ヒロの慟哭はアイカとの訣別、これがホントの両片想い『結局ぶっ壊されたのは俺の初恋』

※ごめんなさい、まだヒロです。


 頭がぼんやりするなぁ…見知ったる天井が視界に映る。自宅のリビングだ。

 そしてぼんやり覚えている。

 本格的に意識がトんだのはアイカと決別して、タツを押し倒してからだ。


 そして気付いたら床に大の字になっていて…そのまま、タツになんか叫んだあたりから覚えている…うーん、思い出せそうで…



 見回すとアイカはいない、そうだ。何か覚悟を決めたかのように…今の友人の所に行ったんだ。

 確かそんな感じだったと思う。


 タツもいない、アイカは多分、危険な所に行く…だからタツに叫んだ…助けてやってくれと。

 

 タツはちょうど千代先輩がアイカとすれ違いで乱入し、今の友人の所に逃げたアイカを、タツと千代先輩が追いかけた。

 でも心配はしていない、詳しい事は未だによくわからんが、ネコの話ではとても凄い2人らしいから、きっとなんとかするんだろう。

 何か組織がなんちゃらみたいな話していたけど、内容が良く分からないし聞いても意味分からないので、そのあたりはの事を考えるのはよそう。


 ネトは泣きつつ、片付けをしながらネコと親達に説明をしている。

 思い出してみる…ブチギレて、初めの方と最後の方だけ覚えている。

 いや、アイカとのやりとりはギリギリだけど大体覚えているんだ。

 俺の初恋の…顛末を…




++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!


『アイガァァァァァァダアッ!!テメェなんで裏切ったっ!?なんで俺を裏切ったっ!?ゆるざんっっ!俺を舐めやがったなっ!?』

『ギイイイイィィィエエエェエェっ!言えや返答次第じゃ殺すっ!ぶっ殺してやるぞぁいざきゃぁッッ!アイガァァァッッッ!!!』


 幼馴染3人に罵声を浴びせながら殴り、蹴り…親父とネコに絡み…アイカを机に押し倒して髪を掴み、頭を机に叩きつけながら、お互いの顔面を一センチ以内に近付け…俺の顔面に付いた血とタツの糞尿、そして切れた口からも血を飛び散らせながらアイカに罵声を浴びせ、時折ビンタするのを続けた…すると口の切れて腫れて喋りづらそうにアイカが言ったんだ。


『ごめんなざい…(ガンッ!)でも…わだじば…いまのびろが…(ガンッ!)ずぎ…好き…じゃなくて…すう…はい…してましゅ…だがら…ごろじでぼじい…(パンッ!)あいじでまずぅ…(パンッ!)だがラァ…しゃいごにキシュゥ…してぇ…』


 そんなもの…信じられるかよ…今更何が…でもビンタして…何が変わるんだろう…


『ふざけんなァっ!でめぇ!ファンタジーの住人じゃねぇんだよっ!嘘ばっかついてんじゃねぇ!そう言えば殺されねぇと思ってんのかッあぁんっ!?死にてぇならもう一度いってみろやあぁぁっっああぁん!この淫売ガァァァァッッッ!!』


 転がっているアイスピックを拾い上げ右手で逆手に持って、左手で髪を掴み、顔…特に口が腫れているアイカの眼球に当たるか当たらないかで、つきつける…


『やっばり…でがふるえでない…ぼんぎだ…やっばり…ひろは…ぼんものだ…あいだがった…ヒロだ…………おじえで…ひどつだげ…びろは…いまのじぶんは…ぎらい?』


『あだりまぇだろうがボゲェっ!ムカついてブチギレてんだよオラァよっ!?誰が好き好んで辛い目にあうんだよ!?あほがぁっ!!』


 嫌いに決まってるだろ?ずっと好きだった幼馴染にアイスピックを向けて殺すなんて言うやつは…


『わだじも…ぎらい…だよ…じぶんの…じょうしぎぶっで…ただじいとおもうごとを…ひどにいっで…じぶんを偽るどころ…ありもじないじょうじきをかかげ…ヨガれどぉもっで…ルールどがいっで…よぐぼうをがばん…ずるどころが…ぎらい…だっだ』


