第34話 贅沢な朝のひと時を楽しもう
「ねぇ、起きて。起きてよ。もう朝だよ」
「起きろ~!」
「うぅ~ん。何だ」
薄っすらと目を開けると両脇から顔を覗かせる二人の可愛い女の子がぼんやりと目に入った。
「なんだ、夢か。ここは夢の中に違いない」
ゆっくり再び目を閉じる俺。
「ちょっと、また寝始めないでよ!」
「ほら、起きてよ~」
「ぐ、グォっ、ぶッ!」
突然、グラグラと大きく体を揺さぶられて思わず飛び起きる。
何だ。いや、ここは俺の宿の部屋の中だ。しかし違うのは他人がいるということ。
「あっ、やっと起きた」
「おはよう、サイさん」
そうか、そうだった。こっちが現実だったな。
起きたら女の子が目の前にいるとか、どうみても夢だと思ったのだが。
「お、おはよう、二人とも」
起きたばかりなのに若干戸惑いながらも挨拶を返した。
「本当に、もう、お寝坊さんなんだから!」
「寝ぼけてる~」
戸板を開けると日差しが煌々と照り付ける。朝だ。
我々は着替えて、さっくり水浴びをして、息を吹き返した。なにしろ昨晩は疲れすぎて、風呂どころではなかったのだ。
ゆったりした朝の時間を皆で贅沢に過ごしながら、これからのことを考えていた。
「この近くに旨い朝食を出す場所があるんだが、行ってみないか?」
そんな提案をしてみる。これは本当のことだ。見つけたのはつい先々週のことだが、この世界に来てから最も気に入った飲食店の一つである。
「それは興味深いわね。ぜひ行きたいわ」
「うん、行きたい。お腹減ったしね」
即決。
こうして宿から歩いて数分の喫茶店に向かうことになった。
喫茶店といっても俺が勝手にそう判断しているだけで、実際は軽食屋といったところだろう。
いかんせん、この街は冒険者で成り立っているようなものだ。そのため、街中のありとあらゆる店の風貌や中身そのものが、全体的に荒くれ者にフィーチャーされてしまっている。対して、ここのように優雅な時間を過ごせる隠れ家のような店はとにかく貴重なのだ。
「ここだ」
それなりに大きくて緑豊かな敷地に佇む一軒のログハウスを指さした。
「これは期待できそうね」
「見て見て。あそこにカゴに入った鳥さんがいる! カワイイ!!」
「入口がお洒落だわ」
驚くのはまだ早い。
粗造りの外観だが、内装は繊細で、よくデザインされている。置かれている調度品も厳選されており、配置もよく練られている。
それにしても他のお客はほとんどいない。今は朝食にしては遅い時間だからなのかもしれない。姉妹は興奮しているのか、細長い尻尾がぴょこぴょこしている。
「それで、何を頼む? とりあえずモーニングセットがオススメなんだが。全部でA、B、Cの3種類があって、大体が共通だけど、それぞれ肉、魚、卵がメインになっているんだ」
それを聞いて少し悩む二人。
「ふ~ん。じゃワタシはAかしら」
「じゃ、俺はB」
「Cがいいな」
「見事に分かれたね。シーだけに美味シー、なんつって」
「あんたねぇ」
「ぶっ」
「いや、受けている方が約一名いるようだけれど」
う~む、思わず口から滑り出てしまったお寒いネタだが、収穫だった。この世界でも親父ギャグが通じるのか。興味深い。
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