第15話 バカと賢い
イケメンという生き物はすごい。
「キャハハ~」
「ウケる~」
こんな活きの良いギャルがあっさりと釣れるのだから。
まあ、見た目はそれなりだが、頭はからっぽな感じだ。
「ねえねえ、キヨナリくんって、彼女とかいるのぉ~?」
ギャルその1が、指先で俺の胸板をなぞりながら言う。
女子高生にしてこのあざとさ、いやメス特化ムーブ。
もっとちゃんと、真面目に勉強した方が良いんじゃないだろうか?
他人事ながら、親のことが心配になるぞ。
「俺みたいなブサイクに彼女がいる訳ないだろ?」
「ぷはっ、ウケる~。こんなイケメンのくせして」
ギャルその2がかぶせて来る。
やはり、ギャルというのは小賢しい生き物だな。
明らかにブサイクな俺のことを、イケメンと言う。
実に安っぽい挑発、イジりだ。
まあ、俺はこれくらいのことでは怒らない。
むしろ、その嫌味を喜んで受け取ってやろう。
「だいたい、目の前に本当のイケメンがいるだろうが」
俺はテーブルを挟んで向かい側にいる、圭介を見て言う。
ちなみに、圭介はジュースを飲みながら、顔をしかめている。
おかしいな、先ほどまではご機嫌だったはずなのに。
「「ああ、そだね~」」
一方で、俺を両サイドで囲むギャル2人は、適当な返事をして、なぜか俺にすり寄って来る。
おかしい、なぜブサイクの俺の方に……ああ、そうか。
本当のイケメン相手だと、緊張してしまうから。
むしろ、近寄れない。
だから、ブサイクな俺の方で、キャッキャと楽しむ。
その愛らしい姿を、本命であるイケメンの圭介に見せているのだろう。
だとすれば、ますます小賢しい生き物だ、このギャルたちは。
観察対象としては面白いが、我が親友の機嫌を損なうようでは困る。
「すまん、ちょっとトイレに行く」
俺はそう言って、強引にギャル2人をひき剥がし、席から離れる。
「え~、さみちい~」
「ぴえんしちゃう~」
「黙れ、アバ◯レども」
「「きゃんっ♡」」
「お前ら、ちゃんと俺の親友にご奉仕しておけよ。素直になってな」
そう言い捨てると、俺はテーブルから離れて、トイレに向かう。
その時だった。
「んっ?」
見覚えのある2人組がいた。
「えっ?」
「あっ」
その親友コンビは、呆けた顔で俺を見る。
「ククク、奇遇だな、道長に白川よ」
「こ、児玉くん……」
道長がなおも呆けた様子の一方で、
「児玉きゅん、奇遇だね~! え、どうしてここにいるの~?」
「圭介のナンパに付き合った」
「はっ? あのボケナス、児玉きゅんを利用したの?」
「まあ、そうかもしれないな」
「うわ、ダルいわ、あいつ~」
「まあ、そう言わないでくれ。俺の親友なんだから」
「分かったよ~」
白川は口を尖らせる。
「で、お前ら親友同士も、仲良く放課後ファミレスタイムか?」
「うん、そうそう。何か色々と誤解していたけど、違ったみたいだからさ~。ちょっと気分が良くなって、きょうこりんとね~」
「そうか。よく分からないが……」
俺はすぐその場を後にしようとしたが、ググイ、と気が引かれてしまう。
先ほど、俺は実に知性に乏しいギャルどもを相手にしていた。
しかし、この2人は違う。
道長は優等生だし、白川はギャルチックだが、頭は決して悪くない。
軽快なトークが上手いしな。
俺は頭の良い女は好きだ。
その賢さで、俺のことを楽しませてくれる。
実に良質な毒と刺激を与えてくれるからな。
「少しばかり、お邪魔しても良いか?」
「「えっ?」」
2人は目を丸くした。
俺のようなブサイクが、学年でも2トップの女子たちにそんなことを言うものだから。
「大歓迎だけど……おトイレに行く途中だったんじゃないの?」
「いや、そこまで来ている訳じゃない。どうせなら、限界まで我慢してみよう」
「やだ、児玉きゅん……」
ふっ、そうだろうな。
ブサイクな上に、お漏らしをするかもしれない男。
そんなの、最悪だろ。
道長に至っては、未だに心ここにあらずだし。
魂を分離させてしまうほど、俺のことを拒絶しているのか。
「んっ? 道長、お前……」