『はぁ?何いってんだテメェはあぁ!?』


 それは…そのアイカの自分の嫌いな所は…俺が目指したアイカの姿だ。


『わだしば…いまのひろがずぎ…孤独で…じょうじきで…ぼんぎで…ひどのごごろを…えぐる…このひどはほんぎだっで…このひどのだめに…なりだいっで…ぜがいのじょうじきを…じぶんをごろずごとを…がまんじないひと…ずぎだっだ…ぐるっただ、ひろの…したに…』


 歯を食いしばりながらアイスピックを振り上げた…覚悟を決める為に…全部終わらせる為に…


『わたじだちは…お互いにぎらいな、どころを…ずきになっちゃったんだね…びろが…いまのわだじをぎらいなように…やざじぐで…ふづうで…まじめな…ヒロばすぎじゃなかっだ…でも…びろだがら…きらいになれないの…でも…やざじいヒロどは…づぎあえないがら…わがれょう…ゃざじいひろのぎぼうは…がなえられないがら…いうの…おぞがったね…ごめんね…ビロ…』

 

 今までの感情と時間…16年…全てを込めて全力で振り下ろした。

 アイカの目は…俺とアイスピックをまるで恋人を見るような熱い視線で見ている…


 なんでだろ?…誰も止めなかったな…分かってたのかなぁ?

 


 アイカの髪を掴んでいる左腕…そこに目掛けて全力で…ただ無心で振り下ろす!


『ズブッ』


 という音が聞こえた。痛みなんて無かった、刺した場所が熱くなった。血がツーっと垂れるだけ…だけど一瞬だけ意識が腕に向いた


 横で同じテーブルの上で片肘をたてながら見ていたタツが目を丸くして手を伸ばしてきた…


『ひ、ヒロぉ…腕…ヒロの…』


『さわんなぁタツァっ!アイカァァァッッ!!!』


 タツがビクッと腕を止める、その顔は寂しそうで辛そうで…ツッチの時と同じ顔…そして今のアイカと同じ顔…もう2度と…彼女にこんな顔をさせてはいけないな…


『それ、最初から俺に言えよ…なぁ…ありがとうな…1年の時は…楽しかったよ…俺は普通で…楽しかったんだ…つまり…ずっと我慢させてたんだな…』


 こんなブチギレなんて一過性のものだ、もうこんな状態の日常、イライラしっぱなしの日常なんて戻れない…だからフラれる時は…今の普通の心の…いつもの俺で…


『俺の初恋を…よくぶっ壊してくれたな…惚れさせられなかった俺の負け…昔の自分に負けるのは悔しいけど…さようならだな…』


 また意識がトぶ前に…ブチギレが始まる前に…言えよ…俺…アイカの髪を離し、アイスピックの刺さった腕を上げ、手のひらを広げる…


『もう…お別れ…これでアイカを掴めない…昔の俺は忘れてくれよ…新しく出来た友達の所でも…何処にでも行くと良いや…でもさ、もし行った先で、話せない困った事があったらさ…そしたら今の普通の俺が…幼馴染として話は聞くよ…じゃあな…アイカ…またな…』


『ごべんね…いろいろ…ごめんなさい…ざよなら…ひろ…ばいばい…ひろ…』


 永遠じゃないんだ…生きて暮らしてれば何処かで会える…笑おうと思ったがひきつった感じになった…だんだん腕の痛みでイラついて来た…


 そこで…ずっと我慢してたのに…タツが見てて、目があったんだよなぁ…凄い真っ直ぐな目で…俺の心まで見透すんじゃないかって勢いで…挑戦的な目で見てきたんだ…小学生の時の…俺がタツの勇気を試す時の顔だ…


【オレなら…ヒロの全てを受け止めれた!】

【ヒロ…ぶっ壊せるもんならぶっ壊してみろよ!】


 ホントに毎度、死ぬ程怖いくせに肝心な時に挑戦的な目をするんだよなぁ…ゾクゾクするんだよ…いつも壊れるのに…自分でもニヤァって、嫌な笑い方してるのが分かるんだよ…いや、駄目なのは分かってるんだけどね、人として…それでいつも頭が…パーンって…ね。





 次、意識がぼんやり覚醒した時に、アイカに言われたんだ。


『…やっぱり…タツじゃないと駄目なんだなぁ…悔しいけど…でも、もうヒロや皆に…思い残す事は…何も無い…そうだなぁ…次は…次会う時はヒロと家族になりたいな…それじゃあね…』


