第87話 えっ、何だって! 今度は流行り病だと!?


 一時はどうなることかと思いきや、こうして何とか機転を利かせてサティアの危機を回避できた。


 いやー、そうは言っても、さすがに今回は肝が冷えた。


 これまで同時に最大2頭までの魔物しか倒したことがなかったのに、あろうことか一万もの大群を相手にだなんて、無謀もいいところだ。しかも他の冒険者や『監視』の目をかいくぐりながら、一瞬で殲滅させなければならないという縛りまでついてしまって……。


 まぁ、終わってみると、実にあっけなかった。蓋を開けてみれば魔物は全滅、魔石も大量に手に入り、さらには空間魔法の新しい使い方も分かった。俺にとっても今回の騒動では得るものが多かったと言えよう。


 もちろん、この街を救えたのが一番嬉しい。もしあの大群が街に入ってきたら、今頃は壊滅的な被害が出ていたことだろう。


 あっ、そうだった!

 いかんいかん、つい危うく忘れるところだった。


「ステータス・オープン」


 --

 名前:サイ

 種族:ヒューマ

 職業:冒険者(Eランク)

 HP:1449 / 1671

 MP:66.3K / 105.8K

 魔法:戦闘火焔魔法(超級)、日常火焔魔法(超級)、日常放水魔法(中級)、戦闘放水魔法(超級)、日常空間魔法(超級)、戦闘空間魔法(超級)

 スキル:身体強化、鑑定、魔力覚醒

 特記事項:状態異常(迷い人)

 --


 慌てて、自分のステータス画面の確認を行う。

 ドンキル大渓谷ではステータス確認どころではなかった。


 谷底へ降りた時も、いつ誰が来るのか分からなかったから、一刻でも早く立ち去りたいという一心だったのだ。


 はて……??


 そんなバカな。

 おかしいぞ。

 俺のMPの表記、これは一体どうしたんだ。

 う~む。


【105.8K】となっている。


 まさかMPが減っている、だと!?

 ついこの前まで2500を超えていたが、そんなバカなことがある訳……。


 いや、ちょっと待った。


 この『K』というのは何だ?


 ひょっとすると、1000のことか?


 とすると、アレか。

 俺のMPは千倍した10万5千8百という数字なのか!?


 スゲェーー!!


 この世界でのMPの基準も上限も知らないが、もはや何となく【人外】の域に達しているような気がしなくもない。


 しかし、これはどういうことだろう。


 思い当たる節といえば、先ほどのスマート・ウルフの大群しかない。

 というか、それしか考えられない。


 そうか!


 もしかすると、間接的に倒した魔物の経験値もいくらか入るようになっているのかもしれない。前までそんなことはなかった。となると、多分、魔力覚醒スキルが関係しているかも。


 そう考えると、なるほど、合点がいく。


 たしかにMPが10万越えというのは確かにすごいが、あのレベルの魔物を1万頭も倒した経験値としてはあまりにも少なすぎる。


 このMPの計算方法がまったく分からないが、まあ本件はこれで一件落着かな。



 ◇


 それから数日間、スマート・ウルフの大群を退けたサティアの街はお祭りのような騒ぎだった。飲食店も大盤振る舞い、基本すべて半額だった。あちこちで踊っている人を見かける。俺も楽しい『つかの間の』ひと時を過ごした。


 しかし、そんな楽しい日々が長く続く訳がない。


 街中で【謎の奇病】が流行し始めたのだ。


 日増しに増えていく患者。

 独特の紫色のイボイボが全身に生じるのが特徴で、治す方法は今のところ不明。


 つまり、治せない。

 不治の病。


 えっ、これって割と詰んでないか?


 幸いにも俺はまだ感染していない。

 だが、日増しに増えていく感染者。

 もはや、うなぎ登りといった具合だ。

 これは俺がかかるのも時間の問題かもしれない……。


 いや、今度は病気で緊急事態宣言が必要だろうな。


 不幸中の幸いとでも言うべきか。

 俺の目には、この奇病が伝染することで感染が拡大しているようには思えなかった。


 先の調査で、俺は魔石を回収し、大発生していた魔物が【異常種】であることを確認した。さらにその異常種を生み出した犯人が、おそらくサルキアにいることも知っている。


 これらの情報をサティアのギルドが知っているかどうかは正直、分からない。だが、この病気についてもサルキアが関与している可能性が高いのでは……。


 先日の魔物の大量発生に続いて、間髪入れずに今度は病気の流行。

 これが果たして偶然なのだろうかというと、きわめて疑わしい。


 となると、これはおそらく『病気』ではない。

 つまり、【毒】を盛られたことになる。


 では、いつ、どこで?




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