第8話 狙われたお嬢様 その⑧


 その日の夜、夕飯の後に自室で勉強をしていた結は、華からかかってきた電話で予想外の出来事を聞かされた。

「うん、そうなの。喫茶店でお茶とケーキを食べて、私が支払おうとしてお財布を開いたら、お札がなかったの」

「…それで、どうしたんですか!?」

「スマホの電子マネーで払ったわ。パパの店だから本当は払わなくていいんだけど、他の人から見たら誤解されるからって、一応支払っているでしょ?」

「ええ」

 昨日、結と一緒に喫茶店に居る時もそうだった。華は家に帰った後、親に報告してその払った分を現金で貰っているのだ。

「そうですか…」

「パパに『電子マネーで払えるようにして』って頼んでよかったわ」

「ええ…。昨日お礼として、お札を出したからですか?」

「ううん。家に帰ってから、パパからお小遣い貰ったわよ。五万円くらいあったから」

 結の予想通り、華は両親から追加のお小遣いを貰っていた。

「それから百貨店へ行って、可愛いポーチをプレゼントしたわ。今度の土曜日と、日曜日がそれぞれ誕生日って聞いたから」

 今日、一緒にお茶と買い物をした二人の女生徒は、華が初日で入部することに決めた華道部の部員達だ。クラスは違うが、同じ一年生だと華は説明した。

「そうですか」

 華は小学生の頃から、同級生へ必ず誕生日のプレゼントをしていた。そのせいか、従姉妹である結も、同じように誕生日のプレゼントと貰える、と期待する同級生が多かったのだ。

 だが、結の家は普通のサラリーマン家庭だ。結の父親は成宮グループの会社で部長をしているが、結の父も自ら言わないので、今でも特別扱いされていないのだ。

 ちなみに、結の父親と華の父親は実の兄弟だ。結の父親の弟が華の父親であり、結の父親と名字が違うのは、弟が成宮家へ婿養子に入ったからである。

 プレゼントに悩んでいた結に両親は「無理に華と同じ物をあげなくていい」と言った。それで結は普段から一番仲良くしてくれた同級生にだけお小遣いで買えた物をプレゼントしたのだ。

 しかし、それがきっかけで結は一部の生徒から苛められてしまった。今思えば逆恨みみたいなものだが、その時に結は精神的に追い詰められてしまい、不登校になりかけてしまったのだ。

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