第10話 会遇
「んん…。ここはどこだ?」
目を開けると、知らない場所に閉じ込められていた。
……なんてことは無く、学校の保健室に寝かされていた。
窓の外を見ると真っ暗で、すでに日が落ち、世界が夜の闇に呑まれてしまっているようだった。
「やあ、ようやく起きたかい」
いきなり俺の目の前に来た女の人はそう言って笑った。
「えーと、保健室の先生ですよね?」
怪しげな雰囲気をまとう彼女に俺は思わずそう尋ねた。
彼女は笑いながら
「あぁ、そうだ見た目は、だがな」
といった。
「どういうことですか?」
俺は、怪しさが倍増した彼女に向けて殺気を放つ、
「くっくっく、そうかっかしないでくれ,老けるぞ。本当に気付いていないのかい、ほら」
彼女がそう言うと、彼女の背中から羽が生えた。
その羽は、廣告が天使に憑依されたときに見た羽とそっくりだった。
「お前、まさか天使か」
「ピンポンピンポーン、大~正~解!おッと、僕に敵対の意思はないよ」
ひそかに、神器をいつでも使えるよう準備していたのがばれていたらしい。
「そんな言葉が信じられるとでも?」
「いやぁ、信じるしかないでしょ。だって…」
彼女は冷ややかな能面のような、ぞっとする冷笑的な薄笑いを浮かべた。
「なんだ?」
「僕は、君たちがとても強いと言っている立花とかいう女を瞬殺した人、いや天使か。君ごとき殺そうと思えばすでに殺してるよ」
「その話が本当なら確かにそうだな。」
俺はそう言いつつも立花先生が負けたことについては、みじんも疑っていない。
なぜなら、こいつには俺たちとは生物としての格が違うと思わせる何かがあるからだ。
「まぁいい、敵対の意思が無いなら、いくつか質問させてもらおうか」
「物分かりが良くてぼくは嬉しいよ、で、質問だっけ、いいよ僕は今とても機嫌がいいからね」
今度は嬉しくてたまらない悪戯小僧のような笑いをその顔に浮かべた。
「じゃあ一つ目、立花先生を殺したのか?」
「んー、NOかな。殺してはいないよ」
彼女はあえて一部分を強調していった。その言葉から俺は、立花先生がおそらく大怪我を負っているだろうことが推測出来た。
「なるほど」
「では、次の質問、お前らの目的はなんだ?」
「ないよ、ぼくらは、目的ではなく過程を楽しんでいるだけだからね。
子供のようにころころ笑いながら彼女は言った。その態度からも、彼女が本当にそう思っているのだろうという事がわかる
「3つ目の質問」
俺はぶっきらぼうに言う。
「はいはい、どうぞ」
彼女は俺とは反対に、会話を楽しんでいるようだった。
今は、いたずらっ子のような表情を浮かべ、話している最中にもなんども表情が変化する。
「お前たちは何者だ」
「僕たちかい?そうだねぇ、まぁ簡単に言えばゲームマスターのような存在かな」
その質問をした時彼女の声はロボットの音声によく似ている、音節の一つ一つを区切って発音するような声へと変化した。さっきまでの表情豊かな顔ではなくなっている。
「はぁ?どういうことだ」
「うるさいなぁもうじゃあ次で最後ね」
苛立たしげに俺をせかした。
「分かった。最後の質問だ、天使、神魔教団を知っているか?知っているなら教えてくれ」その質問をするとき、汗が額からまぶたに流れ落ち、真珠のようにぶらさがる。俺の中の嫌な記憶が、いやでも呼び起こされる
「クスッ、まぁ、少しね」
口元には明け方の三日月のような笑みが浮かんでいた。
「今すぐ教えろ」
俺は、自分の視界が狭くなるのが分かった。あいつらに対する怒りや焦りのため、鼓動が早鐘を打ちはじめる。息が上がり、えもいわれぬ不安で胸が締め付けられる。思考が、氾濫した水で押し流される。渦を巻き、思い浮かべた言葉や感情を、ごちゃまぜにする。俺はその、焦燥感の洪水に身を任せた。激流が頭を搔き回す。
天使からその言葉を聞いた瞬間、男には、理性というものがおおよそ存在しないだろうと思えるほどに、殺気立った。
「どうしようかなぁ、あっ、誰かがこちらにやってきたみたいだ。ごめんね!それじゃあ、バイバーイ」
「まて、教団について教えてからいけ!!」
「仕方ない、そんな君にアドバイスだ。『踊っていてくれたまえ世界という広大な舞台で』この言葉の意味を考えるといいよ。じゃあ、またね」
「どういうことだ?ちっ、消えたか」
終始楽しそうだった彼女は、そう言い残して、まだ戦いの余韻が残る夜の闇に溶けていった。
「あれ、私は今まで何していたのかしら」
俺と、保健室の先生の2人を残して。
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