第12話 緋色
気がつくとトビは真っ白な空間に立っていた。
「えっ……? なにここ!? どこ!? なにが起こったの!?」
半ばパニックになりながら自分の手を見ると、光り輝いていて輪郭がはっきりとしない。体も同じように光っている。体の痛みも今は感じない。
わけがわからないまま、視線をふと持ち上げる。目の前にオオタカが立っていた。トビと同じように体からまばゆい光が放たれている。
「おれに力を貸せ。トビ」
さきほどまでの弱り切った表情とは違う。力強く見つめる視線を受け、トビは軽く笑みを浮かべて表情を引き締めた。状況はつかめていないが、オオタカを信頼することに決めた。
「えぇ、わかったわ!」
大きく頷いた瞬間、トビの全身が光に包まれ、弾けた。
バラバラになったトビのパーツが炎のような緋色に染まる。それらがオオタカの足に、腕に、胸に装着され、
オオタカが右手に剣を手にして、それを大きく振り払った。
「オオタカ×トビ
途端、真っ白だった空間は消え、辺りはさきほどまでいた場所に戻っていた。
月明かりに照らされて、緋色の
“……って、アタシは!? アタシはどうなっちゃったの!?”
オオタカの頭にトビの声が響く。オオタカは特に驚くこともなく、口を開いて言葉を発する。
「合体した」
“合体!? 相手の力を奪って能力を強化するって、こういうことだったのね。ていうかあなた、怪我治ってるわね? これも合体のおかげかしら?”
「成功したのは初めてだ。おれにもよくわからん」
“……ちなみに、失敗したらどうなっていたわけ?”
「力を付与する側がバラバラに壊れ、もとに戻らなくなる」
“なにそれ怖いんですけど……”
トビの引き気味な呟きが頭の中で聞こえた直後、哄笑と拍手が闇に響いた。オオタカがそちらへ目を向ける。オジロワシが愉快そうに笑いながら手を叩いていた。
「最高だ! 今まで失敗続きだった実験が、こんなところで成功するとはなぁ!」
“別に、あんたが実験したわけじゃないでしょう”
トビがツッコミを入れるが、オオタカの頭の中で聞こえるだけで、オジロワシの耳には届いていない。
オジロワシが口角を吊り上げながら、見開いた目でオオタカを見つめる。その姿が上から降りてきた黒い物体に隠れて見えなくなる。上空からカラスたちがやってきて、オジロワシの周りに集まる。その数、五十体。
「アレを回収しろ。切り刻んで隅から隅まで調べてやる。壊しても構わねぇ」
オジロワシがオオタカを指差しながら指示を出す。カラスたちはくちばしを開け、現れた砲門にエネルギーを収束させていく。
“このままだと、畑が……”
オオタカの頭の中でトビが呟いた。地上に降りているカラスたちはなんのためらいもなく作物を踏んでいる。
オオタカはさっと身を屈め、地面を蹴って空に跳び上がった。
カラスたちは上を向き、跳んだオオタカめがけて光弾を放った。しかし、光弾はかすりもせずに空のかなたへ飛んでいく。オオタカが両翼の
“速っ!? 高っ!? あなた、翼の使い方わかってる!? あと、なにも言わないでいきなり動かないでよ! びっくりするじゃない!?”
オオタカは雲に届く高さまで来ていた。頭の中でトビが焦ったように文句を言う。オオタカはその場で止まり、何度か翼を羽ばたかせる。
「だいたいわかった」
“なにがわかったのよ……”
オオタカは下を見た。黒い点が近づいて来ている。カラスたちの大群が、オオタカめがけて押し寄せてきた。
「行くぞ」
“ひとの話、聞いてる!?”
トビのツッコミを置いて、オオタカが斜め下へと急降下していく。手にした剣を構え、カラスたちの大群へとまっすぐに突き進んでいく。
黒い群れの真ん中を、緋色の光が突っ切った瞬間。
その軌道に沿って、次々に爆発が起こり、粉々になったカラスの残がいが落ちていった。
“め、めちゃくちゃ強いじゃない……!”
オオタカは翼を羽ばたかせ、後ろへ振り返る。
残りのカラスたちがオオタカを探すようにキョロキョロと周囲を見回している。あと二十体ほど残っているだろうか。
「飛ぶぞ」
オオタカがカラスたちに向かって、今度は斜め上へと飛んでいく。
向かってくるオオタカに気がつき、カラスたちがくちばしを開いて光弾を乱射してきた。
“あんなにたくさん!? 避けきれる!?”
オオタカは前進しながら、目の前に飛んできた光弾をさっと横へ動いてかわした。さらに上へ下へと機敏に進路を変えながら進んでいく。翼にあるひとつひとつの羽に埋め込まれた
“いけたっ! よーしっ、どんどん倒しちゃうわよ!”
カラスの群れまでたどり着き、まず一体。目の前のカラスの胴を、剣で真横に叩き切る。カラスは内部の部品を散らしながら腹の上と下で二つに分かれ、次の瞬間、爆発する。
オオタカは散っていく残がいに目もくれず、近くにいた別のカラスの胸を斜めに斬る。さらに隣にいたカラスのコアを突き刺す。
“後ろから弾が来るわ! 次は右! 今度は上からよ!”
オオタカと合体したトビは、全方向を把握できるようになっていた。カラスに囲まれる中、光弾が飛んでくる位置を確認して、オオタカに伝える。オオタカはそのたびに翼を羽ばたかせて光弾を避け、攻撃に転じる。カラスたちの放火は当たらず、かすりさえせず、数はみるみるうちに減っていった。
“あと一体! やっちゃえぇーーーっ!”
最後のカラスを袈裟斬りにする。カラスはまるで紙のように斬れて、爆発音が辺りに響く。
“すごい! あんなにたくさんいたカラスをあっという間に倒しちゃった!”
頭の中で、トビが跳ねるような弾む口調で言った。オオタカは空中の一点にとまったまま、なにもいなくなった空間を見つめている。
次の瞬間、オオタカの背後から、唸るような音を響かせる大鎌が、頭に向かって振り下ろされた。
“オオタカ!? 後ろっ!?”
はしゃいでいたトビが、一瞬遅れて声を上げる。
オオタカがその声を頭の中で聞くより早く剣を上げ、振り下ろされる大鎌を受け止めた。刃が回転刃に当たり、激しく火花を散らす。
「まさか俺様の出番が来るとはなぁ。まぁいい。この手でバラバラに切り刻むのが楽しみだ」
やってきたオジロワシが、口角を吊り上げて嗤う。
“あんたなんかに、絶対負けないんだからっ!”
オオタカは剣で大鎌を押し退け、いったんオジロワシから距離を取る。
遮るものがない空の中で、剣を持つオオタカと、
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