散となった。
一哉は例のごとく、茜とデート──茜は部活休み──らしいので、仕方ないので真っ直ぐ家に帰る事にした。
そう言えば、合同練習の事、西蓮寺さん何も言ってなかったな。
先々週には伝わってなかったにしても、一緒に帰らなくなったこの二週間の間、メッセージでも言わなかったから、もしかしたら高崎高校でも、合同練習の事が伝えられたのは今日なのかもしれない。
そんな事を思って下校したその日の夜、部屋でラノベを読んでいると、スマホから着信を知らせる音が鳴った。
画面を見ると、西蓮寺さんからだった。
俺は少し緊張しながら一度咳払いをして電話に出た。
｢もしもし｣
『も、もしもし。こんばんは中筋君』
｢こんばんは西蓮寺さん｣
『テストお疲れ様』
｢ありがとう｣
西蓮寺さんからの労いの言葉を貰い、顔が緩む。数拍後に、西蓮寺さんが本題に入る。
『明日の合同練習の話って聞いた？』
やはりその事か。
｢うん、聞いたよ。今日聞かされたからびっくりしたよ｣
『私は先週の金曜日、テストが全部終わった後に聞いたよ』
｢そうなんだね｣
と言うことは今からちょうど一週間前に聞いたのか。
でも、その間にもメッセージのやり取りはもちろん、電話もしたけど、西蓮寺さんからその事に関するワードは一切出なかったな。ちょっと聞いてみるか。
｢その事について話題がなかったのは何か理由があったから？｣
『うん。風見高校は今週テストだったから、テストに集中してもらう為に口止めされていたの。ごめんね』
西蓮寺さんの語尾が弱くなった。聞き方が悪かったので、俺は慌てて取り繕う。
｢い、いや、西蓮寺さんは全然悪くないから！むしろちょっとキツい聞き方してごめん……｣
意識していなかったとはいえ、もう少し聞き方ってもんがあるだろと、自分を戒めていると、話題を切り替えるべく、西蓮寺さんが質問をしてきた。
『ところで、明日はお昼どうするの？』
明日の合同練習は夕方までやるらしく、昼食が必要となる。
俺は今回の合同練習の話を聞いた後に、母親に明日は弁当がいると伝えているので、作ってもらえる。
｢弁当持っていくよ。学食は土曜で閉まってるけど、音楽室か、どこかで食べるつもり｣
『じ、じゃあ……』
｢うん？｣
『明日のお昼、い、一緒に食べない？』
｢えっ!?｣
西蓮寺さんから予想外の提案が出て来た。てっきり明日は宮原さんと、夏休みの合唱コンクールの時に談笑していた女子部員達と食べるものだと思ってた。
こんなお願いをされて、断れる男がどこにいると言うのか？
｢うん。良いよ｣
俺は西蓮寺さんのお願いを二つ返事で了承した。
｢ちなみに、宮原さんも一緒？｣
『そうだけど、嫌だった？』
｢まさか！多分一哉も一緒だと思うから、宮原さんも居た方がいいなと思って｣
『ふふっ、じゃあ明日は四人でお弁当食べようね』
｢うん｣
西蓮寺さんと二人っきりが良いと思わなかったと言われたら嘘になるが、俺にとって宮原さんは、大事な友人の一人だからむしろ歓迎である。
『明日が色々楽しみだな』
｢そうだね｣
ふと、時計を見ると、二十三時を既に過ぎていた。
『じゃあ、明日も早起きだから、そろそろ寝るね』
｢わかった。また明日ね｣
『うん。また明日』
気のせいか、最後の挨拶の時の声が弾んでいるように感じた。そんなに明日が楽しみなんだろうか？
まぁ、俺も明日は久しぶりに西蓮寺さんに会えるのだから、緊張も少しだけするけど、嬉しいと言う感情が大半を占めていた。
西蓮寺さんとの電話の後、少しＳＮＳをチェックしてから眠りについた。
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