 俺は涙を流しながら別れを告げるアイカに何も言えなかった…だってもう恋人じゃないから…無言で見送ったけど、明らかに今生の別れだった。



 んで何かゴチャゴチャあってタツが立ちがった時に言ったんだなぁ…何か言わないとって思って…


『タツゥっ!タツァァァァァッッ!!アイガをいがぜええぇぇぇ!お前にしか出来ないんだっ!俺だぢ幼馴染よにんのじゃまぁぁするものはぁッッ!…全部ッ!ぶっ壊せえぇぇぇぇッッッ!!!!』


 普段なら怖い目に合わすとぶっ壊れたままだけど…今回のタツは白目で舌が出た変な顔になってたけど『任せろ』って言ったんだ…だから…フッと楽になった気がした。



……………………………………………………………………………………………………



 あぁ、そうだ…アイカとの事は思い出した。

 最初の方は…タツと目が合うまでは、まだ落ち着いてたからな。


 ちゃんと別れられたんだ。歪だけどちゃんと目を見て…アイカの気持ちを知って…俺はふられたんだな。


 アイカの気持ちは…気持ちを向けているのは昔の俺で…だけどお互い新しい世界を見つけた自分アイカと、俺の変わりように折り合いが付かなかった。

 アイカはもしかしたら…俺に対する自分の感情の名前を…無理矢理付けるなら…もしかしたらそれが『恋愛』かも知れないというだけ…実際は狂った人に振り回されたい…なのかな?

 俺には分からないよ。


 結局、俺が恋や愛情と思っていたのは…普通の人の様に、小説の様に恋をして愛を知るなんて少女チックな事を考えていたのは…将来の事を考え、家族の事とか考える様な愛情を想っていたのは…俺だけで…見方によっては重〜い俺の気持ち…ある意味メンヘラ少女の片思いみたいな…でも結局、それだけの話だったんだ。


 そうだよな、付き合えただけで両思いって誰が決めた?両思いしかいないんじゃカップルなんて絶滅危惧種になっちまうよ(笑

 付き合ってなくても両思いの奴だっているんだしな。


 うんうん、考え方を変えれば片思いだったんだな。

 散々暴れておいてなんだけどな、無理矢理着地した感じだけど、なんだかスッキリした。


 そう、考え方を変えれば…俺はただ今までずっと告白を続けていて、たった今、やっとフラレただけなんだ。

 ポケットに手を入れると1つの筈のものが2つあった。

 

「ハハハ…そうか!やっぱりだ…俺はずっと片思いだったんだ。いや、アイカも俺も片思いだったんだな…なら良いんだ、アハハ、ハハハ…本当に、意味のあるプレゼントだったんだなぁ」



 仰向けで大の字に寝ている俺…虚空を見ながら片手にポケットの入っていた物を2つ掌に持って天井にかざす…



 あの状況で…顔ビンタとかしたりしている時に…気付けばアイカに入れられていたのかな…



 ポケットに入れられたハートのペンダント2つ。


 割れたハートがくっついているようで…この2つはあくまで2つなんだよな…


 よく見たら金属が違うし…よく見たら割れたハートはきちんとハマらない…


 最初から謎掛けだったのかなぁ…あいつはこういう所がなぁ…いや、そういう所も好きだったんだよなぁ…


 なぁアイカ…俺とお前は…もう恋愛に発展する事はないと思うけど…

 でも故郷は同じ街、もしかしたらこのまま実家は隣のまま…そして同じ年齢で…同じ病院で生まれた…そんな運命だったんだから…だからいつかまた会う事もあるよな…

 そしたら今度こそ…ただの気の合う幼馴染、昔馴染みの友達になれると思うんだよ、それまでお互い頑張ろうな…


 ふいにまた、涙が少し出た。今日フラレたんだから良いよな…少しぐらい。



 ネコが心配そうに覗き込んできた。その後ろからネトも見ている。


「大丈夫ですか?精神とか脳とか色々と…なんだったらタクシー呼んで精神的な病院行きます?」


 色々と豪胆な娘になったな、ネコも。

 それにネト…にも伝えなきゃな…


「ネト…お前も…もし何かひっかかってるなら…昔の事ならもう気にしなくて良いからな。俺はもう昔の俺じゃないんだ。誰かの為にキレる気は無いし、それでヤクザになろうとする気はない。あぁ、もう疲れたよ。お前の人生にも口を出す気は毛頭ないんだ。今回のNTRの件も、もうスッキリしたよ。ただ、そうだなぁ…まぁたまには飯でも行こうぜ」