奴の目の前にあるのは、パフェだった。
ちなみに、白川も同様だ。
「可愛いっしょ? 放課後にパフェを食べるJKちゃん☆」
「ふむ」
俺はジッと、パフェと道長を見比べる。
「こ、児玉くん、そんなに見つめられたら……」
「……なるほどな」
「えっ?」
「その甘いパフェで、普段から抱えている毒を中和している訳か」
「ど、毒?」
「まあ、俺としては、お前にはもっと毒々しくあって欲しいが……特に俺に対して」
「こ、児玉くんに対して……?」
道長が、さらに目を見開いて、俺を見る。
「ああ、俺はお前に期待している。ちょっと世間知らずなお嬢様なところはあるが、お前は賢い女だ。だから、本気を出せば、俺に大いなる刺激を与えてくれる女だと、信じている」
「こ、児玉くんに、刺激……ど、どういうことかしら?」
「察しろ」
俺はポン、と彼女の肩を叩いて言う。
すると、黙って見守っていた白川が、
「はうっ」
ボンッ、と顔が赤くなった。
「どうした、白川?」
「な、何でもないよ!」
すると、慌ててパフェを貪り始める。
そうか、とうとう目の前の俺と言うブサイクに耐えかねて、早食いで気を紛らわそうとしているのか。
それは悪いことをしたな。
悪魔として生きる俺も、さすがに申し訳ないと思うよ。
「じゃあ、お邪魔なようだし、俺はそろそろ行くよ」
「あっ……」
「そ、そんなことないよ。邪魔なのはきょうこりんのおっぱいだし!」
「ちょっと、優奈ひどいわ……」
「ククク、お前らは本当に仲が良いな。さてと、俺も親友の圭介のところに戻って……」
立ち上がろうとした時、
「おい、クソ野郎」
「んっ?」
いつの間にか、目の前に圭介がいた。
何かすごい形相で俺のことを睨んでいる。
「おぉ、たまらんぞ、圭介」
「黙れ、クソ野郎。お前、オレがナンパしたギャルたぶらかしたと思ったら、こんなとこで余裕ぶっこいて、道長さんとイチャこらしやがって……ついでに白川とも」
「誰がついでよ、クソチャラ男が」
「うるせえ」
「あのギャルたちはどうした?」
「帰ったよ、お前がいなくなったせいで」
「そうか、俺というオモチャがいなくなったから……しかし、イケメンの圭介がいて帰るなんて……さてはあいつら、B専ってやつか?」
「お前、いい加減ぶっ飛ばすぞ」
「ハハハ、望むところだ、圭介」
「こいつもうやだ……」
なぜか親友が泣き崩れてしまう。
「坂木ザッコ、ざまぁ、だけど……ちょっと可哀想かも」
「ああ、そうだな。本来なら、俺みたいなブサイクは圭介のとなりにふさわしくない。けど、俺はお前のことが好きだから、これからも親友でいてくれ」
そう言うと、うなだれていた圭介が、おもむろに顔を上げた。
「はぁ~……疲れた、帰ろ」
「じゃあ、俺も……うっ」
「どうした?」
「今さら、尿意が来た」
「さっさと行って来い、バカ」
「スマン」
俺はピューッとトイレに向かう。
色々とゴチャったけど、結果としては良かったな。
先ほどのギャルたちには申し訳ないが、やはりあの2人には及ばない。
圭介も、あの2人と話した方が楽しいだろう。
特に白川とは、どことなく相性が良いような気がする。
まあ、もし俺がイケメンだったら、主人公イケメンな圭介とヒロイン美女の白川のカップルを応援するが。
実際にはブサイクで恋愛ザコだから、大人しく黙っていよう。
出来れば、道長にアシストしてもらいたいが……
道長も、そっちの方は疎い感じだからな。
あまり期待はしないでおこう。
「すみません、トイレってどっちですか?」
「あ、え、えっと……あ、あちらです!」
「どうも」
店員の女子が、ピューッと去って行く。
すまないな、ブサイクが話しかけて。
きっと、裏の方で他の店員と、
『さっき、ブサメンな客に話しかけられたんだけど(笑)』
とか言って、盛り上がることだろう。
ヤバい、想像したら、ゾクゾクして来た。
そのまま、うっかり漏らしてしまわぬ内に、俺はトイレに入った。
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