第39話 里へ向かっていざ進め
まさかの祝賀会で切りつけられるという、あり得ない出来事が起きた。
さすが異世界、油断も隙もありゃしない。
こうして喜びムードは一瞬にして消し飛んでしまったが、何はともあれ収穫もあった。
まず、俺が手に入れたスキルがやはりとてつもないものだと確信できたこと。何を置いてもこの事実が大きい。
何しろ、今回の勝利の肝は、ずばり身体強化スキルによる身体能力の向上と鑑定スキルによる武器の判定だったからだ。
率直に言えば、これら二つのスキルが無ければ俺はあの場で死んでいた。
これはおそらく、ほぼ間違いない。どちらも非常に使える有用なスキルだった。
こうして思えば、遺跡発掘のバイト、もとい常設依頼を受けておいて本当に良かったな。しかし、どれもこれも結果オーライな気がするが、それはまぁ、この際、脇にでも置いておこう。
とにかく魔法、そしてスキルだ。
この世界ではそれを追求するのがやはり最善のようだ。
翌朝、早起きして荷造りをした我々は一路、姉妹の住む『里』に向かうことにした。
ちなみに宿の俺の部屋は向こう1ヵ月ほど貸し切り状態にしてある。
むろん、代金は既に支払済み。
余分な荷物は部屋に置きっぱなしだ。
実は姉妹の里まではそれほど遠くない。
ここサンローゼの中心部から歩いて9時間ほどとのこと。
いや、それって遠くないか?
そして途中までの道のりは既に歩いたことがある。
シルバーメタル・アリゲーターと戦った場所からギルド会館方面に向かう間に分岐があり、もう片方をひたすら進むと里へ出られる。
◇
ひょこひょこひょこ。
向こう数十メートル先、道を何かが横切っているのが見える。
「あっ、見てあれ! ベリー・フェレットよ!!」
なるほど、フェレットのような小動物だ。
「早く! 早く捕まえて、サイさん。待って、最高級食材~」
何っ!
最高級食材だと。
これは捕まえるしかないだろう。
しかし問題は倒し方だ。火だるまにはしない方がいいし、なるべく素材を傷めないようにしなければ……。どうしようか。
とはいえ、考えている時間はない。
「とぅ、りゃーー!!」
とりあえず、何も考えずに道脇に落ちていた小石を投げつけてみた。
バタッ。
あ、倒れた。
身体強化スキル、便利だな。
威力もそうだが、コントロールが完璧だったぞ。
こうしてベリー・フェレットはあっけなく手に入った。姉妹はこの辺りの地理にとても詳しく、テキパキと近場の沢で血抜きをしてくれた。ユエは手先が器用であっという間に作業が終わった。そして沢の冷水に晒す。肉と毛皮は里への土産に丁度いい。
森の道を歩き続けて十数時間。
当初の予定なら既に到着している頃合いだ。
しかし、先ほどのベリー・フェレットの狩りで時間が取られてしまった。さらに多めに休憩を入れているので、自然と後ろ倒しになってしまった。辺りは既に日が沈んでしまい、視界が悪くなってくる。そんな暗闇の中を歩いていくと、ノエルが元気そうに口を開く。
「もう、すぐそこよ!」
その言葉通り、15分ほど歩くと里が目に入った。といっても、里の境界は高い塀で囲まれている。それにしても城壁のような塀だ。先を尖らせた丸太が林立する様は壮観だが、それだけ魔物か人か何かしら敵がいるのだろう。
「おい待て、お前たち。そこで止まれっ!」
里の入り口には警備が二人もおり、まだ互いの顔が判別できないくらいの距離にもかかわらず、こうして引き止められてしまった。
「私よ。ノエルとユエ。私たちは無事よ。今日はお客人を連れてきたの」
「その声、ノエルか。そうか良かった! ユエも無事か」
「お~い! ノエルとユエが戻ったぞ~~!!」
どうやら2晩ほど帰らなかったことで騒ぎになっていたようだ。
「まず、オオババに事情を説明してくるわね」
そうノエルは一言だけ残して、ずんずんと先へと行ってしまった。
ユエと俺はポツンと残されたままだ。
「えっと、ここが君たちの住んでいる場所なんだね」
「そう。ここが里。すごい場所にあるでしょ」
確かに言われて見るとそうかもしれない。暗くてよく分からないが、周囲は深い山々に囲まれていて、かなりうっそうとしている。
そしてもちろん、ギルド会館からもかなり遠い。ちなみにユエたち里の方々は道沿いをさらに進んで峠を越えた場所にあるギルドの出張所で冒険者登録をしたのだそうだ。
それにしても里を取り囲む城壁のような塀や警備の物々しさがやはり気になる。
「なぁ、この立派な塀やら柵やら警備やらは一体なんなんだ? 大きい魔物でも出るのか気になるんだが?」
「うん、サイさんの言う通りそれもあるけど、人間も、かな」
「あぁ、そう言えば、里の大事な石碑が持ち出されてしまったんだっけ」
「昔から柵はあったのだけれど、その事件が起きてから警備をきちんとするようになったの」
「なるほど。大変だな」
こんな小さい集落なのに……。
いや、だからこそか。
色々と余計な苦労が多いのかもしれない。
我々はちょうど着いたばかりだが、今ここで『疲れた』などと言っている場合ではないのだ。
ついに正念場がやってきた。
いよいよ個人的な【闘いの舞台】が幕を開ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます