第24話 魔獣と相対したとき、人はどうすべきか


 山中の小道を身体強化のスキルで疾駆すること早数分。近づくにつれて音がどんどん大きくなっていく。音のする方へ向かってさらに進むとようやく現場に到着した。


「うわー! なんてこった!!」


 どうやら俺の想定はかなり甘かったようだ。


 目に入ってきたのは想像を絶する光景だった。広場周囲の木々がなぎ倒され、体長20メートルはあろうかというずんぐりむっくりしたド迫力なワニがそこにいた。銀色にギラギラと光り輝くその巨体は見るからに堅強な鱗に覆われ、長い尾をくねらせている。まだわずかに残るオレンジ色の陽光がワニの背中に反射してきらめく。


 あー、これはつまりアレだな。強敵だ。

 あまりの迫力に当てられてしまい、語彙が出てこない。


 あっ! 人がいる。


 よく見ると巨大ワニの前方に誰かいるようだ。さすがにワニの目の前を通る訳にはいかず、急いで大回りをしてその人の背後から合流する。


「おい、大丈夫か? ケガはないか?」


 さっきは暗くてよく見えなかったが、ネコのような耳と尻尾がちょこんと生えている女の子がそこにいた。すっかりおびえ切っている様子だったが、まだ果敢にファイアー・ボールで立ち向かっている。


 これが俗に言う獣人族か。

 すごい、本当にいるんだ。

 やっぱりここは異世界なんだな。


 いや、見とれている場合ではない。


 今は緊急事態のただ中にいるのだ。

 集中しろ自分、集中!


「ありがとう。私は何とか大丈夫。それよりも」


 ……と指を示したところに同じく獣人の女の子がいた。


「妹なの。でも……」


 その声は今にも張り裂けそうだ。


 妹は数メートル離れた大きな木の根元に持たれかかっていて動けない様子。脇腹に大怪我を負っているようだ。これはまずい。


 俺も加勢するほかない。

 元よりそうするつもりだった。


 しかしこの巨体相手に女の子と同じファイアー・ボールで果たして何とかなるのだろうか。見るからにそれなりに威力のあるファイアー・ボールでもびくともしていない。何しろ的はこれだけ大きいのだから、外す方が難しい。だが、今回は相手が巨大で強すぎる。全力を出しても攻撃が奴に通る保証などまるで無さそうだ。


 だが、くよくよと迷っている場合ではない。


 瞬時にギガ・マンティスを倒した時のように直径30センチほどの火球をワニめがけてぶちかました。


 バシュッ。―――シュキン。


 命中した。


 ……かのように見えたが、ワニの胴体に当たった瞬間、俺の渾身のファイアー・ボールは胴体の丸みに沿って見事なまでに弾き飛ばされた。そして弾道が変わった火球は樹冠を突き抜け、空へとかっ飛んでいった。弾かれた際の金属音がまだ耳に残響ざんきょうしている。


「あー、これはマズいかも」


 さっきまでの威勢はいずこへ。

 もう雲行きが怪しくなってきた。


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