9 炎竜王フレア


「あはは、『元』炎竜王だよ。もうずっと前に、その座はブレイズに譲ったからね」


 彼女――フレアが笑う。


 外見は十歳そこそこの幼げな美少女だ。

 ちょうど今の私と同じくらいの年のころである……外見だけなら。


 が、その中身は齢数千年を優に超える竜王の一体。

 以前の人生では敵としても味方としても戦ったことがある、因縁の相手――。


「うわー、すっごい美少年だねぇ。モロにあたし好みなんだけど~!」


 フレアが私に近づいてきた。


「ねえ、ちゅーしていい」

「断る」

「あ、つれない~」


 けらけらと笑うフレア。


「相変わらずだな、君は……」


 私は苦笑した。


「しかし、君は竜の国に帰ったのではなかったか? 炎竜王の座もブレイズに譲ったんだろう?」


 私はフレアにたずねた。

 竜王国で一戦交えた現在の炎竜王ブレイズのことを思い出す。


「うん、そのブレイズのことで来たの。話には聞いてるよ。ガーラとやり合ったとか……あいつも身の程知らずだよね~」


 フレアが笑う。


「あたしならともかく、ブレイズ程度でガーラに勝てるわけないじゃん」

「ふふ。君にだって簡単に後れを取るつもりはないぞ」

「いいね。また戦う?」

「面白い」


 私とフレアはニヤリと笑い合った。


 彼女の本性は武人そのもの。

 かつて、私とも何度か戦ったことがある。


『黒の魔王』にも比肩するほどの、恐るべき強さだった。

 今の私の体でどこまでできるか分からないが――。


「では、胸を借りるとしようか」




 私たちは数メートルの距離を置いて対峙する。


「その体って、前と比べてどうなの? 強くなった?」

「いや、弱くなったよ」


 私はわずかに苦笑した。


「ふーん……?」


 フレアが首をかしげる。


「あたしには前より強そうに見えるけどな?」

「えっ」


 私は驚いて彼女を見つめた。


 今の私が――以前より、強い?





***

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