第20話 武器屋で装備を揃えたい


 実はもう一つ懸念があった。それは武器だ。


 もちろん俺に武器の心得など皆無。しかし冒険者は基本、何らかの武器を携行装備品として持っているようだ。


 それはそうだろう。

 皆が皆、魔法だけで戦う訳ではないし、仮に魔法が使えたとしても、残存MP量を踏まえると、槍や剣、あるいは弓矢といった道具が別にあった方がよい。


 仮にモンスターのような魔物と遭遇した際に戦う手段はいくつかある。だが、基本的な戦法としては、魔法がそれなりに使えたとしてもやっぱり武器は欠かせない。必須と言っていい。


 重要なのは自分に合った武器をうまい具合に見つけることだ。この合う、合わないという微妙な差異によって、結果として戦闘力が大きく違ってくる。自分に合った武器を選ぶというのは『自分と向き合う作業』に他ならない。まさしく、生死に直結する命の道具だ。


 俺はさっそく、ギルド会館の近くにある武器屋に足を踏み入れた。


「いらっしゃい」


 抑揚がなく、お世辞にもウェルカムに聞こえない店員のおっさんの声が、人気のない薄暗い店内を漂った。


 まあ、愛想の良し悪しよりも、使えそうな武器の中で相性が良さそうなブツがあるかどうかが問題だ。


 その一点に尽きる。


 と言いつつ、頭の中で購入希望の武器は既にイメージ済みだ。


 あった。


 この世界で長鋼形ちょうこうがたと呼ばれているタイプの片手剣。こいつを探していた。


 長鋼形片手剣はきわめてオーソドックスな武器で、ギルドで見かけた冒険者のおそらく半数以上が所持しているのではないだろうか。


 その中でも軽くて振りやすそうなものを選定した。武器としての用途はもちろん、森に分け入る際に、草などを薙ぎ払うのに使いたいと思ったからだ。


 対して、セラミックのような素材の同系統の剣もあり、そちらは長陶形ちょうとうがたと名が付いている。


 軽くて錆びないという利点があるとはいえ、刃先がやや甘く、衝撃で刃が大きく欠けやすいという欠点がある。なお、追加のメリットとしては、戦闘時にあまり音がしないので、隠密系の任務に長けている。


 とはいえ、俺は日本時代に使い慣れた包丁の感覚が残っているので、買うのは信用のある金属製一択だ。


 ちなみに選んだ剣は魔石を使わないタイプなので、もちろん魔剣ではない。


 魔石をはめ込むタイプのいわゆる魔道武器は遺物そのものか遺物を加工したものであり、そのお値段は『生きた骨董品』と呼んだ方がふさわしいほどだ。


 そもそもギルド専属の上位冒険者や貴族が大部分を囲い込んでいる類だから、こんな一介のペーペーがおいそれと持てるような代物ではない。


 さて、あともう一つ探していたのがこれだ。


 いわゆる万能短剣ばんのうたんけんと呼ばれている護身用の小さな武器。


 これは服の内ポケットなどに入れておくことができ、隠し武器としてはかなり有用なのだ。そして短剣と銘打ってはいるが、刃先はそれなりに大きく、いざという時には調理用にも使えるありがたい剣としても知られている(だから万能剣なのだが)。


 いずれも鑑定スキルで良いものを選んだのは言うまでもない。

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