第14話 親友だから
2年A組の教室。
「てか、きょうこりんの髪って、本当にきれいだよね~」
「えっ、そうかしら?」
「これくらいきれいな黒髪だったら、あたしも染めないし~」
「ありがとう、嬉しいわ」
そんな他愛もないトーキングをしていた時。
「ね、ねえ、杏子ちゃん」
クラスの女子たちがおずおずと声をかけて来た。
「あら、どうしたの?」
「えっと、その、ちょっと聞きたいことがあって」
「あー、あたしも聞きたいわ~。どうやったら、そんなにおっぱいデカくなるのって」
「こ、こら、優奈」
「えへ、冗談だって☆」
「いや、正にその、道長さんのおっぱいのことなんだけど……」
「へっ?」
その女子たちはさらにモジモジしながら、
「道長さんのその立派なお乳……児玉くんに鷲掴みにされているって、本当なの?」
「……えっ」
きょうこりんが白く飛んだ。
あたしも軽くぶっ飛びかけたけど、首をブルブルと振って正気を取り戻す。
「アハハ、何かの間違いじゃない? きょうこりん、乳はデカくても気は小さいから」
「でも、児玉くんがそう言ったって」
「……何ですと?」
あたしはピクリ、眉を上げる。
チラときょうこりんを見るけど、まだ白く飛んだまま。
「ま、まあでも、杏子ちゃんなら、児玉くんにもふさわしいし、仕方がないかなって」
「お似合いだよね~」
「美男美女で」
と、女子ズは盛り上がる。
「……そだね~」
あたしは半笑いで同調するフリをした。
◇
昼休み。
「ククク、快晴だな」
「悪魔的に笑って言うんじゃねえよ」
俺は中庭のベンチにて、圭介と昼メシを食らっていた。
「ところで、圭介。最近、調子はどうだ?」
「ざっくりした質問だな~……てか、最近はあまり女と遊んでないな」
「そうなのか」
「あーあ、良い女が俺の下に転がり込んで来ないかな~」
とか圭介がボヤくと、
「あ、いたいた~♪」
きゃぴっ、とした女子の声がする。
「おっ、可愛い子ちゃんの予感……って、白川かよ」
「は? 何で坂木がいるの? ウザいんだけど」
「お前の方がウゼーよ」
2人はギリギリと睨み合う。
「おい、お前ら」
「あ、ごめんね、児玉きゅん。来て早々、このバカとケンカしちゃって」
「誰がバカだよ」
「睨むなら、俺を睨め」
「へっ?」
「まあ、いきなりは難しいか。ならば、俺がきっかけを作ってやろう」
俺は唐突に現れた、白川のことをジッと見据える。
「ふぇっ? こ、児玉……きゅん?」
ジーッ。
「や、やだ、そんな……見つめないで」
「テメーら、ぶっ飛ばすぞ」
圭介が言った。
「良いぞ、圭介。もっとキツい暴言を浴びせろ」
「うるせーよ、ドM」
「だから、俺はドMじゃない」
圭介に言いつつ、俺は白川を見据えたままだ。
「あ、あの、児玉きゅん」
「何だ?」
「ちょ、ちょっと、聞きたいことがあって……来たの」
「言ってみろ」
「えっと、その……ち、近い、から……」
白川は、鼻と口を覆って言う。
「そうか」
俺はスッと離れつつ、ニヤッとしてしまう。
白川は、人見知りしないタイプだ。
そんな奴が、この程度のことで照れるとは思えない。
イケメンの圭介が相手ならともかく、俺みたいなブサイクが相手ならなおさら。
だから、単純に……俺の顔がキモいか、あるいは口臭がキツかったんだろう。
ふっ、生き血を飲んでおいて正解だったな。
それは独特の酸味が漂う。
俗世の名はトマトジュースだ。
「こ、児玉きゅんって……きょうこりんと付き合っているの?」
「……はっ?」
一瞬、俺は意味が分からなかった。
「付き合うっていうのは……買い物か何かのことか?」
「もう、そんなベタなのいらないから。男女の交際ってこと」
「誰から聞いた?」
「だって、噂になっているよ? 児玉きゅんが、きょうこりんのデカ乳を鷲掴みにしたって」
「むっ、それは……」
俺が答える前に、
「清成、テメェぶっ飛ばすぞぉ!」
なぜか圭介がブチギレて俺の胸倉を掴む。
「フハハ、良いぞ! 圭介、そのまま俺を殴れ!」
「黙れ、ドM! お前、道長さんのあの巨乳を独り占めしたっていうのかあああああああぁ!?」
「ハハハ、落ち着け、圭介」
「これが落ち着いていられるかあああああああああああああぁ!」
「ちょっと、坂木うっさい!」
ベシッ!
「ぐへっ!?」
白川のチョップが圭介の首を直撃した。
圭介がダウンする。
「おぉ、白川! そのチョップ、俺にも食らわせてくれ!」
「へっ? も、もう、今はそれどころじゃないの! ちゃんと、あたしの質問に答えて」
「俺と道長が、付き合っているかどうかってことか?」
「うん、そうだよ」
白川は、真っ直ぐに俺のことを見つめて来る。
なぜそんなにも真剣に……
ああ、そうか。
白川は道長と親友の関係にある。
俺と圭介みたいに。
だから、心配しているんだ。
親友の彼氏かもしれない男が、まさか俺みたいな学園の嫌われ者だって知って。
居ても立ってもいられなくなったんだろう。
なるほど、誠に尊い行動原理だ。
「ね、ねえ、児玉きゅん……」
「白川」
「えっ?」
「俺は道長とはそういう関係にない」
「あっ、そうなんだ……だよね~、ただの噂だよね~」
案の定、白川はホッとした顔になる。
普通の良心的な奴なら、ここでちゃんちゃんと終わるだろう。
しかし、俺は人生の探究者、悪魔的な所業を重ねる男。
つまりは、とてもワガママな男だ。
ゆえに……
「だが、正直に言おう。俺はお前の親友、道長を……利用している」
「り、利用しているって……どういうこと?」
「察してくれ」
それ以上、俺は言葉を紡がない。
困惑した様子の白川の顔を、ジッと見つめている。
すると、やがて……
「……ハッ」
何か気付いたようだ。
「ご、ごめん……」
「なぜ謝る?」
「だ、だって、その……」
白川は、なぜか頬を赤く染めて、モジモジとする。
トイレにでも行きたいのだろうか?
「ま、またね~!」
脱兎のごとく駆けて行った。
「……トイレ、間に合うと良いな」
遠目に揺れるショートポニテを見つめながら、俺は言う。
「き~よな~りく~ん♪」
背後から、陽気な声がした。
振り向くと、先ほどまで怒り狂っていた圭介が、なぜかニヤニヤとしている。
「どうした?」
「いや~、お前も何だかんだ、可愛いところがあるなぁって」
圭介は親しみを込めるように言ってくれる。
他の奴に言われると、意味が分からないし、虫唾が走るくらいだけど。
俺が唯一認めた、この親友に言われると、悪い気はしない。
「よーし、今日は気分が良いや。おい、清成」
「何だ?」
「放課後、ナンパしようぜ」
「えっ、俺も一緒にか? それだと、成功率が下がるぞ?」
「バカなこと言ってんじゃねーよ。オレに任せろって」
圭介は自信満々に言う。
「ふっ、良いだろう。お前の引き立て役として、せいぜい俺のことを利用するが良い」
久しぶりの親友との戯れを前に、俺は心が躍っていた。
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