第43話 三人でお茶会を


 怒っているような様子ではなく、少し不機嫌で文句を言っているという状況のベアトリス。それに対して軽い口調と雰囲気で宥めるリリアンヌ。その空気は親しい関係にしか出せないものだった。


「リリアンヌ……貴女、レティシアを連れ回して何をしていたの」

「違いますよ、お姉様。ちょっとしたお話をしていただけです」

「………………」

「無言で睨まないでください」


 二人は向き合って話し始める。すっかり二人の世界が展開されており、私は一人眺めていた。

(驚いた……お姉様達って仲が良かったのね)

 驚きを感じながらも、滅多にない機会だと思い直すとじっくり観察をし始める。


「ちょっとしたお話って何かしら?」

「世間話ですよ」

「そう」

「はい」

「……待って」

「どうしました?」

「昨日パーティーを欠席したのはレティシアと話すためじゃないでしょうね。だとしたら長時間話してるじゃない。世間話だなんてよくも言えたものね……」

「ですから誤解だと。それに昨日休んだ理由はお姉様がよくご存じじゃないですか」


 リリアンヌが一切取り繕わずに、素を見せている。それは信用している証拠といえるだろう。リリアンヌに嫌味を言いながらも、その中に労る想いが見え隠れしているベアトリスもまた、リリアンヌのことを大切に思っている様子が伺える。


(仲が良いのはもちろん、それだけじゃない。二人は信頼関係が完璧に構築されただ。…………いいな、ああいう何でも言い合える関係)


 二人の関係を少しずつ理解すると同時に、それに対する羨ましさを感じはじめる。


「ではレティシアと話し始めたのは今日が初めてなのね」

「……お姉様、私たちこれからお茶会をしようと思っていたんです。よろしければどうです?」

「誤魔化すんじゃないわよ……」

「ふふふ。それで、どうします?」

「参加するに決まってるでしょう。これ以上抜け駆けはさせないわよリリアンヌ……」

(抜け駆けがわからないのだが……一体何に対してなのかしら)


 実の姉ながら、二人揃うと視界が華やかになる。悪評とは別物のように見えることもあり、雰囲気は上品そのものだ。


「それでは行きましょう。レティシア」

「はい」

「……待ちなさい。どこでやるつもり?」

「私の部屋ですよ?」

「…………リリアンヌのでは落ち着けないから、場所は私の部屋にしましょう」

「本当ですか。ではお言葉に甘えて」

「あ、お邪魔します」


 どうやら今のリリアンヌの部屋は、ベアトリスは気に入らないようだった。ということでベアトリスの部屋に向かい、お茶会を始めることにした。部屋に到着すると、早速リリアンヌが中にいた侍女にお茶菓子を頼んだ。その傍らで席に着こうとすると、一悶着が始まる。


「レティシア、隣に座りましょう」

「リリアンヌ……」

「あらお姉様。ソファーは二つしかありませんのよ?」

「貴女の隣に座る理由は無いでしょう」

「そうかしら。ねぇレティシアはどこがいい?」

「えっ。えっと……」

 

 お上品な火花が再び散り始める。決定権を委ねられたので、答えを提示する。


「お姉様方がそれぞれソファーにお座りください。私は奥の椅子を持ってきますので」


 そう告げると、室内の窓際に置かれた椅子の方へと歩いた。


「残念。引き分けですね」

「……ふん」


 椅子を設置して三人でテーブルを囲むと、ようやくお茶会が開始された。


「…………」

「聞きたいことが山ほどあるっていう顔ね、レティシア」

「は、はい」

「当然でしょ。……何一つ教えてないのだから」

「…………」

(き、気まずい。これ、私場違いでは……?)


 場の空気が微妙なのは明らかに、普段いない異質な存在である自分が原因だと察する。静まり返るものの、長い沈黙にはならないようにリリアンヌが話続けた。


「レティシア。ここまで見ていれば、お姉様も耳にしていた評判と少し違うのは感じているでしょう?」

「はい」

「でも本当に少ししか違わないから安心して」

「え、あ、ははは……」

(それってどういう反応を求めてますか、リリアンヌお姉様!)


 突然反応を求められるものの、笑うことも頷くこともできる状況ではない。ベアトリスをチラリと見るも、あまり表情は変化しておらず不機嫌だと捉えることもできる様子だった。しかし、雰囲気から自然とそれは感じなかった。


「悪かったわね傲慢な姉で」

「やだお姉様。そんなこと一言も言ってないじゃないですか」

「…………」


 悪く言っていると捉えられる表現だが、ベアトリスが気を悪くする様子はまるでない。二人を交互に見て会話についていくものの、ちょっとした気まずさは拭えない。


「……でもリリアンヌの言葉に嘘はないわ。私は実際に傲慢で自分勝手な姉よ。今までしてきたことには、何一つ後悔なんてない」

「……」

「レティシア。私は貴女と話す機会が作れたら、真っ先に話すことを決めていた昔話があるの」


 真剣な眼差しになるベアトリスに、空気が一変する。


「それはきっと貴女が疑問に思い、気になっていることだと思う。でも決して良い話じゃないわ。それでも……聞いてくれる?」


 一変した空気に影響されると、リリアンヌもベアトリスと似た雰囲気を纏い出す。それに反応するように、私は背筋を伸ばして頷いた。


「では始めましょう。貴女が生まれる前のエルノーチェ家の話を」

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