 明るく言ったつもりだがネトが俯いて少し悲しい顔をした。


「ヒロ…僕は元から、ヒロには今の様に落ち着いてほしいと思っていたよ。僕は…中学の時に静かになったヒロを見て、そのまま変わって欲しいと思った。だって子供の時はとても怖かったから…それに中学の時は話しかけたら普通に返してくれただろ?ヒロは心の距離を離したつもりでも、僕には中学の時のあれが幼馴染として普通の距離だと思ったんだよ。だから、当時ヒロとアイカが辛かったと言う幼馴染の距離感は、僕にはちょうど良かったんだ。酷い話だよね。」


 ネトが少し目に涙を溜めながら、遠くを見るように続けて言った。


「小学生の時も、さっきもそうだ。狂ったヒロに、アイカは油を注ぐし、タツは嬉しそうに真っ直ぐな目で向かっていく…僕だけが逃げて、影でコソコソしていた」

「アイカはきっと、ヒロは狂ったままが格好良くて変わって欲しくなかったし、タツは…狂わなくなってヒロが誰も見なくなったら…自分も見なくなるんじゃないかと不安になって、奇行を繰り返しているんだろうな。僕はそれで…そんな諦めないタツを見て…アイカがヒロを見るような、憧れの目で見てたんだな…結局…僕は何でも出来る様になったと言われて何も出来なかった」


 顔は見えないが…ネトの涙が落ちた気がした。


「1月頃かな…僕はアイカが放っとけなかった、だからヒロに何とかしてもらおうと思ったけど…他力本願じゃ駄目だってわかった。少し前に、アイカに…僕じゃだめなのかとちゃんと気持ちも伝えたんだ…だけど何度言ってもあっさりフラれ続けたよ」

「きっと。皆、すれ違っていたんだな…皆が皆、両片想いってやつだ…この台詞は『気持ち悪いな』ハハハ」


「アハハ、ネト!お前、『気持ち良い』以外言えるんかよ。本当は『気持ち良い』しか言えないって嘘だろ、面白いから言っているだけだろw」


 ネトが「ほんとだ!?いや違うよ!?うそじゃないよ!」…みたいな会話を笑いながらしていた。

 両親達も片付けながら少し談笑していた。消えたアイカの事は解決していないし、まだ落ち着ける段階ではないけど…信じて待つしか無いんだもんな。

 親達も、俺も悪い意味でしか千代先輩の事を知らないが、親世代からはとても信頼されているようで、去り際に絶対になんとかしてみせると言われて安心していた。


 なんだか久しぶりに落ち着いて話している気がする。

 宙ぶらりんより、フラレたんだなって思うだけで気分が軽くなったな。

 俺の恋は…やっと終わったんだな、という安心感の方が大きいかも知れないけど。


 そして一つ忘れていた事がある。アイカとはお別れをした記憶か朧気ながら…ある。

 しかし、タツに何をしたかはマジで全然覚えていない。ろくな事をしていないのは間違い無い。

 そもそもタツと一緒にいる時って、結構記憶飛んでいる事多いな。

 何故か、頭がとても爽やかな…賢者モードなのは何故なんだろうな?


「ところで俺は…タツを押し倒した後に何をしたんだ?マジで何も覚えていないが…」

 

 ネコとネト、それに親達も目を逸らす…何故だ?

 ネトがネコに促した…

 

「ネコ、お前がオブラートに包んで説明しろよ…一番外側にいたから状況分かるだろ?」


「嫌だよ…私、目の前まで来てボヤカスなって怒られたんだよ?…嫌だよ…」


「頼むネコ、教えてく『ㇶィッッ!?』」


 俺はネコの両肩を掴んで教えを請うたらㇶッとか言われた。

 そして知った…ネコ教えてくれたまさにクソ野郎な俺の実態…ネコはオブラートに包むって意味、分かってんのかな?


※ヒロは意識が朦朧としていて、思考がままなっていないと思って頂ければ幸いです。

年末で更新遅くなってます。すみません!

次回『ネコはミタ、だからどうした』お楽しみに!

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